• ホラー
  • SF

陰VISIBLE OF THE DEAD、あとがき

 今年の九月一日より連載を開始していた長編作品『陰VISIBLE OF THE DEAD』を完結させました。
 僕がこれまで書いてきた連作短編の形式ではない長編作品としては三作目に当たりますが、以前公開していた近況ノートに記した通り、実は三年前——長編二作目の『生命の膿』の前に書き上げていたものなので、実質としては、こちらが長編二作目と呼んだ方がいいのかもしれません。

 今現在公開している僕の作品の中では二十八万字と、最も文字数の多い長編となっていますが、実はこの『陰VISIBLE OF THE DEAD』は元々、短編として構成するつもりでした。これも以前公開した近況ノートに記していたことですが、きっかけは〝学校中の人間から無視されるいじめを受けていたから、ゾンビパニックが起きて学校中の人間がゾンビになっても生前の習性が残っているせいで無視される少年〟というアイデアを思いついたことが始まりでした。(設定が某作品と似通っていることに気が付いて云々は、その近況ノートに説明、もとい弁明を記しているので、そちらをご覧ください)
 当初、僕はこのアイデアから、

〝いじめの一環で体育倉庫に閉じ込められていたら、ゾンビパニックが起きて学校中がゾンビだらけになり、命からがら脱出したら、学校中の人間から無視されるいじめを受けていたから、生前の習性を残していたゾンビから無視され、自分だけは特別だと喜んだが、すぐに孤独だということに気付いて絶望し、ふらふらと学校を彷徨っていたら、屋上で唯一いじめに加担していなかった、自分のことを無視しなかった、想いを寄せている女子のゾンビに遭遇し、無視されずに襲われて噛まれ、「ああ、君は僕を無視しないんだ。噛んでくれてありがとう」と感謝しながらゾンビ化して死ぬ〟

 という物語を組み上げて、形にしようとしていました。
 今にしてみれば、こちらの方が物語としてソリッドにまとまっているし、スパッと終わっていいなあとは思うのですが……。
 当時、僕は物語の最後に主人公が絶望して死ぬという話ばかり書いていました。長編も短編も差異はあれど、そういった結末で物語を終わらせることが多かったのです。
 故に、似たような結末ばかり書いていては芸が無いのではないか、と思い立ちました。加えて、いじめられている孤独な少年という設定にした主人公のことが無性に不憫に思えてきてしまい、別の結末に変えようと画策し始めました。
 そうこうしている内に、前述した通り、某作品と設定が似通っていることに気が付いて、絶望することになるのですが、最終的に、きっと示したい方向性は違うからこうなったら批判覚悟で好き放題やりたいことを詰め込んだものにしようと開き直って、きちんと形にすることに決めました。

 そこからは、あっという間でした。好き放題やろうと決めたからには、ゾンビものでやりたいこと全部やろう、キャラクターも設定もぶっ飛んだ趣味全開のものにしようと思い、心のリミッターを解除し、脳内の中二病エンジンをオーバーヒート寸前まで回転させて、物語を再構成し始めました。
 そして誕生したのが、樫見サキナというキャラクターです。死ぬはずだった主人公を救う為に、趣味全開のヒロインを乱入させて、無理矢理、物語を前へと突き動かしました。前述した、当初構想していた物語が第一章の物語そのままなのは、その名残です。
 それだけでなく、主人公にウォークマンで孤独を癒している少年という属性を付与させたり、ゾンビをパシリとして使役するヤンキーや、オタクゾンビを従えたオタサーの姫、亜ゾンビ化して超能力者になったかつての親友など、思いつくままにヴィランを登場させたり、アメコミヒーローものの要素を取り入れたり、学校、家、ショッピングモールなど舞台をコロコロ変えたり、もう一人の自分というネガ的精神要素を取り入れたりと、とにかく無制限に自分の好きな要素を詰め込みました。
 劇中に頻繁に登場するロックバンド、〝Hump Back〟もそのひとつです。死を否定するのならば、徹底的に生きることへの賛歌にしてやろう、生への賛歌、人間賛歌、青春賛歌を力強く歌うロックバンド〝Hump Back〟の曲が全編に渡って流れ続けているような物語にしようと思い立って、登場させました。ちなみに執筆時も、ずっと〝Hump Back〟の曲を聴いていました。(もし、ファンの方がおられて、今作に登場することに不快感を覚えた方がおられるのならば、本当に申し訳ありません)

 そんなことになったのも、執筆を始めた頃に勤めていた職場で酷い目に遭っていたので、辛い現実から逃避しようと自分を救う為にわがまま放題に書いていたからなのかもしれませんが、そんなこんなで完成させた『陰VISIBLE OF THE DEAD』を、なぜ二年ほど凍結させていたかというと、とある公募にひっそりと応募していたからです。
 無論、あっさりと落ちました。今にして思えば、ミステリーでもなければホラーでもない上、大して本を読んでいなければ学も無い馬鹿が書いた駄文の塊を公募に送り付けるなど、正気の沙汰ではないので、当時、公募の審査に関わっていた方々に土下座して謝りたいです。もし、タイムマシーンがあれば、当時の自分を金属バットでぶち殺して世界線から消失してしまいたいほど後悔しています。が、当時の僕は、その公募に自分の作品を送るということが毎日を生きる目標になっていたので、仕方ないことだったかもしれません。人様に迷惑を掛けたことに変わりはありませんが。
 故に、僕は『陰VISIBLE OF THE DEAD』をひっそりと封印するつもりでした。いつかカクヨムで公開しようかとも考えていましたが、駄作の烙印を押されたものを公開するのもどうかな思い、なんとなくタイミングを逃したまま、ずっと凍結させたままにしていました。
 が、今年の五月頃、僕はとある別のホラー作品に着手したことによって精神をボロボロにやられてしまい、未発表のまま削除するという事態に陥りました。
 それに関しては、別に幽霊の呪いなどという怪異めいた原因は無く、単に僕の力量不足によって引き起こったことなのですが、あまりに自分の精神の黒い面と向き合ってしまったせいか、書いている内に自分で自分を追い詰めてしまったのです。
 これ以上向き合ったらまずいことになると思い、九万字ほど書いてお蔵入りにしたのですが、それ以降も精神が参ってしまったのか、しばらく新しいものを執筆する気が起きませんでした。
 そんな最中、僕はふと『陰VISIBLE OF THE DEAD』のことを思い出しました。
 何気なく読み返してみると、本当に酷い文章と構成ではあったものの、馬鹿馬鹿しいくらいに自分の好きなものが詰め込まれているなあと、少し懐かしくなりました。
 その際、精神が落ち込んでいる今こそ、楽しさを優先して好き放題に書いたこれを解凍させる時なのではないかと思い立ったのです。
 そして、もう一度、一から構成を見直し、申し訳程度の薄いミステリー要素を見様見真似で組み込み、新たに作品として完成させました。

 結果として、改稿後は四万字ほど増えましたが、作品の根幹は何も変わりませんでした。ゾンビものという壮大な舞台を用意しておきながら、やっていることは学校や家庭といった環境での狭苦しい人間関係に悩む鬱屈した少年少女たちの青春という、とても小規模なスケールの物語に過ぎません。
 その上、好き放題わがまま放題にやったのだから当然のことなのかもしれませんが、この『陰VISIBLE OF THE DEAD』は、出来は別にして、見苦しいほどに〝僕〟を反映させたものとなりました。
 いつもうじうじと僕、僕、僕、見苦しいほどに僕、僕、僕と自意識を肥大化させて、自身の置かれているミニマルな環境を思春期全開の中二病めいた思考回路で、世界だ何だと無駄に壮大に捉えては、うじうじと悩み泣き喚く〝陰〟な主人公、透野明はもちろんのこと、クラスのカースト上位に立つヤンキーを殺し、命を救ってくれた不良少女ヒロインとイチャコラし、友情を蔑ろにした姫様気取りのゴスロリ少女を酷い方法で殺し、ロックンロールでヒロインを励まし、最後には自分を裏切った親友を殺すという……どこまでも自分勝手で見苦しい話です。
 物語を通して掲示したかったものも、孤独からの脱却、無償の友情と愛の獲得、中二病に罹患したはぐれ者側からの同調圧力への暴力的反発、家族愛の否定など、〝僕〟の醜い欲望がぐちゃぐちゃに炸裂していて、本当に見苦しい――正しくゾンビのような作品です。
 これまで主に怪談しか書いてこなかったので、もし僕の作品を好んで読んで頂いていた方がいるとするのなら、心の底から落胆させてしまったかもしれません。「こんなキモい話を書く奴だったのかよ」と見限られたとしても、仕方が無いことだと思います。

 それでも、僕は『陰VISIBLE OF THE DEAD』を公開することができて、良かったと思っています。色々と紆余曲折はありましたし、連載中は顔から火柱が上がりそうになるほど恥ずかしかったですが、ここまで書いていて楽しかった作品も無いので、最後まで公開、完結させることができたのは嬉しいです。元々はこういう中二病めいた話ばかりを空想していた馬鹿ガキなので、こっちの方が僕の本体なのかもしれませんが、なんだか一つ吹っ切れたような気がするので、今後は怪談だけでなく、僕なりのファンタジーな話も書いていきたいと思います。
 ちなみに、僕は未だにあかるとサキナの行く末を案じているので、いつになるかは分かりませんが、続編は書こうと思っています。構想だけはぼんやりとありますが、まだ形にはなっていないので、僕がまた好き放題わがまま放題やりたい気分になったら、書き始めることになると思います。誰からも望まれていないかもしれませんが、どうせ僕は自分の為にしか書くことができないので。

 とまあ、アホの素人物書きの癖に格好をつけて長々と垂れてきましたが、最後に、今作を読んで頂いた方々、応援やレビュー、コメントをして頂いた方々、また、Twitterで宣伝する度にいいね&RTで応援してくださった方々、前述した近況ノートに励ましのコメントをして頂いた方々に、多大なる感謝を申し上げます。連載中、とても励みになっておりました。
 とてつもなく馬鹿げたゾンビホラー青春譚を温かい目で見守って頂き、本当にありがとうございました。

 蛇足

 Twitterの方で〝#陰VISIBLEOFTHEDEAD〟で検索して頂けると、僕が連載中にぼちぼちと呟いていた今作のトリビア的ツイートを見ることができます。物語の根幹に関わるような重要な裏設定などは呟いておりませんので、お暇な時にでも御覧頂けると嬉しいです。



 追伸

 今年の初めに長編を複数公開させると宣言していた通り、近々、また別の長編の連載を開始しようかと思っています。今作は二十八万字の長編でしたが、今度のものは三十四万字と、またかなり長い話になってしまうのですが、ある意味で、『陰VISIBLE OF THE DEAD』と同じくらい、また〝僕〟というものを反映させた作品となっております。
 それも、悪ふざけのようなゾンビホラーではなく、怪談をやるつもりです。個人的な作品に対する充足感としては、ずっと越えられないでいた拙作『異喪裏—イモリ—』を超えるつもりで書きました。
 これもまた、人によってはこんなのホラーじゃねえよと言われてしまう作品かもしれませんが、どうかまた、連載にお付き合い頂ければ幸いです。 恐惶謹言。

1件のコメント

  • 読了後に読ませていただき、さらに感銘を受けました。自分を解放するような作品をいつか書いてみたいものです。

    大長編お疲れ様でした。
    文字数を見てビビったのですが気がつけば一気に読んでしまいました。

    いつか椎葉さんの作品が書店に並ぶことを楽しみにしております。ホラー文庫とかで。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する