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生命の膿、あとがき

 カクヨムにて、年始から連載していた『生命の膿』を完結させました。というより、完結させていました。
 僕が書いてきた中では、四作目にあたる長編……と言いたいところですが、『13人目のサイコパス』も『怪異—百モノ語—』も連作短編の形式に近いので、きちんとした形式の長編としては二作目といったところでしょうか。
 今作は、去年の暮れにカクヨムコンが開催され、その部門にホラーがあると知り、書き始めた作品でした。なぜ、今頃になって後書きを公開しているかというと、先日そのカクヨムコンに落選したからなのですが。
 今作の構想自体は、実はかなり前から僕の中にありました。元々は短編として構成しようとしていたのですが、ああ、これ、尾ひれ背ひれを付ければ長くできるかもなあと思い、カクヨムコンの応募に合わせて今一度プロットを練り直し、長編に仕立て上げてみた次第です。
 今作を構想し、執筆するまでに至った根源的なきっかけは、主に二つあります。
 まず一つ目は、2014年に角川ホラー文庫から刊行された福澤徹三先生の著書『忌談3』の中の一編、『医療廃棄物』を読んだことにあります。
 このエピソードはかなり強烈な内容で、僕の頭の中に強く残っていました。今作の筋書きの背骨といってもいいかもしれません。(正直パクリと言われても仕方がないレベル)
 また、併せて掲載されていた、2004年にY市の病院で起きた実際の事件内容も、とても痛ましいものでした。今作を執筆するに当たって色々と調べましたが、次々に出てくる情報が本当に目を覆いたくなるほどのものばかりで、構成していく内に精神がごりごりと削られていくのを感じていました。
 ちなみに、今作にも記している通り、2022年現在も妊娠十二週未満の胎児は医療廃棄物として捨てられているようです。
 そして二つ目ですが、僕が過去、とある人物と出会ったことにあります。
 その人物は、別に有名人でもなんでもありませんでした。平凡な地で平凡な日常を送っていた僕と出会うくらいですから、いわゆるその辺にいる人、としておきます。人となりについても伏せますが、僕よりも年上の男性、とだけ。
 僕はその人と、短期間でしたが、一緒に過ごす時期がありました。僕は元来、人見知りの性格なのですが、その頃は既に社会に出て年数が経ち、それなりに人間関係の築き方を心得ていたので、それはそれと割り切り、その人と会話をしていました。
 すると、向こうも社会をそれなりに経験した立場とあって、割と会話は弾みました。内容は男同士がするくだらない趣味的なものが多かったのですが、やはり向こうが年上というだけあって、時折自慢話に近いものもたくさん披露してくれました。
 それについては、僕も「ん?」と思うものもいくつかありましたが、それはそれ。僕は人生の後輩として感情を押し殺し、日々、作り笑顔で聞き役に徹していました。
 そんなある日、会話の弾みからか、その人物は僕にある言葉を言い放ちました。
 その文言については、誰しもが不快に思うであろうこと、僕自身も文章として起こしたくないこと、そして万が一のことを考えて、ここに記述することはしませんが、僕はその言葉を聞いた時、ぼんやりと、
「ああ、この世界に、悪魔って本当にいるんだなあ。悪魔って、こんなにも身近に、こんなにも普通のなりをして、こんなにも平気な顔をして存在しているんだなあ」
 と、感じたのを覚えています。その時ばかりは、作り笑顔が保てなかったことも。
 それからも、僕はその人物と会話をする機会がふんだんにあり、僕はひたすら感情を殺して、聞き役に徹していました。人生の後輩なのだから、社会に身を置く立場として、その人物と良好な関係を築く為に。例え、本質がどんな人間であろうと。
 そんな折、僕は会話の中で、おだて役の後輩として、その人物に対してこんなことを言いました。
「なんだか、○○さんって、主人公みたいですねえ」
 その人物はその言い回しがとても気に入ったらしく、御満悦の様子でした。
 長くなりましたが、以上が今作を構想し、執筆するまでに至った二つの根源的なきっかけです。もちろん、今作は完全なるフィクションですし、登場する人物や地名は全て架空のものです。
 今作をカクヨムコンに合わせて公開するにあたって、僕自身はかなり迷いました。
 扱う内容が内容なだけに、こんな作品を書いても大丈夫だろうかと、書いている最中も、書き終えた後も、ずっと悩み続けていました。精神が擦り減り、不眠に近い状態にも何度か陥りました。物語の終盤、根本の展開を明かす章を公開した日の夜など、身体がぐったりとして気力を失い、ベッドに倒れ込んで何もできなくなってしまったほどです。
 結局、最後まで公開し、完結させてしまったので、僕は今作を書いた人間として、今後もずっと存在していくことになります。
 今作を読んで不快になった方もいるかもしれません。その際は、僕に対して容赦なく批判の声を投げつけてきてください。僕はそれほどのことをしたつもりです。
 ただ、僕はこの話を書かざるを得ませんでした。ですから、僕自身はそれを受け止めることしかできません。ですので、今後も今作を改変、編集するつもりはありません。このままの形で残しておきます。どうかお許しください。
 ここまで言っておいて何ですが、今作を読んでくださった方々、Twitterで宣伝の度にいいね&RTをしてくださった方々、応援やレビュー、コメントを頂いた方々に、感謝を申し上げます。日々、擦り減り続けた精神の励みになっておりました。本当にありがとうございました。
 今後も、蔑みながら見守って頂ければ幸いです。

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