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授兆

新しいアイデアを考えました。今のところそのアイデアを”授兆”と呼んでいます。
 授兆は人間の体内に起こる自然現象です。
 以下がその例です。
”腹内降雨

 かなたはニカを待っていた。
 その日、かなたのお腹の中で雨が降っていた。とめどなく降り続ける雨でかなたの胃液は真水と変わらないほど薄くなった。雨は胃がいっぱいになるまで降り続け水嵩が喉までのぼってくる。
 「ちょっと。あんた、机が水浸しだよ。」
 ニカのシャボン玉が割れた。ニカが布で何度拭いても机の水はなくならなかった。何と言ったって机の上には常に新しい水が落ちてきていたのだから。
 かなたの鼻から口から耳から目から水が延々と溢れ出して机の上を濡らしている。かなたの身体の中は甕のように水でいっぱいになって今はもう溢れ出すしかなかった。
 かなたは全身で泣いているみたいだった。かなたは頬杖を突きながら自分の全身の穴という穴から水が溢れだすのを受け入れている。かなたにはただ、お腹に降った雨が止むのを待つしかなかった。

 いつからだろう。冥臓が発見されたのは。”

 その日、御子の心臓は晴れていた。陽の輝きが心室を隈なく照らして、そこから送り出される眩い血流が御子の全身を温めていく。
 誰がはじめか、人々は御子のことを光る君と呼び申し上げ始めた。
 光る君の眼差しを受けた者は骨の髄まで明らむようなそんな温かさを感じた。光る君に触れた者はその手はまるで極楽の光に温められたみたいに幸せの味に浸った。”

 その夜、桐壺の体内に月が出ていた。まるで、霊化した陽ざしのような月灯りが桐壺の身体を内側から透かしていく。帝が御簾を開けた時、そこには艶めかしい骨体があった。骨は女体のように艶やかに仰け反りながら月灯りをにじませていく。そのうちから出る透明な月光にぬれていくうちに骨がだんだんと肉付いて、豊かな長い髪の毛が帝の目から骨体を隠していく。急に、世界が瞼を閉じたみたいに真っ暗になった。骨まで凍えるような冷気と音のない時間が帝の身体を心底こわばらせた。そして、まるで世界が瞼を開けたみたいにあっけなく光景が戻って来る。
 帝の前では髪で顔を隠した女が無に凭れ掛かるような傾いた姿勢で座っている。帝が指先を震わせながらその髪の毛を掻き分けた。そうして、現れたのは桐壺の愁いを帯びた瞳だった。その弱弱しい桐壺の姿があまりにも美しくて、帝は彼女を抱きしめた。


 受兆の例をいくつか考えました。

”心臓が拍動するたびに体内で雷が生じた。雷は血の流れに乗って身体を循環し呪いを一つ残らず焼き焦がした”
”ニカの肺に風が起こった。その風はニカの肺をずたずたに傷つけながら大概に吐き出され、城を一つ倒してしまった。”
”かなたのお腹に雪が降った。雪は胃がいっぱいになるまで降り積もった。かなたのお腹は鎧のように固く槍をはじき返すほどだった”

”ある冬の日に、藤壺の肺に花が咲いた。寒気を吸っても、病魔に襲われても、息を止めても、肺に咲いたその花は枯れなかった。光る君が藤壺に甘えて抱き着くたびに、その蜜のような香しさがした。光る君はそれが不思議で不思議でたまらなかった。ことあるごとに光る君はその香りを思い出し藤壺の元へと通ったのだった。光る君が12歳になった今は、昔のように藤壺と会うこともできなくなった。光る君は花の香りをかぐたびに藤壺への思いを募らせていくのだった。”

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