シン・始皇帝では月氏のリーダーを女王としていますが、実際この時期の月氏のリーダーがどのような人物だったかは全くわかっていません。月氏は謎の多い民族で、匈奴のように史記に列伝も立てられておらず、その実態がよくわからないのです。
ただ、後に漢の武帝の時代に張騫が大月氏に赴いたとき、月氏には女王がいました。騎馬民族のリーダーが女性なのはかなり珍しいですが、この時点では大月氏はすでに定住の民族となっていました。
小説の中の鷲獅子というのはグリフォンのことです。グリフォンはスキタイの美術品の中にも出てきますが、月氏はアレクサンドロスが中央アジアを制服した時東に追い払われたスキタイの一種という説があります。実際、アルタイ山脈付近でスキタイ文化の遺物が出土しています。匈奴はスキタイの影響を受けて騎馬民族化したと言われていますが、そのスキタイとは月氏のことなのかもしれません。
月氏がスキタイなのだとすれば、後に匈奴に西に追い払われ大月氏となったのは結局故郷に帰ったということになります。西のアレクサンドロスと東の冒頓単于という二大英雄に翻弄された月氏もなかなか数奇な運命を辿ったといえます。