• 現代ファンタジー

リーディス編の意味


 12歳のミツルと、前世の21歳の美鶴の意識は、同一人物の内面において時間差で存在した異なる位相の心理を表している。すなわち、中には幼少期(ミツル)の感情と、成人期(美鶴)の感情が共存し、やがてそれらは一つの統合された人格へと収斂していく。

1. 内面的な力動
(1) 父性への郷愁と依存欲求
 12歳のミツルにとって、ヴィルは「失われた父性」の代替対象であり、守られたい、甘えたいという深い欲求が投影されている。

(2) 成人女性としての魅力認知
 一方で21歳の美鶴は、ヴィルを成熟した大人の男性として捉え、彼に対する憧れや好意、尊敬、さらには微かな恋愛感情に近い揺らめきを感じている。

2. 二重の心理状態の同居と葛藤
 上記の二つの欲求(父性への甘えと男性への関心)が、内面で同時に動いているため、当初は統一性を欠き、微妙な戸惑いや矛盾した態度を引き起こす。

 優しくされると子供のように甘えたい気持ちが浮上するが、それを素直に表すと、自分がすでに大人の女性であるという認識と衝突する。

 同時に、成熟した男性としてのヴィルに惹かれる感情を抱くことも、かつての幼い自分の感覚との間で不整合を生み出す。

3. 行動・態度への表出
 対ヴィル態度は、微妙な一貫性の欠如として現れる。

 甘えたいのに大人びて振る舞おうとして、ぎこちない態度になる。

 一瞬後には自立した女性の落ち着いた口調で話そうとする。

 このような微妙な感情の揺らぎは、周囲から見ると分かりにくく、ヴィル自身も「子供っぽく甘えるかと思えば成熟した女性らしく振る舞う」不思議なアンバランスとして感じるだろう。

4. 内的統合へのプロセス
 しかし、21歳の美鶴は12歳ミツルを「不幸せにはしない」として、やがてその感情を否定せず、「甘えたい時は甘えていい」「子を育てたいという願望も自分の成長の一部として受け入れよう」と考えるようになる。これにより、幼い部分を無理に押し殺す必要がなくなり、内面の抵抗感が減少していく。

 リーディス編はそのプロセスとして重要。

 甘えることを自分の一部として認めることで、素直な感情表出が可能になる。

 ヴィルへの好意や憧れも自然な心理として受け止められ、「大人としての私」と「かつての幼さ」を断絶せず、一続きの自己として把握できる。

5. 統合された人格としての成熟
 さらに時間が経てば、当初の二重性はスムーズな統合を遂げ、美鶴は肉体年齢相応の安定した人格となる。

 父性への渇望は、対等で信頼しあえる関係性の中で温かな依存やサポート欲求として昇華される。

 大人の女性としての好意や恋愛感情は、自分のアイデンティティと両立し、将来への展望(例:母性の発現や家族形成)とも自然につながる。

 結果的に、ミツルは「子供っぽい感情も含んだ成熟した大人」として、一貫性と安定感を備えた心性を獲得し、ヴィルとの関係においても無理なく自分らしく関われるようになっていく。

 このように、幼少期の父性への憧れと成人女性としての好意の狭間で揺れ動きつつも、自分自身の成長過程を許容していくことで、最終的に心理的成熟と統合を達成し、より自然な形でヴィルとの関係を育んでいくことができるようになる。

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