「066 第二十七話 ミヤビとバンバラ(半閑話回)」の関連エピソードです。(一部改変 ネタバレ有)
【時間跳躍 アリサのいる時空へ 02】402より抜粋
『時間逆行法第三部第三章第二節!一年の時の流れよ!ユリウスの魔力を糧として、今いま逆行せり!』
― キュイイイイイイイイイイイイイイイイイ……
俺達は遡る事一年前のアカーパレスの前に時間跳躍した。
「まだ死んでいますね」
『でも死体は新しい。しかしミイラのように変貌してる。妙な死体です』
「まるでダーシュ様に魔力と精気を吸われた加藤弾のようだ」
「『 ? 』」
いやなんでもない、こっちの話。
ここからは一日ずつ時間を逆行していく。
そしてそこからさらに七日程逆行したところで、俺の眼前に全くの予想外な事態が起きていた!
それは二人の女性が不敵な笑みを浮かべながら、邪竜アパーカレスと対峙している様子だった!
そしてその二人とは……
「な、なんでこいつ等がここに!?」
「わ、私この二人知っています!」
『【古の隠者】と【絶望の聖女】……』
「「『 ブリジット・ライカーとマルタ・ノッカータ!!! 』」」
三人揃ってブリジットとマルタの名を叫んだ。
え、待ってくれ。なんで二人がブリジットとマルタを知っているんだ!?
疑問には思ったが、今はそれどころではない。
目の前の状況は一触即発直前なのだ!
不敵な笑みを浮かべ、ブリジットは邪竜アパーカレスと折衝しているようだ が――
「では、どうあっても我々に下る気はないのですね?」
「クドイ、人間ゴトキノ軍門ニクダルホド我ハ落チブレテハオラヌワ!」
「ならば仕方ありません。死病を司る邪竜アパーカレス、せめて我々の糧となっていただきましょう!」
「舐メルナ、人間ドモ!」
― ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
アパーカレスの瘴気混じりのアイスブレス!
「始めやがった!しかしあんな至近距離では、いかにあの二人でもやられるぞ!?」
― ピキンッ!
しかしアイスブレスはブリジットとマルタの前で、見えない壁に遮られた!
「申し訳ございませんが、時間が惜しいのでさっさと終わらせます。エスカードレイン!」
ブリジットの手の平が青白く光ると同時に、アパーカレスの全身から魔力と精気が搾り取られ始めた!
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
邪竜アパーカレスが断末魔を上げながらどんどん精気と魔力を吸われ、やがてミイラ化して崩れ落ちた。
『そんな!あのアパーカレスがあんなにアッサリと!?』
かつて命がけでアパーカレス封印に成功したバンバラは、驚愕の表情を浮かべる。
そして次は俺が驚かされた!
「な、あれはまさか!?」
アパーカレスの精気と魔力が凝縮されていき、それは拳コブシほどの魔石へと姿を変え地面に落ちた!
「まさか黒魔石か!?」
そう、それは間違いなくテラリューム教の裏で流通し、ルイスとネストルにも埋め込まれたことのある魔石……黒魔石だった!
その黒魔石をマルタが手に取りマジマジと調べる。
しかしすぐ眉間にシワを寄せた。
「同志ブリジット、これは駄目ですね。濁りが多くて使い物になりません」
「本当ですね、それにアパーカレスの意思も残ったままのようです。使い道も無さそうですし捨てますか……おや?」
なんとブリジットがこちらを向いた!
「そこの者、こちらに出てきなさい。出てこないと今すぐ殺しますよ」
「おい、バレてるぞ!」
『そんなバカな!?』
「だって二人してこちらを向いていますよ!」
しかし狼狽する俺達とは視線が少しずれている?
「違う、俺達以外に誰かがいるんだ!」
俺達はブリジットとマルタの視線を辿ろうとしたが、その瞬間キロリとマルタの眼球が動いた!
「ふふふ、もちろんあなた達もね」
「「『 やっぱりバレてる! 』」」
信じられない事に、位相を変えこの時空に存在しないも同然の俺達を、マルタはいともたやすく気が付いた!
「時空傍観者とは珍しい。干渉は出来ませんが阻害だけしておきましょうか。パーティカルチャフ!」
― ブワッ!
マルタが突然右腕を広げ、魔力が迸る!
刹那、俺達は謎の粒子に遮られ目と耳を奪われた!
微かに人影とノイズ混じりの音がとぎれとぎれ聞こえるが、何を言っているのか聞き取りはほぼ不可能だ。
「マジか!」
『これは時空傍観者の目と耳を奪う時空魔粒子!?そんな、私達の存在は感知できないはずなのに!?』
「し、信じられない……」
もうこれでこれから何が起きるているのかわからない。
『やられました。位相が違うせいで直接攻撃はされませんが、目と耳を奪われましたね』
「一番肝心なところで……て、何をしているんです?」
俺はしかめ面をしながら、なんとか音を拾えないかと集中する。
「冒険者……血を引くもの……出来損ないの黒魔石……引き出す……乗っ取り……ぎゃああああ……うむむむ」
『凄い、こんなノイジーなのに聞こえるとは!』
「流石はユリウスさんですね!」
二人は感嘆するが状況は思わしくない。
これ以上の情報を得る事が出来なかったのだ。
やがて謎の粒子が薄まった時、邪竜アパーカレスの亡骸を残して人の姿は無かった。
【考察 01】403
やがて謎の粒子が薄まった時、邪竜アパーカレスの亡骸を残して人の姿は無かった。
俺達は状況を調査し始めた。
「俺達以外の来客は一人だけだったようだな。一人分の足跡が広間に残っている」
「帰りの足跡も残っていますし、殺されたわけではないようですね」
『そしてアパーカレスは絶命しています。おかしい、辻褄が合わない。一年も前から死んでいたなんて……じゃあ復活竜はどうやって?』
さらに何か手がかりはないか調べていると、煙が僅かに漂っている事に気が付いた。
「随分と白い煙だな。まるで肉を焼いたような……まてよ、肉?」
俺は自分の記憶をほじくり探る。
『黒魔石を胸に埋め込まれた時、どんな感じだったかって?そりゃあ「ぎゃああああ!」って悲鳴をあげたさ。押し付けられた黒魔石が灼熱で胸の肉を焼いて煙濛々だったよ』
これはネストル事件の後、ルイスとの聞き取り調査による証言だ。
「アパーカレスの意思が黒魔石に残っている……冒険者……血を引くもの……出来損ないの黒魔石……引き出す……乗っ取り……ぎゃああああ……もしかすると……」
【血を引くもの】とは、その謎の男……恐らく冒険者?の血統が何か特殊なのではないか?
【出来損ないの黒魔石】は邪竜アパーカレスの意思が封入されている欠陥品。
【ぎゃあああ】と煙は、ダンジョンに現れた冒険者?の胸に黒魔石が埋め込まれたため?
そして【黒魔石に封入された邪竜の意思】は、冒険者と共にダンジョンの外へ。
「これが俺の考えだ。完全な正解では無いだろうが、当たらずとも遠からずくらいの自信はある」
そう言ってバンバラとミヤビの意見を待った。
『アパーカレスは1年前に魔石化してダンジョン外に出た……それなら復活竜が現れ始めたのも頷けます。』
「私もそう思います。今のところ、他に辻褄の合う理由なんて思いつきません。最近になって復活竜が多数出現し始めたのは、黒魔石化したアパーカレスの復活が近いからではないでしょうか」
その後も何か手がかりになるようなものは無いかと探したが、もう何も見つからなかった。
「とりあえず元の時空に戻って考えないか?日の光も恋しいし」
二人は同意し、俺達はまた積層型立体魔法陣に包まれたのだった。
「で、邪竜アパーカレスってのはいったい何なんだ?」
俺は邪竜アパーカレスの事を何も知らない。
いったいどんな邪竜なんだ?
ブリジットとマルタは何故アパーカレスに目を付けた?
『邪竜アパーカレスは500年前にリットールを中心に猛威を振るった邪竜です。私とガンツは壊滅した召喚勇者を多数含む召喚者部隊に代わり、リットール最後の希望としてアパーカレスの討伐に向かったのです』
「召喚勇者部隊?」
『はい。異世界より召喚した召喚勇者を含む召喚者達からなる討伐部隊です。当時はまだアドレア連邦発足前でして、リットール・マハパワー・フェレングによる三国の召喚者達がアパーカレスの討伐に向かいましたが、眷属の復活竜はともかくアパーカレス本体にはまるで歯が立たず全滅しました』
「なんだって?召喚勇者達が束になってかかっても全滅したのか!じゃあ当時の真正勇者達は何をしていたんだ?」
『真正勇者と女神の使徒達は、邪竜アパーカレスを生み出した【はぐれ竜族一派】の討伐に向かっていました。この異端の竜族達は、女神と人族に明確なる敵意を持っており、放置しておけば第二第三のアパーカレスを生み出す恐れがあったのです。なお【はぐれ竜族】の方は、最終的に真正勇者側が勝利しました』
「アパーカレスはただの邪竜じゃないわけか。だが召喚勇者達が束になってかかっても倒せないとは……真正勇者なら勝てたのだろうか?」
『駄目でした。眷属の復活竜とは違い、アパーカレスは【人族と女神の使徒をあらゆる方法で殲滅するために特化した邪竜】です。あの邪竜は聖属の力を糧として己の魔力を増大させることがます。真正勇者が一時的にアパーカレスを消滅させたとしても、翌日には膨大な残滓魔力によってより強力になって復活してしまうのです。一時しのぎにしかなりません』
「伝承どおり厄介な相手ですね……お母さまたち、よくラミアの祠を守り切ったものだわ」
ミヤビがシミジミと呟く。
なるほど、ブリジット達がアパーカレスを欲した訳だ。対女神の使徒のスペシャリストとはな。
「そんな相手が黒魔石化して冒険者に憑りついたってのか、中々面倒だな。しかし復活竜の出現はともかく、一年も経っているのにアパーカレス本体が名乗り出ないのはいったい何故だ?」
「さっきも言いましたが、まだ完全復活出来ないでいるのでしょう。あのように変化黒魔石化したアパーカレス自身、復活の方法を模索しているのかもしれません。もしくは最適な依り代が見つかれば乗り換えるツモリなのかも……」
「なんにせよ、勇者の力が通用しない相手じゃ俺の出番は無さそうだ。しかしブリジットとマルタが関与していたのは気になるな……オファーに来て断られたので処分したみたいだが……」
『恐ろしい人達です。アパーカレスをあんなに容易く倒すなんて……前より凄みが増している気がする』
前より?
「そういえば、二人は何故あの二人を知っているんだ?」
俺はこの二人とあの二人にどんな接点があるのか気になった。
実は奴らとは親友だったとか?
まさかバンバラ様とミヤビが俺の敵に回ったりしないよな?
「ニ百年程前の内戦で、アドレア連邦の西側諸国に対召喚勇者への刺客として雇われたのがあの二人です。ブリジット・ライカー、マルタ・ノッカータ。他にブリジットとは姉妹のアビゲイル・ライカーにベティ・ライカーもいました。四人は召喚勇者を含む召喚者達三十名余りを嬉々として殲滅したあと、謝礼も受け取らずにさっさと消えてしまいました」
『私の村に占拠駐留していた召喚勇者の部隊を、あの二人は僅か数分で殲滅しましたからね、記憶が曖昧になりがちな霊体の私でも、あの日の事はよく覚えています。霊体の私にも気付き、私は感謝の意を示しましたが『召喚者達を殺せる大義名分があるのなら、私達はいつでも手を貸す』そう言って去って行きましたよ』
「は?ニ百年前?」
いやちょっと待って。
俺の見た感じじゃブリジットまだ三十歳前半、マルタも二十歳代な感じなんだが???
あの二人、本当は何歳なんだ??????
そしてミヤビ……おまえはいったい?
「私ですか?14歳ですよ。えへ♪」
「絶対嘘だ!本当は何歳なんです!?」
こりゃもうミヤビにタメ口で話せないぞ、参ったなぁ……
「それはえーと……そう冬眠!私達ラミア族は冬の間や寒い日は冬眠するんです。だからその分だけ歳を取らないんですよ!だから14歳!」
「今は真冬だけど、ミヤビは冬眠してないじゃん」
「あうっ……いいじゃないですか!本人が14歳って言ってるんだから!」
うぉっ、凄い剣幕!ミヤビが逆切れして咆えた!
面倒くさそうだから、ミヤビとは今まで通り接しよう……
チラリ……
『私は永遠の二十歳ですけどね!享年二十歳はだてじゃありません!』
「…………」
なんでアンタ(バンバラ)はアンタでドヤ顔して勝ち誇っているんだ。
どうしよう、俺の周りが残念な美人で固められていく……
まあ、アパーカレスが勇者の力が通用しない相手ということはわかった。
俺の出番は無さそうだし、今まで通りアリサとの合流を最優先でいいな。
『残念ながらそう言う訳にはいきません。いえ、もちろんアリサさん捜索を最優先して頂いて良いのですが、どうか御協力できないでしょうか』
「いったい何だ?」
あと心を読まないで。
『アパーカレスは聖属の力を取り込み糧とすると先程申しましたよね』
「ああ、そうだな」
『聖属の力……中でも聖女の力は大好物で、アパーカレスは聖女を好んで襲うのです』
「なんだって!?」
非常にイヤな事実を聞かされ、俺はまたかと天を仰いだ。