終わる世界と狭間の僕ら 季節短編+エピソード
「いにしえ語り」に関する裏話。
https://kakuyomu.jp/works/16817330660322849659/episodes/16817330660323191663なぜか運転中にふと思いついた夏のお話です。
例によって私が「作った」というより脳内でせかぼくメンバーが動き回った結果、いつのまにか怪談からむかしばなしへ突入していました。
【山犬(狼)】
不知火の存在については本編では明記されていませんが、たぶん三峯神社の関係なんだろうなーくらいにうすぼんやり思ってます。
それを形にするつもりもなかったのですが、我知らずに現れたお話ということは……そういうことなのかもしれません(どういう?)
割とべたな感じかもしれませんが、伝承があるからべたになるのだと思えば、シンプルなものが真実なのかなとも思ったお話でした。
三峯神社は埼玉の奥秩父に存在する、狼を眷属とする日本でも有名な神社です。
狼は大口真神 (おおくちのまかみ)とも呼ばれ、ニホンオオカミが神格化されたものですが、不知火の最近のイメージは白。サイズはともかく全体的になぜかホッキョクオオカミ(巨大もふもふ)で定着してます。
【不知火という言葉】
不知火とは、九州地方で「水平線の彼方に無数の焔(火影)が現れる」現象です。
誰が灯したわけでもない炎であり「知らず(不)の火」というネーミングはいい得て妙だなと思います。
今回のお話で最後に呟かれるこの名前は、本来の「知らず(不)の火」という人のものではない灯のことを指します。たぶん。
むかし語りに登場する二人がどこまで理解したのかは定かではありませんが、なんとなく人外の者が助けてくれて、なんとなくそのことを理解したのであれば、それで十分だと私は思います。
あの子が一人じゃないといい。
あの子が山に受け入れてもらえたならそれでいい。
あとのことを考えると少し、優しくなれる。
なんとなくは心の世界です。
【送り犬の言い伝え】
関東から近畿にかけて存在している。とくに八ヶ岳山麓付近(山梨・長野両県)に伝承が多く残っているように見受けられる。
本作の中で書かれた一般的な伝承に加え、具体的なものも各地に残っていますので以下にいくつか掲載しておきます。
【恩を返した送り犬】
中馬追いの中島幸左衛門が花戸ヶ原の中程まで来ると、1匹のおくり犬が道の真ん中までのそのそと出て来て懇願するように幾度か頭を下げる風情をして大きく口を開いた。
度胸のよい幸左衛門が犬の口の中をのぞいてみると小さな骨が口の奥にささっていたので手を入れてそれを取ってやった。するとその犬は非常に喜んで尾を振り、頭を下げて森深く立ち去った。
再び幸左衛門が花戸ヶ原にさしかかるとその犬が出てきて、袂(たもと)の端をくわえて引っぱるので犬のなすままに道の小脇のヤブのかげまで行った。
しばらくすると闇の中がざわめき、破影で静かにしているとオオカミの大群が過ぎて行った。オオカミの大群が行き過ぎると,その犬はくわえていた袂の端を離したという。
【塩田(現・上田市)の送り犬】
出産のために女が一人、実家に戻る途中、山道で産気づき、その場で子供を産み落としてしまった。
夜になって何匹もの送り犬が集まり、女は恐れつつ「食うなら食ってくれ」と言ったが、送り犬たちは襲いかかるどころか、山中の狼から母子を守っていた。
やがて送り犬の1匹が、夫を引っぱって来た。夫は妻と子に再会し、送り犬に赤飯を振舞ったという。
長野の南佐久郡小海町では、山犬は送り犬と迎え犬に分けられ、送り犬は人を守るが、迎え犬は人を襲うといわれる。
【棒道のおくり犬】
おくり犬は人が倒れると飛びかかって食うので、つまづいた際には「どっこいしょ。ひと休みでございますよ。」と声をかける。村の近くに来たら,おくり犬に「ご苦労でごした」と言えば,いつとなく離れているということである。また,煙草の火を見せれば逃げるとも言われている。
棒道に限らず無事に山道を抜けることが出来たら「さよなら」「お見送りありがとう」と一言声をかけてやると犬は後を追ってくることがなくなるともいわれる。
家に帰ったらまず足を洗い帰路の無事を感謝して何か一品送り犬に捧げてやると送り犬は帰っていくという話も。
いずれにしても過去の日本人は、自然の猛威に対しても敬意を払っていたことが伺える対応である。
【送り狼】
関東近畿のほか、高知県において送り犬と同じ行動をとる送り狼というあやかしが存在している。
転んだ人を食い殺すなどといわれるが、正しく対処すると逆に周囲からその人を守ってくれるともいう。
『本朝食鑑』によれば、歯向かわずに命乞いをすれば山中の獣害から守ってくれ、『和漢三才図会』では頭上を何度も跳び越すものだがやはり恐れずに歯向かわなければ害はないと言われている。
他にも、声をかけたり、落ち着いて煙草をふかしたりすると襲われずに家まで送り届けてくれ、お礼に好物の食べ物や草履の片方などをあげると、満足して帰って行くともいう。
オオカミは人間を観察する習性があるため、これらに基づいたエピソードも存在しているようです。
どちらにしても全体的にほっこりなむかし話ですね。
↓いつのまにか白いイメージになっていた不知火の図(元々巨大な黒茶の狼でした)