鯨偶蹄目ウシ科の家畜。普通は草食。大体でかい。牛舎とかへ行くと、あの巨大なもふもふが、表情筋ないくせに興味深さうな顔を近づけてくる。
イングランドと言ふかグレートブリテン島にある「カーカムの赤い雌牛」(Dun cow of Kirkham)といふ、「放浪する紅い雌牛」の伝承は、その牛の証拠として巨大な骨を出されたさうであるが、それは鯨のものだったさうである。でかい。なんかすげぇ気合だけの詐欺だなぁと思ってゐると、鯨は上顎に前歯がなく、肺に偶蹄目特有の管を持ち、DNA配列に至っては、そのAGCTの連なりを比べる限りではなんで交尾して相の子が生まれないのか不思議なほど似るさうである。
駄獣に関し「西日本で牛、東日本で馬」説を紹介する佐々木高明の書物も参照する宮崎駿『もののけ姫』は主な舞台が中国地方をモデルにした処で、あのプロレタリア部落の労働獣は牛で、…絵コンテには「牛は引かない!後ろから押す!」とあるが、資料には「牛引き」とあるものが散見される。
『風立ちぬ』で飛行機飛ばす三菱のアレがあるあの辺(愛知県のどっかの筈)は、「駄獣=牛」文化圏の東端の筈。堀越さんの声をあてる庵野秀明さんは、『風の谷のナウシカ』で陸(アニメ版だと巨神兵は一応)、『火垂るの墓』で海(戦艦描いてたッてふか出たんかそんなん)、と来て空も制してしまったわけであるが、彼はナウシカのオーディオコメンタリーで大動物でなくて宮崎演出での小動物の動かし方を高く評価して、あうあう、ゐる。
前にツイッターで「上顎の前歯」があるジブリ偶蹄類の特徴がバズってたが、風立ちぬの牛でソレの確認がー。
はえ座(Musca)はGadfly(ウシバエ)。このハエはベローナのお使ひで、戦争を表す。あまり牛と関係がないけども、若い雌牛のごとく体をくねらせる、ウシバエの踊りと言ふのが古代ギリシャにあったさうである。
さう言へば、件と言ふ妖怪が伝へられてゐるのは西日本。多分内田百閒先生とか小松左京先生とかはどうでもいい部類で、そのカテゴリーに入る筈の水木しげる先生は、民俗とかがしょぼいので有名な(TVで言はれるのんのんばぁは、鳥山石燕か桃山人夜話のオリジナル妖怪をしげーさんに語ってた筈)境港の辺で伝はる、件の話を、『妖怪事典』に収録してゐる。なんか父親から伺ったとか何とか書いてある。
菅原道真 は牛と関連する人であるが、「大人(うし)」と言ふ語はジーニアスの他にゲニウス・ロキかなんかを指した筈。偶然とはいへ、いろいろあって牛と関連するとは。あと牛は水あるいは雨とかを担当する神へ捧げる犠牲の獣で、さう言ふ儀礼が日本でも探せばある。菅原さんは河童をビビらせる人でもあった。確か菅原家は相撲の関係の人の親戚筋だった筈で、菅公ご自身も武藝を何となくやってた筈(当時なので弓矢である)。
牛に引かれて善光寺参り話 はインド起源と南方熊楠が言ってゐた筈である。
『論語』に屠畜儀礼あるいはそんな感じのレトリックが、「犁牛の子たるうちの弟子 あか(馬+辛で赤)くして角あらば、諸々の神々に絶対採用される」(雍也編6-6)とか、「牛屠畜用ナイフが鶏屠ってておぢさん腹筋痛い」(9 陽貨編17-4)など、いろいろ登場する。犁牛(まだらうし)はここでは「犠牲獣としては微妙」なものであるが、淮南子に、高齢の犁牛を屠って神に捧げるってあったぞ。
英国辺で、妖精あるいはどっか(川や湖の向ふとされる)から出た牛で、灰色とか乳白色で耳だけ赤いとかの他に、ブチあるいは斑と言はれるのがゐる。彼らは、妖精馬が人を溺れさせたりするのと対照的に、変なことをしない限り人間に対して忠実に乳を出し、畑を耕し、子供を作る。飼主が潰すとか屠畜って同じか、を発想するのと同時に、一族が逃げる。
プリニウスによれば、牛は羊と並び、硬貨に書かれた最初の生き物の一つである。
Bull(雄牛)シヴァとか彼をDISるために作られた、ワヤンの最高神グルは牛にに乗るが、西欧でも雄牛は神の台座。なので、西欧では「ウシの方をアイドルとして拝む」と言ふ涜神しぐさがあるが、アブラハムズカルトの神様の呼称でアッビール(牛)と言ふのがある。さう言へば、ディズニーのクララベルはあれだよな。
欧州では、Cattle(牛)は敬虔なクリスチャンで、クリスマスには東方を向いて伏せると言はれ、手で叩いちゃいかんので牛叩きが用ゐられ、人間と親近であるとされる。荒川弘パパが無茶をすると牛が死ぬのを連想しときゃいいらしい。荒川娘の
「誰かこの男をハリウッドへ連れて行け!!」(『百姓貴族』)
は示唆的であった。(十勝の酪農は本土のそれと若干異なる点があるみたい)
なんか、前ツイッターでキャトルミューティレーション(牛とかのアレを切り取る)を「異星人が牛を拉致る(アブダクションだ)」だと思ったといふ人がけっこうゐたが、・・・英語能力もないのにやれルーアンの悪魔憑きの方がよいのなんのといふ日本人のなんと多いことか。とやってると、スコットランドで、妖精スルーア(犯罪者の怨霊とされるが、祖霊みがある点が指摘されてゐる)が、人を拉致しアブダクティへ人や家畜の屠殺を強制するといふ伝承がある。ちなみにUFOに関しスケプティカルな評論をする界隈では、異星人や宇宙船とやらの目撃とか譚と、妖精譚の異常な類似点が指摘されてゐる。
あと欧州での牛のタームは、OxだかBull(雄牛)、Cow(雌牛) Calf(子牛)、Heifer(若い雌牛) がある。
子牛Calfの革Calfskinはエリザベス朝の道化の衣裳の材料。
Heifer(若い雌牛)は、おかんとか大地を指し花嫁、豊饒、滋養を與へるものを表す。ほか、『エレミヤ書』46:20でエジプトが「ウシバエの止まった」美しい雌の子牛と言はれ、旧約の十二預言書の一『ホセア書』4:16でイスラエルが「強情な雌牛」と言はれ「牧場(捕食者が出るところ)で草食ませちゃる」とあるやうに、不貞とか粗暴を表す。
ミノス王の飼ふ若い雌牛(も飼ってた!!)は、白>>赤>>黒(姉妹とか嫁とか~粋な年増~婆さんといふ大地母神カラー!!)と体色が変ったといふ。
トロイの木馬はあの時点で、儀礼用の馬の模型即ち「例の白いやつ」だったらしいのだが、さう言ふ説を唱へる人が対比させる、「パシパエが入った偽牝台」の詳細が こっちも「実は出来合い」なのかがわからない。
「若い雌牛の地」と言ふ意味のボイオティアは、なんかのぬこ様がゐるところだったはず。
ミノタウロス(「アステリオス」はいいや)さんから連綿と続く、カンニバルキャトル。東山彰良『ブラックライダー』に登場する人間との混血牛ロングホーンは、よく人を食ふ。あと超絶傑作『ミノタウロスの皿』意思の疎通ができる家畜と言ふのがなんつうか。『T・Pぼん』ではミノが肉食である件に関する言訳をしてた筈(ど忘れ)
第三紀に秋津島で棲息してゐた牛が、竹食べ動物になる可能性。中尾佐助のなんか『栽培植物と農耕のなんか』所収のなんぞにあったけど、第三紀と言ふと、『銀河鉄道の夜』で、ボスと言ふのが第三紀の牛で、宮沢賢治が苦心のクルミがなんとかで、スコップを使ひ給へ、ぢゃあその牛がゐた場合、竹フローラは本当に暴走をしないかどうか。