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マチウをめぐる日々。

 さて、何から始めましょうか。

 私がマチウを書いている期間。途中何か月も投げ出していた時期も含めて2年半くらいだと思うが、その半分くらいは「ロード・オブ・ザ・リング」のDVD3巻が入れ替わり立ち替わりそばにあったはず。

 その一つの理由は、いくら「中世的世界」について想像力を働かせようとしても、やっぱり所詮日本にいて育った自分にはイメージできる服装、建造物、雰囲気に限界があったからだと思う。あの3巻のDVDは、参考になったというより、私の想像をそこからさらに飛翔させる心強い踏み台になってくれていた。

 ファンタジーを書いてみたいと最初に思ったのは、80年代初めに栗本薫の「グイン・サーガ」との出会いだった。グインというキャラクターには抗えない魅力があった。まさに、ファンタジーでしか表現できない人物像だった。

 私がまだ作家になるきっかけすらなかった頃だが、「グイン・サーガ」に不満があったとすれば、ひたすら想像力で踏み進んでいけた荒野のノスフェラス編が終わり、都市に入ったとたんに風景、背景が平板になったことだった。栗本薫を映像を喚起する作家のように言う向きもあったようだが、あれは語りの魅力であって、彼女自身はけっして独自に創り出した魅惑的な光景を見せてくれるタイプの作家ではなかった。

 おそらく、私が夢想したファンタジーとは、中世=異世界=魅力的な人物造形とつながる構造が不即不離の関係をもって交互に立ち現れてくるような物語だったのだと思う。

 べつにそれは無いものねだりなどではなく、同じ頃に宮崎駿が「ナウシカ」や「ラピュタ」で実現して見せてくれていたものだったのだ。

 私はそれを小説でやってみたかった。言葉だけで、語りだけで、魅惑的な世界と人物像を織り成してみたかった。さすがにル・グウィンの「ゲド戦記」や「ロード…」の原作であるトールキンの「指輪物語」のような、言葉そのものが魔法的な質感をそなえたものまで目指そうとは思わなかったが…。

 どうも話がそれてしまった。まあいいか。

 ちなみに、私にとって「ロード・オブ・ザ・リング」でいちばん魅力的なキャラはミナス・ティリスの将軍ボロミアである。大学の一年生のとき、当時刊行されたばかりの「指輪物語」をクラスの女の子に押しつけられ半月以上もかかって読み終えた。ありえないことだが、サルマンとサウロンをやたらに混同していたことを思い出す。私のファンタジー体験は、だからかなり早い部類に入るのだろう。

 ボロミアが指輪に魅せられて狂気にとりつかれてしまうのがなんとも理解しがたかったことを憶えているが、映画では、親兄弟との人間関係やあくまでも民のためを思う指導者の責任感で何重にもからみとられた彼の複雑な人格を、うまく描き出していると思う。たぶん、彼の似姿は「マチウ」にも反映してくるだろう。

 この稿で書きたかったのは、「ロード…」を繰り返し見ているうちに、しだいにトールキンの原作は無理でも、あくまでも映画としての「ロード…」に匹敵するストーリーなら創り出せるのではないか、と思いはじめたということ。思い上がりですかね? いやいや、すくなくとも私は気持ちだけはそれくらい気宇壮大に書き進んでいったのですよ。

 それはまた次回にということで。では。

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