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宮下あきら著「民明書房大全」

 ちょっと昔の話。
 当時の私は私用や仕事の関係で、予定行事と予定行事の間の空白時間、いわゆる暇な時間を外で過ごす事が多かった。そんな時に役に立ったのがネットカフェ(漫画喫茶)だったのだけれど、ゆったりとしたソファに座り、大量の漫画を読むのはなんとも贅沢な時間でとても心地よかったと記憶している。

 そこでよく手に取っていたのは、宮下あきら氏の「暁!!男塾 青年よ大死を抱け」という漫画で、特に絵柄や話が好みだった訳ではないのだけれど、何故か気になり、黙々と読んでいた。(確か初めに手にした理由は、最新刊コーナーの目立つ位置にあったとか、そんな理由だ)

 これは1985年から1991年に週刊少年ジャンプで連載していた「魁!!男塾」の続編で、2001年から2010年にスーパージャンプで連載されていた作品だ。
(さらに続編の「極!!男塾」が週刊漫画ゴラクで連載されていたのだが、あいにくそちらは読んだ事がない)
※wikipedia調べ

 その作品の中に、「民明書房」というワードがチラホラと出て来る。
 登場人物が使う武術の由来解説であったり、いわくつきの舞台の説明であったり、荒唐無稽でバカみたいな(良い意味で)話をもっともらしく、理路整然と、まるで実在するかのように訥々と語るシーンで、上記の「※wikipedia調べ」のように、引用元として「民明書房刊 ◯◯◯◯」といった感じで出てくるのだ。

 例えばこんな感じだ。(下記は無闇に引用するのを避ける為に私が書いた二次創作だけれど、ニュアンスは伝わると思う)

 ◆
 対多伝心網陣(ついたでんしんもうじん)――
 古来より戦場において情報伝達の早さというのは生死を分ける重大な要素であった。狼煙や太鼓、伝書鳩などが主な伝達手段であった時代、実は古代中国の山岳地方に住む那兎陰(ナウイン)族の手によって革新的な情報伝達手段が編み出されていたという。彼らは人間が発生する微弱電気を感じ取り、さらに自己の制御によって微弱電気を操る術を会得した。制御された電気の強弱等で周辺の状況等を伝える事の出来る那兎陰族はその地域において絶対的な力を示していたという。
 ちなみに、現在の我々が相手に情報を伝える時に度々使う事のある「◯◯なう」という表現は、那兎陰族に侵略された他の部族が恐ろしさのあまり「那兎陰! 那兎陰!」と口々に叫んでいたのを、近くにいた行商人が聞きつけ周りに広めて派生した名残であると思われる。
(甲乙書房刊「twitterを始めよう! 入門編」より)
 ◆

 だいたい、こんな感じだ。気になった方は、民明書房で検索するとその一端が色々出てくるので確認してみても良いかもしれない。

 こういった、デタラメだけれどなんだか説得力もあるようなないような解説文がとても面白くて、暇な時間を潰すために読み始めた「男塾」だったのに、「男塾」を読みたいが為に暇を作る、という本末転倒な状況を生み出す事もあった。



 さて、ここから本題なのだけれど。
 数年前に、たまたま本屋にて物凄い物を見つけた。それがタイトルにある「民明書房大全(ジャンプコミックスデラックス)」だ。
 先に紹介したような面白解説文がズラリと載った本なのだけれど、ただ面白いだけじゃなく、フィクションを書く者にとってはとんでもなく勉強になる至高の書だ。

 いかに嘘を真実っぽく書けるか。シュールな笑いとはどういうものか。この点においてとても参考になる。現に「男塾」を連載していた当時、荒唐無稽な解説であるにも関わらずそれを信じ込んでしまった子供や大人が大勢いたのだから。
 言葉の説得力をどう生み出すかそこに注目して、異世界ファンタジーを書く人や怪奇小説を書く人に是非見てもらいたい。

2件のコメント

  • 甲乙 丙さん こんにちは。

    あの民明書房のうんちくの数々、一冊にまとめられていたんですね。まさに実在する民明書房じゃないですか。これは興味がわきますね。面白そうです。本当に創作を志す人に必携の一冊になりえるかも。読み物としても面白いですしね。

    甲乙書房もいい雰囲気ですよ!是非とも作品に出してもらいたいですw
  • コメントありがとうございます。

    前回の記事のコメント上でにゃべ♪さんの名前を出させてもらったので(勝手にすいません。「近況ノートを活用する」って内容です)
    なんともタイムリーな気持ちです。

    「民明書房大全」は外見も辞典ぽくなっていて、めちゃめちゃ心くすぐられる仕上がりになっているんですよ。オススメです!

    甲乙書房やってみて、改めてあのうんちくの凄さを思い知りました。かなわないですねえ、やっぱり。
    精進! 精進!
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