中間選考が発表されました。お疲れ様でした。
今回はホラー部門の特別審査員としても参加させていただきました。
初めての試みで、読者様からも作者様からも読者選考によらない独自の視点ということで期待されているところも多く、蛮族なりに気負うこともあったのですが、楽しく拝読させていただきました。
選出させていただいた湖城マコト様の『アイス・エイジ 氷河期村』は因習村フォーマットと下敷きに、欧米のゾンビものを日本の遊びの氷鬼と併せて翻案した、王道と斬新さを併せ持つ、自信を持って薦めたい作品です。
沢山拝読し、もっと選ばせてほしいと思うほど良質な作品との出会いが多かったです。
しかし、やはり読者選考を度外視した選出ということで、短編連作やモキュメンタリなどwebで読まれやすい形式より、星を集めにくい一般小説に近い作風のホラーを注視して読んでいきました。
今回受賞作には選出できませんでしたが、選考の中で魅力を感じたホラーをいくつか紹介したいと思います。
椎葉伊作様『オウマガの蠱惑』
https://kakuyomu.jp/works/16816927859846569122半ば廃村と化した九州北部の限界集落に唯一住み続ける美しい娘と死期が近い母が隠す、異端の信仰を巡るミステリホラー。
洒落怖を下敷きにしているとのことで、ネット黎明期から過渡期の「世界には人智を超えた暗部が隠されていて何かの拍子にアクセスできてしまうかもしれない」という仄暗い期待が呼び起こす惨劇がよく表されている作品でした。
未由季様『呪いと仲直りする方法』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667692511065無邪気な好奇心から行った肝試しが、かつての子どもたちに時限爆弾式の呪いをもたらすジュブナイルホラー。未熟な時期の誤ちだからといって許されない残酷さと、善も悪も未分化な少年たちの苦悩が痛ましいです。すれ違った友人と同じように呪いとも仲直りできないかと、幼い期待を抱きたくなる、タイトルも秀逸な作品でした。
祇光瞭咲様『Memento Furor -聖バシリオ精神病棟慰問日誌-』
https://kakuyomu.jp/works/16817330668254804720精神病棟を訪れた、敬虔な修道士が怪異を目の当たりにするゴシックホラー。
難しい題材を難なく扱う筆力と時代考証、手記を巡る方式も魅力的で、ゴシックな雰囲気が好きならそれだけで楽しめます。精神医学が確立されない時代の暗部を詰め込んだ、悪魔か人間かそれよりも恐ろしいものか不明な輪郭が徐々に現れる静謐な作品でした。
Rinto様『Re:Re:Re:Re:ホラー小説のプロット案』
https://kakuyomu.jp/works/16817330661255935630大手出版社にタブーとして封印される記録の数々を断片的に表すモキュメンタリーホラー。『近畿地方のある場所について』からか今年はモキュメンタリも多く見受けられましたが、中でもお勧めの作品です。顔に纏わる怪異と、回を追うごとに見える事件の様々な側面という題材の合わせ方も秀逸でした。
目々様『怪を語れば戒に到る』
https://kakuyomu.jp/works/16817330666171420300大学の先輩から半ば強制的に押し付けられた怪談回の記録から始まる短編連作ホラー。日常から異常へのシームレスな意向と、輪郭を掴めそうで掴めない矛盾の多い怪異譚が大変質の高い作品です。その語りを支える先輩もとても魅力的でした。
陽子様『クローカー・クラウン』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667702824769死者が蘇る町で、様々な死者と邂逅した三人の群像劇ホラー。
題のcroakerは死者を表す俗語の他、「死に損ない」や「不平を言うひと」の意もあり、死者を割り切ることも見捨てることもできない三者三様の在り方にも重なります。切なさと死者が見せる不穏な凶暴性を両立させた、ジャンル移行が魅力的で、青春ブロマンスとしても良質な作品。
渦目のらりく様『令和に潜む妖怪たち』
https://kakuyomu.jp/works/16817330663885525481水木しげるにも多大な影響を与えた鳥山石燕の妖怪画を下敷きにしたオムニバスホラー。題材に相応しい幽玄な語りと、現代に翻案しても色褪せない妖怪の描き方が魅力的でした。「妖怪は神と違って人間と一定の契約が結べない」との言を思い出す作品。
最後に一応宣伝で、領怪神犯3は4/25発売です。大まかな括りとしては完結編になります。
webでは第三部だけでなく書籍に収録されない間章も読めます。その後番外編などもアップしていく予定です。
何卒よろしくお願いいたします。