小学生の頃、終業式の際に決められた学年から各組一人ずつ作文を読み上げる催しがあった。だいたい皆似た内容で、以下のようなものだった。
私が、○学期に思い出に残っていることは三つあります。
一つめは〇〇です。(そのことについて書く)
二つめは〇〇です。(そのことについて書く)
三つめは〇〇です。(そのことについて書く)
〜締めの言葉〜
この構文は学校中に蔓延していて、私も例に漏れずこの書き方で作文を乗り切っていた。というか、皆が皆この書き方で書くから、これ以外で書くという発想がなかった。
しかし、いとせんのクラスは違った。いとせんはいつも通りの鬼の形相で言い放ったらしい。「あの構文では絶対に書くな」と。いとせんが教師何年目なのか私は知らなかったが、毎学期繰り広げられる似たような作文の朗読にうんざりしていたのだろう。
一番書きやすい形を奪われて5年3組の児童は大変苦戦したと思う。提出された多種多様な作文の中から、いとせんはまゆちゃんの作文を選んだ。5年3組で一番国語が得意な女の子だった。
終業式終了後、信じられない噂が私のクラスにまで伝わってきた。なんと、まゆちゃんの作文の発表中、いとせんが泣いていたのだという。
今となってはまゆちゃんの作文の内容は忘れてしまったので、どんなものだったのか気になって仕方ない。いとせんを涙させた作文。まゆちゃんの家にはまだ保管してあるだろうか。