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もしも

いとせんが担任する5年3組に属していた双子の妹から聞いた話である。
いとせんのクラスでは朝の会で児童が一人教卓の前に出てクラスメイトに質問を投げかける時間があった。「私は犬を飼っていますが、みなさんペットは飼っていますか」などと代表者が呼びかけ、他の児童は挙手制で答える。ただそれだけのコーナーだ。
妹の級友のあみちゃんはその日質問コーナーの担当で、何を質問しようか悩んでいた。妹は見かねて「もしも百万円がもらえたら何に使う、ってどうやろ」とアドバイスした。
あみちゃんの質問コーナーは大成功となった。なんと、普段あまりひとを褒めないいとせんがその質問を絶賛したのだ。あのいつも怒っているいとせんが「もしも〇〇というのは今までなかったので面白いですね」とニコニコしていたという。
自分もいとせんに褒められたい、児童達はそう思ったようだ。次の日から質問コーナーは「もしもタイムマシーンが使えたら」「もしもドラえもんの道具がもらえたら」など、もしももしものオンパレードとなった。
もしも話が永遠に続くと思われたある日、いとせんは鬼の形相で言った。
「いつまで同じことやっとるんかーー!!」
それはそうだ。いとせんはもしも話を褒めたわけではなく、その質問の「新しい切り口」に感心したのである。安易に他人の真似をするというのはいとせんの最も嫌うことの一つだ。
しかし、児童達にはそんなことは分からない。いとせんの怒りはさぞかし理不尽に思えただろう。
何よりたまたまいとせんが怒った日に質問をした児童が可哀想すぎる。いとせんの気持ちも分からなくはないが、怒鳴られた児童達に同情してしまう。

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