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場面絵を描くな

図工の授業で読書感想画を描いていたとき、いとせんのクラスがおかしなことになっているという噂が入ってきた。
私のクラスでは既に皆アイデアスケッチを提出し下絵に入っていたが、いとせんの担当する五年三組ではまだアイデアスケッチに着手してすらいなかった。何をしていたかというと、いとせんによる読み聞かせである。
普通、読書感想画では児童がそれぞれ好きな本を選び自由に絵を描く。一方、いとせんはこれだという本を一冊選び、クラス全員の前で読み聞かせたのである。
さらに、アイデアスケッチにもかなりのリテイクが入った。いとせんの主張はこうだった。「場面絵を描くな」
いとせんの言う場面絵というのは、本の中の一場面を描いた絵のことだ。たしかに読書感想画のコンクールで入賞している作品には、本のモチーフをたくさん拾って一枚にまとめたような作品が多い。今まで1番好きなシーンや描きやすそうなシーンを選んで作品作りをしていた児童たちはこの主張に頭を悩ませた。
その話を聞いてしばらく経ってから、廊下で乾かしてある3組の読書感想画を見た。いとせんのクラスに属している双子の妹の作品は、二人の登場人物が畑かどこかにいる絵で、つまり思いっきり「場面絵」だった。
構図が良かったからか許可がでたその場面絵は結局いとせんがクラスから数名選ぶ優秀作品に入っていた。
妹の絵は色遣いも綺麗だったし、何よりいきいきとしていた。自分の主張と違っていても良いものは通す、そんなところがいとせんにはあった。
個人的には印象に残った箇所をありありと描く、というのが読書感想画においては良いような気がしている。いとせんの「場面絵を描くな」は今も健在だろうか。

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