「本日からスタートしました、新番組! Dolce’s cookingのお時間です。料理を担当しますのは、ドルチェの中の人です。そして、アシスタントを担当するのは……」
「どうも~。かしわもちです」
「……」
「えっ……何か、地雷でも踏みましたか?」
「さ、本日のレシピですが」
「(さらっと流された……。(気を取り直して)はい! 本日は何を作りましょうか?」
「本日は、ドルチェリポートになります」
「ドルチェリポート……これはいったいどういったスイーツなんでしょうか?」
「こちらは、ドルチェさんがいつも書かれている、作者様へ贈る感謝の、まるでレシートかのようなレビュー作品となっております。なお、スイーツではありません」
「すいません、ちょっと言っている意味がわからな」
「さ、材料紹介です」
材料(短編1作分 出来上がりレビュー字数 約800~2000字程度)
レビュー対象の短編 1作
作者様へのリスペクト ∞
ドルチェ節 適量
おふざけ 少々~一つまみ
(作者様に怒られないギリギリのラインを攻めるのがポイント)
感覚・インスピレーション 適量(なくてもおk)
耳栓(必要に応じて。中の人はMOLDEX製を愛用)
「非常にシンプルですね(突っ込みどころが多すぎるけど)」
「ええ、作り方(書き方)も非常にシンプルです。
それでは早速作って(書いて)いきましょう。まずは、レビュー対象の短編を良く読み込みます。この時、しっかりと噛み締めるように、咀嚼することがポイントです。読みながら、少しでも引っかかるような単語やセリフがあれば適宜メモを取りましょう。後で、レビューを書く際に必要になりますので」
「具体的にはどういった単語やセリフを?」
「タイトルに使われているキーワードや、固有名詞等を主に拾っておきます。他にも、風景や情景が強く印象付けられる作品では、そういったものもメモしておきます」
「なるほど……。ところで、一つ気になったんですが」
「はい、何でしょう?」
「材料の『作者様へのリスペクト ∞』というのは……?」
「一応、材料の括りに入れてはいますが、常に頭の中に留めておくものとして書きました。今回作るのは、あくまでも作者様の作品あってのドルチェリポートです。なので、作者様へのリスペクトなくして、このドルチェリポートは成立しないのです。私が毎回、作者様から『今回はさすがに怒られるんじゃないか……』とまるで小動物のようにプルプル震えていることをあなたは知らないでしょう?」
「(中の人は小動物とは程遠いけれど)ええ……確かに、『もはやレビューではない独立ジャンルの文字エンターテイメント作品』『究極の贅沢』といわれる位ですしね……(その節は本当にありがとうございます)」
「ともすると、二次創作になりそうでもあり、非常に危ない橋を渡っている感覚なのですよ。……そろそろ次の工程に進みましょうか」
「メモを取りながら、最後まで読み終えた次の工程ですね」
「最後まで読み終えたら、作品をまた頭から読みながら感想を書いていきます」
「また一から読むんですか!?」
「さすがに感想を書く際には、そこまでしっかりとは読み込みません。一周目でしっかり読み込んでいるので、大体の文章の塊を作って、その塊単位で感想を書いていきます。ここで、先ほどのメモが登場するわけです。このメモを参考にしつつ、ドルチェ節とおふざけを織り交ぜながら、書いていきます」
「あの……卵や牛乳のように、当たり前にドルチェ節だとか、おふざけとか言われても意味が分からないんですが……」
「ドルチェ節 というのは、作中の表現や事象を、何か別のもので例えたり、慣用句やことわざを作中の意図に合わせて変化させて落とし込んだり、同音異義語を多用して、いわばダジャレのような表現をすることですね。別のもので例えるというと、比喩をイメージするかもしれませんが、比喩とはちょっと違った感覚として捉えています。同音異義語でダジャレのようにするというのは、自分の中でハマった! という感覚がある時があって良いですね」
「おふざけというのは?」
「おふざけは、この部分面白いなと思った部分をさらに自分の中で膨らませて、違うベクトルへ向けたり、自分なりのボケを入れたり突っ込みを入れたりといった感じです。
過去にレビューした作品で一例を挙げるならば、『第六感だけに、レビューの☆三つに加えて、この場で☆三つを加えさせていただきますね』だったり、
『私の名前は「ああああ」なんだから、あと16個……すなわち、あと4回の仕事でどうにか私を開放して、「勇退」という形で手打ちにしてくれないだろうか』ですかね。
そんな感じで、ある程度の塊単位で、自分なりの考えや作中の登場人物に共感した等の場合もその旨しっかりと書き添えます」
「なくてもおkの感覚・インスピレーションというのは、作中から受けるイメージや情景等ということでしょうか」
「そうですね。これは作品全体を通してのイメージになるので、感想全体にまんべんなく散りばめるイメージですね」
「ナポリタンにかける粉チーズ的な」
「あるいは、カルボナーラにかけるブラックペッパー的な。……とまぁこんな感じで最後まで書き上げれば、ドルチェリポートの出来上がりです。
余談ですが、耳栓はその時の状況によってまちまちです。作品によって、ではなく気分でつけたり、つけなかったりします」
「そういえば、一言紹介のところの文言はどうやって考えているんですか? 見出しのように太字で、色付きの文字で表現されるアレです」
「あぁ、あれは……レビューと違って文字数の制限があるので苦労するときはかなり苦労しますね。基本的にはレビューと同じ書き方で良いのですが、文字数の制限にはどうしたって勝てません。
なので、これもありがたいことに良く言われるのですが『詩的な書き方』をしたりします。特に意識しているわけではないんですが、自然とそうなっているようです。
例としては、
『星の瞬きも、彼女の笑顔も、高貴さも。白い桜の海に溶けて、彼の心に還る』
『心と時間が離れた分だけ、惹かれあう。その距離はやがて、明日にとどく』
『掘り返すのは思い出と、骨の味と、温故知新。埋めるのは、深い悲しみと慟哭』
といった感じですね。
あとは、作品のタイトルで本文を読まれることがあるように、レビューの一言紹介でドルチェリポートを読んでもらえるかもしれないので、「ん? これは……?」と後ろ髪をひかれるような紹介の仕方を心がけていますね。例を挙げると、
『大物のご機嫌を伺うには、俺達はまだ半熟のようだ。弁当の卵焼きのように』
『私を魔法少女に? ならまず、魔法で私のコンプレックスをどうにかして♪』
といった感じでしょうか」
「さて、では最後にこちらの一言紹介を載せて、完成というわけですね。……あれ? そういえば、今回のドルチェリポートのタイトル(一言紹介)何にするか、まだ聞いてませんでしたね」
「おっと、これは失礼。今回のドルチェリポートのタイトル(一言紹介)は」
「皆様、いつも本当にありがとうございます。(毎回言ってますが)微力ながら、全身全霊を込めて、私なりに作品の意図やメッセージを全力で汲み取って、咀嚼して。自らの言葉で、作者様へ全力で投げ返す、ドルチェリポートです。全力であるが故、時に空回り、時に暴走し、作者様の逆鱗に触れてしまうかもしれません。その時は、どうぞ遠慮なくお申し付けください。
ドルチェ節に始まり、ドルチェリポートと言っていただいたとき、本当に嬉しくてたまりませんでした。同時に『この言葉、私が使って良いのだろうか……?』と思ったりしたのですが、『公式認定された』と喜んでいただいて、感無量でした。
また『ドルチェリポート、それは究極の贅沢』なんて、それこそ贅沢な言葉です。究極どころか、感極まりました……。
詩文的・幻想的や、文才を隠しきれていない等々も、その言葉を目にした時、本当に嬉しすぎて、言葉を失いました。以前も書きましたが、これ以上の感謝をどうやって、作者様へ還元してお伝えすれば良いのかわかりません。
それはきっと、もっと読解力をつけて、さらにディープなドルチェリポートをお届けすることで返していけるのではないかと勝手に思っています。重ねて、皆様本当にありがとうございます。そして、今後ともよろしくお願いいたします。
以上ですね」
「……」
「何か問題でも?」
「これっくらいのお弁当箱(一言紹介のボックス内)に、
おにぎりおにぎりちょいと詰めて♪
……っておにぎり一個すら入りませんから!」
「誰がおにぎりを詰めるといった……。刻みしょうが、ごま塩、(細く切った)しいたけ位なら何とか詰められるだろ!」
「……」
「それで、肝心のおにぎりはどこに詰めたら良いのかな?」
Dolce’s cooking 完!(打ち切りともいう)
――収録後の楽屋にて。
「そもそも『おにぎり』だったら四文字なんだから、十分詰められるだろ! って突っ込みをどうしても入れたかったのに、入れる隙間がなかったんだけど、これの処理どうしようかね……編集でどうにかねじ込んでもらうか……」
「いや……なんていうか……今は、お弁当箱の歌に乗せてノリツッコミした自分に突っ込みを入れたい気分ですよ……」
※以下、本来は没ネタになる予定だった物の残骸を拾い集めて書いた、いわばチラ裏になります。ご興味のある方のみ、お読みください。
本日のテーマは、「感想でもレビューでもない。ドルチェリポートの真実と実態に迫る」
我々取材班は、F県某所の駅に降り立った。H多口を出て、振り向けば巨大な駅ビルと大きな時計が見える。
彼に連絡を取ると、すでに待ち合わせ場所で待機しているとのことだった。
「初めまして……。ドルチェさん、でよろしいですか?」
「はい、どうもドルチェです」
少し照れくさくそうに自身のペンネームを口にする彼と軽く挨拶を済ませてから、近くの喫茶店へと入る。
「それでは、さっそくですが始めさせてもらいますね。どうぞ、緊張なさらずにゆっくりされてください」
「ありがとうございます」
彼は上着を脱ぐと椅子に掛けてから、リラックスするように軽く肩を回していた。
「まず、ドルチェさんが書かれたレビューというのは……」
「こちらになりますね」
そういって、自分のスマートフォンを我々に向けて見せてきた。一言紹介に独特の紹介文が書かれており、そしてその下に連なる本文はまさに、今回の肝となる部分だった。
「あの……これ、文字数がバグっていませんか?」
言ってから、しまったとインタビュアーは口を噤むが、時すでに遅し。それでも、彼は変わらず、柔和な笑顔でさらりとこう答えた。
「いえ、間違ってません。全力でレビューしたらこうなっちゃいました笑」
まるで悪戯がばれてしまった子供のように彼は言う。自然とつられるようにこちら側にも笑みがこぼれた。
「ちなみに、このレビュー……じゃなかった、ドルチェリポートってどれくらいの時間をかけられてますか?」
「そうですね……計ったことがないので分かりませんが、短くて三十分、長いと一時間半程度でしょうか。一度、七百~八百字程度書き進めて、操作を誤ってしまい、それまで書いたレビューが白紙になった時は、さすがに白目をむきましたね……。ははは……。」
彼からスマホを受け取ってしばらく画面をスクロールしてみる。書いている内容を頭に入れるというよりは、その長さを確かめるように。
「別に、私はレビューの質で誰かと競おうだとか、そんなことは一切思っていないんですよ。そもそも競うものでもないですが。実際、こんなに長々と書かなくとも、短い文章で的確に『面白かったです!』って伝えているレビューなんていっぱいありますし」
「ではなぜこのような長い文章を……?」
「感謝、ですよ。それだけです。一文字目を読み始めてから、最後の読点まで。その世界に、どっぷりとつかって登場人物や世界観にのめりこんで。それを最大限自分の言葉で表現して、作者様へお返しする。それが、私が目指すドルチェリポートです」
「確か、ドルチェリポートってご自身でつけた名前ではないんですよね」
インタビュアーがスマートフォンを彼に返すと、彼は自身のSNSを開いて今度はこちら側に見せないように、言葉だけで返してきた。
「レビューを本格的に書くようになってから、色々な作者様の作品を読ませていただく中で、嬉しい言葉もたくさんいただきました。それはもう、両手で抱えきれないほどの。『レビューというものは読み手が書き手に転じる』という気づきも、とある作者様から教えていただいて気づいたくらいです。
そうして、十一作品ほど全力でレビューを書かせていただいた結果、約一万三千字弱の総文字数になりました。そんな時、こう書かれたのです。
『ドルチェさんのレビューは、もはやレビューではない独立ジャンルの文字エンターテイメント作品だと思っていて、ドルチェリポートと呼んでいる』と。
これを見たときに、驚きで目が点になるやら、歓喜乱舞するやら、とにかく嬉しかったんです。
皆さんの作品に込める熱量が本当にすごくて、こちらも俄然、熱が入るといいますか。その熱量故、ドルチェリポートを書くことをやめようと、筆をおこうと思った作品もあったのですが、それでは作者様に顔向けできないと思い、その作品に対してもしっかりと真摯に向き合わせていただきました」
そんなことを身振り手振りを交えながら話す彼の眼はとても輝いているように見えた。きっとこれは、窓から差し込む夕日のせいではないだろう。
「ドルチェリポートと呼ばれるより前に、とある作品のレビューを書いたときに、『ユーモア満載で読み物としても面白いので、皆様レビューだけでも是非読んでください!』と言ってくださった作者様もいらっしゃったんです。その流れからの、ドルチェリポート。
自作ではなく、自作に書かれた私のレビューを、ドルチェリポートを是非読んでください、なんてどれだけ嬉しいことか」
「分かります。……私たちも、自身の企画が会議で通った時は何物にも代えがたい喜びに包まれます……」
どちらからともなく差し出された手を、どちらからともなく握り返し。インタビュアー以外のスタッフは、二人の手にさらに手を重ねる。
今にも、あの夕日に向かって走り出しそうな彼らを、周りの客が何事かと奇異の目を向けても気にはしなかった。
「本日は、ありがとうございました」
「こちらこそ、わざわざF県までお越しいただきまして、ありがとうございました。今度、手土産でも持って御礼に伺わせてください」
彼はそう言って、深々と頭を下げる。
あの後、珈琲や軽食を嗜みながら、我々は彼と共に日々の苦労を労いあった。それこそ、彼が今頭を下げている位の深さ……否、それ以上に深い話もした。
「いえいえ、こちらこそ。手土産なんてとんでもない。素敵な『土産話』を沢山いただきましたから。帰ってからこれを肴にして、今度はこれで一杯やろうと思います」
そういって、我々がそろって酒を呷るような仕草を見せると、彼は微笑を浮かべながら、
「私も今日のお話を、何かしらの形にして、アウトプットしようと思います。あなた方がここに『アウト(吐き出して)プット(置いて)』してくれたお土産をもとに」
今度は我々が笑う番だった。
「最後の最後に、ドルチェ節とは……これは一本取られました……」
「一本のドルチェ節から、少しだけ削って(お出し)してみました。……自分で言うのもなんですが、良い(お出汁)出てるでしょ?」
「ごちそうさまでした。それでは、そろそろ行きますね」
スタッフの一人が腕時計と、電光掲示板を交互に見やる。どうやら、本当に時間らしい。混雑する改札を、一人ずつ順に抜け我々は最後にもう一度だけ、彼の方を振り向いた。
「最後の挨拶がごちそうさまでした、というのもどこか締りが悪いですね。最後のお別れくらいは、普通に言わせてください。また、お会いしましょう」
「こちらこそ、またお会いしましょう」
彼は、我々が見えなくなるまで大手を振って、見送ってくれた。
「さて、今回の記事。どうやってまとめようかな」
インタビュアーは指定席に深く腰掛けて、自身のメモを開きながらそう零した。その一言を、床に落ちる前に拾った、隣に座るディレクターは嘆息して一言。手に持ったお土産の上にポトリと落とした。
「こんなもの、企画として通るわけないだろ。『チラ裏』、で良いんじゃないか」