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あとがき―― Ever and always


このお話は、以前に書いた連作短編「雨が降ったら ここへおいでよ」のふたりの主人公、柳原麻衣と見藤絵里香の "その後" を描いた作品です。

山あいの小さな町に生まれ、幼なじみとして一緒の時間を過ごし、作中では中学生だった二人。中学と高校を卒業し、生まれ故郷を離れて「海の見える大きな町」で暮らすようになった、15年後を描いています。

いつか見た夢だったのか、何かの拍子に思いついたのかは忘れてしまいましたが、このお話の中心にある「主人公二人が家族に結婚したことを伝えるため、電車で故郷に旅する」という場面は、少し前から頭の中にありました。

二人と、二人に直接関わる何人かの登場人物のことを考えれば何とか成り立つ恋愛ものとは違い、「結婚」を正面から描こうとすれば現実に近い、時には面倒なことも視界に入ってきます。
特に私の作品の登場人物たちは「女性どうしでお付き合いしている」ことが多いので、本気で結婚まで描こうと思えば現実問題――女性どうしも、男性どうしも結婚は認められていない――にどう触れたらいいか、難しさを感じていました。

もちろん、そういったままならない状況は置いておいて、幸せな二人を描くことも可能でしょう。だけど私にはそれが難しくて、「故郷に向かう電車の中の二人」のイメージだけがうっすらと頭の中にある、そんな状態が続いていました。


2022年11月に魔法のiらんどで開催されたイベント、『「もしも結婚したら」 ifストーリー企画』が、私の背中を押してくれました。
この企画は「あなたの作品の登場人物がもし結婚したら、の未来を描いてください」という企画で、それ自体に興味があったのはもちろんですが、お知らせの中にあった「登場するカップルの性別は問いません」の一言で、それなら書いてみようと決めたのでした。

麻衣と絵里香は、お互いのことが誰よりも大切で、お互いに恋愛感情を持ち、二人で支え合いながら日々を生きています。大切な人と一緒にいる幸せを大切にできる二人を描きましたが、それでもこのお話はちょっと小難しく、そして書き手にとっても苦さのあるお話になりました。

結婚――突き詰めれば役所に書類を提出するだけの、二人の間の契約です。だけどそれを当たり前の様に手にできる人と、できない人がこの国にはいる。その事は避けては通れませんでした。

そうして生まれたこのお話の舞台は、今よりも少しばかり未来、私たちの社会が少しだけ変わった未来です。望んだ人たちが当たり前の幸せを当たり前に味わえる日は必ず来る、自分とは異なる価値観、異なる幸せのモノサシをもった人たちのことを理解し受け入れることができる日も必ず来る、その願いを、麻衣と絵里香に託しました。


このお話のタイトル「Ever and always (これまでも、そしてこれからも)」は、アイルランドの歌手Enya の歌曲「Once you had gold」の一節から採っています。
人生に訪れる光と影を、深まる秋の景色に重ね合わせた、とても美しい曲です。全体としては落葉や影のイメージが強いですが、ラストで「心を新しい日々に向けてみては?」 と問いかけてくるところが気に入っています。


Enya - Once you had gold
https://www.youtube.com/watch?v=Wq4HJyofIjg


私の生まれ故郷であり、麻衣と絵里香が子供時代を過ごした信州の秋の景色を思い浮かべながら、そしてこの曲を思い浮かべながら、このお話を書きました。


2024.10.25 本州とは違う亜季を迎えている沖縄にて 黒川亜季
(in 魔法のiらんど:2022.11.17)


*このお話を投稿した後、魔法のiらんど合併記念の企画の告知に気付きました。これもご縁と思い同企画に参加しています。

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