「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」(
https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625)、今朝更新分から第七章「深更、安らぐ者のなく」 が始まっております。深夜の後宮のあちこちで色々な人が色々なことをやっています。喜燕サイドはひとまず置いて、しばらくは燦珠&霜烈のターンになります。クライマックスに向けての情報整理的な展開になりますが、大事なところなので引き続きお楽しみいただけますように。これまでの諸々の描写も、意味が変わって見えたりするかもしれません!
今回は、最新話(第八章1話)の描写に関連して、京劇と武術の関係について語ってみます。一応、第三章4話にて「(華劇≒京劇には)武術を取り入れた動きもある」という記述は既に出しているのですが、以前紹介した毯子功《ダンツーゴン》の動画を見ても分かる通り、(
https://kakuyomu.jp/users/Veilchen/news/16817330650693452445)京劇の立ち回りには武術の演武めいたものも多いのですが。それでも、読んでいて「いやいやいやいや」と思った方もいることでしょう。作者も思っています。
京劇について学んだ際に大いに首を捻ったことのひとつが、「官憲に追われることになった役者が、立ち回りの技を駆使して反撃/逃亡した」というエピソードがちょいとい見えることでした。京劇役者の身体能力の高さは目を瞠るものがあるとして、相手も武装したり訓練を受けたりした兵なりではないのか、と。かなり近代の例だと、日本軍への協力を拒んだことで拉致&暴行されかけた程硯秋《てい・けんしゅう》が、京劇役者ならではの立ち回りを駆使して逃げのびた──というものがありますね。以前に紹介した「京劇 「政治の国」の俳優群像」によると、この時程硯秋を取り囲んだのは「北京の対日協力政府の特務機関の便衣」とのことですが、格闘等の訓練を受けていなかったのか……? そんなんで務まったのか……? と疑問が尽きません。正直に言って、誇張もあるんじゃないかな……とは思いつつ、そういうエピソードがあるから! ということで作中の描写にも反映してみました。優れた立ち回りはもはや武術に匹敵するんでしょう、きっと。
とはいえ、京劇の発展の歴史を紐解いても、武術と非常に近いところから発祥しているのもまた事実ではあるようです。こちらも「京劇 「政治の国」の俳優群像」の記述ですが、中国演劇の激しい立ち回りのルーツは、追儺の儀式で行われる武技に遡る、とのこと。すなわち、儺神に扮した男が仮面を帯びて武器を振るって鬼を払う、という厄払いの儀礼です。また、辛亥革命で貴族などに仕えていた用心棒が職を失い、役者に転向したことで立ち回りの水準が大幅に上がった、という記述もありました。武術と舞台上の立ち回りとで、筋肉の使い方など何かしら通じるところはある、ということなのかもしれません。