「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」(
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最新話で本格的に登場した我が道を行く戯迷《芝居オタク》こと謝貴妃華麟は作者のお気に入りのキャラクターです。というか、美貌と財力と権力を兼ね備えたミュオタという立場が実に羨ましいです。
今回は、華麟の衣装が周囲から見てどれくらい変だったのか、という観点を交えて古代中国の衣装を軽くご紹介&作中の衣装の描写について補足したいと思います。著作権的に使って良い画像が思いつかないので、頑張って文章で説明しますが、興味がある方はワードを頼りに画像検索などしていただけると幸いです!
前回の記事で述べたように、花旦綺羅~の衣装描写は明代のものをベースにしています。古代中国の女性の風俗は、基本的には(しばしばブラウス、とルビを振られる)襦《じゅ》などの上衣+裙(スカート)の組み合わせで、時代によって形が変遷していきます。中華ものでよく見かける時代・形式は、例えば以下の通り。
漢代
上衣は、曲裾真衣《きょくきょしんい》。ローブ状の丈長のもの。裾が直角ではなく斜めに裁たれており、装着すると身体にそって曲線を描くので「曲裾」、だと思います。これくらいの時代だと重々しく荘重な印象があります。
唐代
華麟がお気に入りの斉胸襦裙《せいきょうじゅくん》はこの時代。襦《ブラウス》や衫《さん・ブラウスの一種・単衣》に、丈の長い斉胸裙を合わせます。斉胸裙は胸の上で留めるので、ハイウエストの優美なシルエットになります。楊貴妃が着ているのはコレで描写されるはずです。
宋代
引き続き襦や衫に裙を合わせるスタイル。ただし、裙は通常のウエストの位置で穿く(というか巻きスカート形式なのですが)ので、現代のトップス&スカートに近いバランスとなり、斉胸襦裙よりも日常的な雰囲気を感じます。
宋代に流行した形式の一例としては百迭裙があります。スカートの前面に細かなプリーツを入れたデザインで、スタイルがよく見える効果があったのでは、とのこと。
明代
上衣の形式は、襖(簡体字:袄)衣と呼ばれるもの。単衣の衫に対して袷の仕立のものを指すようです。
丈の短/長、袖のゆとり具合、襟の形は交領(和服のように襟を交差させて留めるもの)/対襟(中心で左右対称に留めるもの・襟は平行)……等々、様々なデザインがあります。襦や衫の上から裙(スカート)を装着する、いわゆるシャツインスタイルの唐代・宋代などとは違って襖衣はシャツアウトスタイルで着用していたようです。よって全体のシルエットはゆったりして見えますね。フェミニンで可愛らしい雰囲気です。
裙の流行の一例は、作中でも描写している馬面裙、プリーツスカートです。馬面とは城壁の防御用に連続して設けられた凸状の拠点で、プリーツがそれに似ているから、とのこと。
という訳で、花旦綺羅~の作中では度々「襖衣」が出てきております。庶民の燦珠は動きやすく丈の短いもの、妃嬪の香雪は丈が長く、素材も上質な絹で──と何となく想定して描写しています。なので場合によって同じルビで違う文字が当てられていたりもするはずですが、雰囲気で流していただけると幸いです。ほか、袖なしのベスト上の上着「比甲」、ローブ状の上着「褙子」も、後々描写に入れていきますが、ざっくり綺麗な格好をしているんだな~くらいに伝われば良いと思っております! すべての読者が知っている訳ではないであろう用語を連ねることにあまり意味を感じない勢です……。それで醸せる雰囲気・伝えられる世界観もあるのでしょうが!
そして、華劇のコスプレで古風な衣装を纏っていた華麟についてですが、作中世界が現実の中国と同じ流行の変遷を辿ったと仮定すると、ざっくり500~700年前の格好をしていたことになります。強引に唐初~明末で考えると千年近い差がありますね。「目上の人が十二単を纏って現れたので突っ込むに突っ込めなくて困っていた」と思うと香雪の困惑が分かるかもしれません! 一方、燦珠の目線だと「自腹でアントワネットドレスを仕立てる気合の入った宝塚ファンに遭遇したのでテンション爆上げ」くらいの状態だったのでした。
(アントワネットはせいぜい250年前の人物ですが、「誰でも知ってる名作」の例として挙げています)
(別に伝わらなくても物語の理解にまったく影響はないのですが、伝わったほうが面白いかもしれないと思ったのでせっかくだから開陳してみました)
古代中国の衣装については、沢山の人が様々な史料を挙げていらっしゃいますが、比較的近著であまり知られていないかも? &個人的に有用だったものをご紹介してみます。
「千古霓裳:汉服穿着之美」 汉服北京 編著 化学工业出版社 2022年
フルカラーの写真で周~明の男女の衣装を示しています。(恐らく清代は漢民族ではないので対象外)着用図に加えて重ね着のし方も見せてくれているのでとても助かります。中国語かつ、中国からの取り寄せになるのでややハードルは高いかもですが、眺めるだけでも楽しいかと思います。