どうも、茶畑紅です。
今回の短編ですが、かなり吹っ切ってみました。自分自身で改めてみても意味不明です。迷走に迷走を重ねた結果、血迷ってしまいました。でも、書いている最中楽しかったので良しとします。執筆も楽しくないとやっていけませんもんね。これからも楽しみながら書いていこうと思います。
では、茶畑紅でした。
・短編 ワード『タラバガニ』『能力』
「今日はよろしくお願いします!」
私は強く気持ちを込めて頭を下げた。
これから私は、数日前からプレイし始めたVEMMOゲームのボス戦へと赴くのだ。このゲームに誘ってくれた友人の所属するギルドにお邪魔させてもらって、いま私の挨拶が終わったところ。今度は私に今日のパーティメンバーとなる人たちの紹介が始まる。
「じゃあまず私から。私はこのギルドのマスターをしている、おでんだ。よろしく」
マッチョなアバターがその大きな手の平を私のほうに差してきた。少し威圧されながらも、私はその手をとって握る。
「ハハハハ、そんなに緊張しなくて良い。我々の中にランカーを目指してガチでやるような人間はいないからな。君が何か失敗しても誰も文句は言わんさ」
「はい……ありがとうございます」
どうも、全部筒抜けだったみたいだ。まさに言ったとおりの心配をしていたから、私は酷く安心した。
「まあ、君はこのゲームには珍しい普通の能力を持っているみたいだし、もしかしたら今日助けられるのは私たちのほうかもしれないがな!」
おでんさんは、そう言ってガハハと笑った。
ちなみに、能力と言うのは、このゲームでキャラクターを作った際に与えられる、固有のアビリティのことだ。私の能力は「火魔法」。文字通り、火を操る魔法の技量が最初から上がっているというものだった。
しかし、おでんさんの言う意味がわからず、私は首をかしげた。
「ああ、すまない。君はこのゲームが謎ゲーと呼ばれていることを知っているかな?」
「ええ、まあ……確かレビューでは意味不明すぎて逆に面白いと」
「そう。その意味不明さが普通は能力に現れる。君は普通……いや、むしろこのゲームの中では君が異常なのかもしれない」
「なぜです?」
「それは……ああいや、私の能力を伝えたほうが早そうだな」
おでんさんは離していて少しめんどくさかったのかもしれない。頭を掻きながら、改めて自分の能力を口にした。
「私の能力は、『タラバガニ』だ」
「……は? え? タラバガニ、ってあの?」
「そう、そのタラバガニ。私は手をかざした場所にタラバガニを出現させることが出来る」
それを聞いた私の頭の中は、クエスチョンマークで一杯だった。タラバガニを出現させるだけでどうやって敵に勝つんだろう? 訳がわからなかった。
「マスター。俺達の自己紹介の時間もそろそろ下さいよー」
「そうだったな、すまんすまん。私はこれで以上。続いて彼らが自己紹介するが、それを聞けば君の異常さがわかるだろう」
「……は、はあ」
まだ頭の回転が追いついていなかったから、そんな気の抜けるような返ししか出来なかった。
そして、それから聞いた能力たちは、意味のわからないものばかりだった。目から大量のレモン汁を発射する能力、見つめた対象の体毛を急激に成長させる能力、小声で喋ったことが相手に聞こえる能力、などなど、モンスターと戦うゲームの何処にそんな力の使い道があるのだろう。そう思わせるものばかりだった。
「……まさかあんたもわけわからない能力だったなんて」
「いや、俺言っただろう? いろいろ吹っ切った謎過ぎるゲームで、めちゃくちゃ面白いって」
私のことを誘った友人も自分の能力を教えてくれたのだが、それがまさか『にんじんを食べるとモンスターが自分を狙うようになる』という能力だなんて……もう何も信じられなかった。
だから、思わず言ってしまったのだ。
「本当にこんなパーティーでボスなんて倒せるの?」
「そう思うのもすごいわかる。だけど、俺らのギルドはすごいぞ。ランカーではないけど、そこらのギルドには遅れをとらない強さだ。特に、マスターは軍を抜いて強いぞ」
え、タラバガニに何が出来るの? なんて思ってしまうのも、仕方ないと思う。私は溜息をついて、負けそうだったら私が魔法でどうにかしようと思った。
そして、私たちは見事ボスを倒し終えた。
「え、何で勝てたの……?」
終えた後、思わずそう呟いてしまったのもまた仕方ないことだと思う。その戦いの一部始終を見ていたはずなのに、それでもまったく勝ったことが理解できなかった。
「いやぁ、さすがおでんさん。あのタイミングでのタラバガニは最強でしたねー!」
「いやいや、君のヘイト集めにも助けられたよ。まさかにんじんを30個も持ってきていたなんてね」
友人とおでんさんが話していても、まったく意味がわからない。いや、見てたからわかってるんだけど……わかりたくなかった。
そうして、おでんさんとの会話を終えた友人がこちらへ駆け寄ってきた。
「どうだった? 面白かっただろ?」
「……うん、まあ、いろんな意味で面白くはあったかな……」
「だろう。最近一番のお勧めゲームなんだよ」
友人はそう言って笑ったが、私は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「さて、お前も面白く感じてくれたならもういっちょボス行くか? 皆もまだまだいけるってさ」
「……いや、私は遠慮しておく」
「そか。じゃあまた今度は二人でやろうな」
「う、うん……」
そう言い合って、私は一人ゲームからログアウトした。頭につけていたVR用の機器を取り外して、溜息をつきながら私は呟いた。
「もうやらん。このゲーム」