どうも、茶畑紅です。
今度の短編コンテストは参加するつもりですが、スタートダッシュと共にあげることは出来なさそうです(汗)。一応もう一つの作品はあらすじも考え終えて、執筆し始めているのでアップはします。もし楽しみにしてくれている方がいましたら、もうしばらくお待ちください。
では、以下短編です。
・短編 『湯治場』『脳』
俺たちは今、湯治場へ旅行に来ていた。
当然目的は湯治。温泉に入ることで、療養をしようとゲーム仲間の皆で決めたのだ。
え? 別に何処も悪くなさそうに見えるって? それはそうだ。目に見えないところがおかしいからな俺たちは。何がおかしいのか、それを簡単に言えば「脳」なんだけど、見てもらったほうが早いだろう。こういうことだ。
「おー、いろんなとこから湯気が立ち上ってんな。家屋もよくわからんが伝統を感じる造りで、おもむき感じていいじゃないか」
「だな。でも、こうも人が多いと、LMGぶっ放して全員殺したくなるわ」
「僕なら真上にグレネード投げますね。多分一気に5キルは出来るでしょう」
「……お前ら、ゲームのことを忘れるために来てんだから、もっと自重しろよ……」
こんな感じ。大体わかっただろう。要するに俺たちは、ゲーム脳を直す為に温泉旅行を選んだわけだ。
当たり前だけど、湯治するためにきているのだから、滞在期間は2週間ほどを予定している。最近はストレスが嵩んでみんなイライラしてたから、どうにかしようと俺が提案したんだ。この様子を見るに正解だったと思う。ただ、他の観光客に迷惑をかけないかだけがすごく心配だ。
「で、僕らが泊まる拠点は何処なんです?」
「ああ、それは重要だな。あまりよくない位置取りをすると、不利になっちまうからな。さぞいい宿を予約してあるんだろうな」
節々にゲーム脳特有の言動を感じるが、俺は溜息をつくに留めて、予約した旅館へと案内することにした。
辿り着いたのは、多分この辺りで一番大きな旅館。有名で、食べ物も温泉も文句なしと評判の旅館で、有名人もよく利用するらしい。もちろん、その分値段は割り増しだが、プロゲーマー兼ストリーマーとしてそれなりに稼いでいる俺達には、簡単ではないけれど普通に出せる額だった。
「おお、いいな。テレビで見たことある気がするぞ」
「僕はここだろうと予想してましたけどね。事前にチェックしたところ、ここが一番妥当なところでしたから。外されたら、それこそグレネード投げつけてましたよ」
「……お前が言うと冗談に聞こえないんだからやめてくれ」
俺は背筋に冷や汗を感じながら、そう肩を竦めた。
それから俺たちは旅館の従業員の指示に従い、部屋まで案内され、一日の流れを説明された。
「よし。じゃあ早速温泉行こうか」
「え、まずは最新情報のチェックをしたいんですが。今度新しい武器が出るみたいなんで……」
「それは俺も気になってたぞ。一緒に見ようぜ!」
「……これから2週間触れられないんだから、あんまりゲームのことばっか考えてると後々きつくなるぞ」
そう伝えても、二人はスマホを見せ合いながら、楽しそうにゲームの話を始めてしまった。いや、まあ俺も気にならないわけじゃないけど。でも、そう言う情報を見てるとやりたくなってしまうし、極力触れないほうがいいと思うんだけどな……。
俺は仕方なく一人で温泉へ向かうことにして、用意をして部屋を出た。
それから、俺は一人でいろんな効能の温泉を回り、一通り楽しんだ後露天風呂にゆっくりと浸かっていた。
「あいつら大丈夫かな……」
青空を見上げながら、俺は二人の心配をしていた。
二人とは高校生の頃にネットで知り合った仲だけど、20代後半になった今でも一緒にゲームをしている。変なところの多いやつらだけど、俺にとってはかけがえのない友達だ。これからもずっと一緒にいたいと思ってる。
だけど、最近一緒にゲームをすると、暴言を吐いたり物に当たる回数が増えてきた。昔からある程度はそう言うこともあったし、仕事として活動する中でもそれは一つの芸風として定着していた。世間からもそんなに悪く言われず、むしろそこが面白いところなんて言われて人気もあった。
しかし、この間アンチが騒いだことで爆発し、二人が炎上しかけた。俺がどうにかその場はなだめたが、このままではまずいと思ってこの旅行を提案したんだ。ばらばらになんてなりたくなかったから。
「でもあいつら、反省してないんだよなぁ……」
呟きつつ目を瞑る。露天風呂は外の空気を吸えるし、ここのはそんなに温度も高くない。考え事をしたいがための長風呂に向いている気がした。
俺は二人を誘ったとき、ダメもとだったんだけど、案外簡単に乗ってくれて俺は驚いた。だって、あんなにゲームに固執している奴らが、2週間もゲームから離れることを承諾するはずないと思っていたから。俺だってゲーマーの端くれとして抵抗があったのだ。俺以上にゲームが好きなあいつらには耐えられないと思っていた。
「ほんと、何でだろうなぁ…………あ、あれ……」
大きく息を吐くように呟いてから、立ち上がろうとすると、うまく踏ん張れなくて体が大きくぐらついてしまう。
涼しくてあまり熱さを感じなかったけど、もしかしてのぼせてたのか?
そう思い至ったときにはもう遅くて、俺の体はぐらりと傾いて倒れた。そこで俺は意識を失った。
「――い! おい! 大丈夫か!?」
「……んあ?」
気付くと俺は脱衣所の椅子に寝かせられていて、二人心配そうに顔を覗き込んできていた。
何で、俺はここにいるのだろう。よくわからない……。
「どうも、のぼせて倒れたあなたを近くにいた方がここまで運んでくれたみたいです。そうして、従業員の方にその話を聞いて僕らも駆けつけてきたんです。覚えてますか?」
ああ、そうか。俺露天風呂でのぼせて……。
「悪い……心配かけた……」
「いんだよそんなことは。それより体は大丈夫か? 何処も痛くもおかしくもないか?」
「あ、ああ、大丈夫だけど……」
普段の様子からは想像できない慌てぶりの二人を見て、俺はたじたじになってしまう。こいつら、こんなに優しいやつだったっけ?
「……もう、ほんとうに心配しましたよ。一日目からこんなことになって、帰らなきゃいけなくなったらどうするんですか?」
「……え?」
その質問は、予想外のものだった。
だって、こいつは一番帰りたがると思っていたから。そんな風に言われるとは思わなかったんだ。
「いや、それは本当に悪かったけど……」
「ぶはは! なんで意味わかってない顔してんだよ。俺達がこの旅行を楽しみにしてたことくらいわかってんだろ?」
「え? そうなのか?」
仕方なく付き合っているんだと思っていたから、思わずそう返してしまった。
そんな俺に、きょとんとした顔を二人は向けて、やがて呆れたように溜息をついた。
「あー、お前ってそう言うやつだったよな。ゲーム中の洞察力は化けもんなのに、人間関係にはとんでもなく疎い。ちぐはぐにも程があるわ」
「本当に馬鹿ですね。やっぱりグレネードお見舞いしたほうがいいと思います」
「……お前ら」
あまりのいい様に、悲しくなってくる。それじゃあまるで、俺もお前ら同様ゲームのことしか頭にないゲーム脳みたいじゃないか。
「言葉にしないとわからないみたいなので、言っておきますね。僕はこの三人ならゲームじゃなくても、一緒にいて楽しいと思っていますので、今回の旅行も三人で楽しく過ごしたいんです」
「俺も右に同じだ。やっぱお前らと一緒にいるのが楽しいんだよ。俺は口悪いから普通の人は寄り付かないのに、お前らは気にせず一緒にいてくれるからな!」
その言葉を聴いただけで、俺は泣きそうになった。
はは、なんだよ。ゲームだけが繋がりだからって必死に心配していたのがばかみたいじゃんか。最初からこいつらは俺のことをただのゲーム仲間ではなく、友達として想っていてくれたんじゃないか。
もう、ほんと、最高の奴らだよ。
「そっか。ありがとう。そんで、これからもよろしく」
「今言うのか? ま、でもよろしくな」
「よろしくお願いします」
三人の友情を改めてかみ締め、俺は笑顔を浮かべる。そして、三人で笑いあった。
「と、纏まったところで、旅行の続きを楽しみましょうか」
「そうしよう……とと」
「おいおい、大丈夫か? 肩貸すからとりあえず部屋まで行くぞ。旅館の人が一応布団敷いてくれてあるから、そこでお前はとりあえず休め」
「残念だけどそうする……」
「僕らはあなたを置いたら温泉を楽しみますけどね」
「あ、ずるいぞ」
「ぶはは! 一人で勝手に勘違いして馬鹿なことするからだわ!」
そうして、俺達の旅行は始まり、ゲームのことは結局忘れられなかったけど、2週間楽しむことが出来た。
湯治としてはちょっと違うかもしれないけれど、満足の行く旅行になったし、本当によかったと思う。また機会があれば、三人でこういった旅行にこよう。そう思ったのだった。