どうも、茶畑紅です。
短編コンテストに参加する為に早く書かなきゃ! と思っていたけど、あれ11月末までやってるんですね。もっと短いと思って焦ってました(汗)。でも、まだ時間あるからなんて余裕ぶっていたら二ヶ月くらいすぐに経ってしまいそうなので、完成度高めながらなるべく早く参加しようと思います。
今回の短編ですが、定期的にある読まなくて良い日です(汗)。書いているうちに着地点がわからず、ふわふわした結果意味不明になってしまったので……。まあでも、一応毎日書いている証として、ここに残しておくので、もし見ている人の中で執筆活動をしている人がいたら、これを読んで自身をつけるのに使ってやってください。こんなへたくそなヤツでも執筆活動してるんだな……って(笑)。
茶畑紅でした。
・短編 ワード『生徒会長』『美談』
俺は今、酷く悩まされている。その理由は、今目の前で繰り広げられている賛辞合戦のせいだ。
「絶対水瀬君がいいと思います!」
「俺もそう思う! 生徒会長やるなら水瀬以外ありえないね!」
「私もこの前助けられたし……水瀬君にだったら、みんなついて行くと思うな」
「水瀬って勉強も出来るし、ルックスもいいし、何より性格が聖人かって位良いからな。このクラスから出るなら、間違いなく皆瀬が生徒会長に一番相応しいだろ」
多分俺は今言い表せないほど酷い顔をしていると思う。クラスメイト全員に褒めちぎられて、多分顔や耳どころか全身が真っ赤になっているだろう。もうここから逃げ出したい気分だった。
事の発端は、担任がこのクラスから生徒会長の立候補者を出して欲しいという提案によるものだった。それを聞いたクラスメイトたちは皆一様に嫌な顔をして、唸り声をあげていた。俺もその一人。生徒会長なんてめんどそうな役職誰がなりたがるのだろうかと思っていた。
しかし、誰かが「水瀬なら」と声を発したことで、状況が一変してしまった。
その言葉にクラスのほとんどが乗っかり、先ほどのように俺を推す声がわいわいと上がり始めたのだ。俺のやる気なんて関係なしに……。
このままではまずい。教師も説得されかけているし、なし崩し的に俺が立候補者にされてしまう。それだけはなんとしてでも避けないと。そんなものになるために俺は良い子を演じているわけではないのだから。
「み、みんな、ちょっと待ってく――」
「そうだ! 皆瀬について、この前こんなことがあったんだ。みんな聞いてくれよ」
俺の声を遮るようにして、男子の一人が声を上げた。クラスの皆は俺のことなんて無視して、その男子の話に興味津々と言った様子で、耳を傾けた。
「俺がさ、この間不良にからまれている女の子を街中で見かけたんだけど。その不良は5人組みでさ、しかもがたいもよくていかにも暴れてそうな見た目の奴らで、誰も手を出せずみていることしか出来なかったんだよ」
「あんたさいてー。無理だとわかってても助けに行きなさいよ」
「いや! 確かにその通りだが……今は俺のことじゃなくて話を聞いてくれ。んで、まあ誰も助けに行けなかったわけだが、俺がその場で様子を見ていると、颯爽と一人の男が飛び出して行ったんだ」
「それが水瀬君?」
「そう。水瀬だった。誰も飛び込むことが出来なかったのに、水瀬は躊躇うこともなく女の子の元へ駆け寄り、不良たちを巧みな話術で追っ払った。本当にかっこよかったよ。そんな水瀬が生徒会長になってくれたら、いいよなぁ」
彼はそう締めくくり、皆を煽るように聞いた。クラスメイト全員がうんうんと頷き、俺は一人でうんうんと唸った。
違うんだ! その時の俺は、好きな子にいいところをみせたくて、見栄を張っただけなんだ! 実際は全身を震わせたへっぴり腰だったはずだし、いつ殴られてもおかしくないと恐怖に怯えていたんだ! 本当にそれだけだったのに!
そう声に出したかったけど、好きな女の子はすぐそこにいるし、言えるはずもない。俺は黙ってクラス中が盛り上がるのを見ていることしかできなかった。
そして、それを止めなかったのが俺の犯した最悪のミスだった。
「私も水瀬君のすごい話知ってるよ! あれは朝の登校中の話なんだけど――」
そうしてなぜか始まる俺の美談合戦。それも全部が全部、好きな子にいいところをみせたくて、かっこつけたところばかり。恥ずかしくてたまらなかった。
なぜかクラスメイト全員が一つずつ俺の美談を披露する流れができて、生徒会長がどうのこうのはもうそっちのけ。部活があるやつだっているだろうに、放課後の時間を全て使う勢いで、皆自慢げに話を広げた。ちなみに、担任の先生は、生徒会長立候補者に俺の名前を出しておくと告げて、早々に立ち去ってしまった。どうも、もう逃げ場はなさそうだった。
「――と、僕がみた水瀬君のお話はこんな感じ。ほんと、良い人だよ水瀬君は。水瀬君が生徒会長になるなら、僕は何も文句無いよ。さて、次は谷屋さんかな?」
そうして、席の順番で披露していた俺の美談もようやく最後。谷屋さんの話になった。
そこで俺の心臓が暴れ出す。今までで一番の緊張だった。油をさしていない機械のように首を動かし、そちらを向くと、谷屋さんと目が合ってしまう。にこりと微笑まれて、俺は更に硬直した。
何を隠そう、谷屋さんが俺の好きな人なのだった。
「私が知っている水瀬君はね……うーん、なにかなぁ。水瀬君のすごいお話はいっぱいありすぎて、どれが一番ってちょっと決めるの難しいかも」
うんうんと谷屋さんは悩み始める。
当然だ。俺がいいところを見せる時は、必ず近くに谷屋さんがいる。逆に言えば、クラスメイトの離していた全ての美談とそれ以上を、彼女は一人で全て知っている。それを見せ付けるために俺はそうしているのだから。
その理由は、以前谷屋さんの好みを聞いたとき、「困っている人を助けられる、ヒーローみたいな人」といっていたからだ。それを目指していた結果、俺の立場はいつの間にか聖人のような人間というところに納まってしまった。
「あ、思いついた。じゃあ、とっておきのお話を一つ」
谷屋さんはそう前置きをして、話しはじめる。
「私がこの学校の入試を受けに来たときの話なんだけどね、水瀬君今とは違ってすごく暗い人だったの」
……え、待って。それって俺が谷屋さんに一目惚れした時の話じゃ……?
「そのときの水瀬君、緊張しすぎて体がひどく震えてたの。だから私はお節介だと思ったけど、大丈夫? って声を掛けに言ったの。そしたらもっと体を震わせちゃってね。その様子が可愛くて、緊張をほぐすためのあれこれをいろいろアドバイスしてあげたの」
うん、覚えてる。手の平に人って書いて飲み込むとか、口ですって鼻で吐く深呼吸とか、よく聞くものばかりだったけど。
「そしたら水瀬君なんていったと思う? 好きです……だって。笑っちゃうよね」
そう言って、くすくすと谷屋さんは笑った。そこに馬鹿にするような空気は無く、ただただ懐かしんでいるんだろうことが窺えた。俺は涙目になるくらい恥ずかしかったけど。
「今はすごくかっこよくなっちゃったけど、今もきっと根は素直なそのときの水瀬君のままなんだと思う。そんな水瀬君に生徒会長やってもらいたいって、私もそう思うかな」
「はい! 生徒会長頑張ります!」
俺は思わず叫んでしまっていた。谷屋さんに応援されてしまったら、もうそれはやるしかない。たとえそれが、厄介ごとを押し付けられただけだったとしても。恋心には逆らえないのだ。
そうして、クラスメイト達のなまあたたかな視線にさらされて、その謎の会は終了した。後に教室に残ったのは、クラスメイトたちが空気を呼んだのか俺と谷屋さんだけだった。
「水瀬君。生徒会長になれるよう頑張ってね。私も応援してるから」
「うん。任せておいて。俺が生徒会長になって、みんなを引っ張ってみせるから」
もう開き直って頑張ることを決め、そう言って頷いた。どうせなら、生徒会長として頑張って、谷屋さんに好かれるよう頑張ってみよう。そう思っていた。
「――もし水瀬君が生徒会長になれたら、付き合ってあげるね」
拳を握っていると、近づいてきた谷屋さんが耳元でそう囁いた。
「……え?」
聞き返して谷屋さんを見ると、にこりと微笑んでそのまま教室を去っていってしまった。
俺は一人放心して、立ち尽くしてしまった。そしてその内容を理解すると、俺は叫んだ。叫んで走った。教師に怒られるまで。
そうして、俺は生徒会長立候補者となったのだった。