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近況報告と短編30

どうも、茶畑紅です。

冬から第六回カクヨムWeb小説コンテストがはじまりますね。毎回言っているような気がしますが、今年こそ何かしら長編を書いて応募してみよう! という気になっています。まだどんな作品を書こうかも考えていませんが……。とりあえず、今は五分で読書に参加する短編について考えようと思います。

今回の短編ですが、今までの中でトップレベルのお気に入りです。ワードの相性もよくてすらすらと書けました。いつもこんな風ならなぁ……(汗)。まあでも、今回で毎日書いてきた短編も30個目。一つの節目にようやく辿り着いたような気がします。あまり実感はないけれど、実力がついてきてるのかもしれません。まだまだ初心者の域を出ていないので、うぬぼれは出来ませんけど(笑)。とにかく、これからも続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
茶畑紅でした。

以下短編です。

・短編 ワード『ベランダ』『アルコール』

「……はぁ」

 何度目だろう、溜息をつくのは。今夜だけでも、数え切れないくらい生気と共に肺から空気が抜けている。小さな穴が開いて、だんだんとしぼんでいく風船みたいな気分だった。
 今日は、小さなミスをしてしまって、上司にこっぴどく怒られてしまった。もちろん、ミスをしてしまったのは私だし、怒られるのは当然だとは思う。けれど、あの上司はいつも私にだけ辺りが強いのだ。たぶん、男ばかりの部署に所属させられた女の私が気に入らないのだと思う。あの上司はかなりお年を召していらっしゃるし、頭の中に凝り固まってしまった男尊女卑の心得が残っているのだろう。
 そう理解していても、怒られたら気は落ち込むものだ。一人こうしてベランダで外を眺めていると、泣きたくなってくる。

「あした会社行きたくないなぁ……はぁぁ……」

 また大きな溜息。これ以上口を自由にさせていたらとめどなく空気が体内から逃げ出して、死んでしまうかもしれない。そう思った私は、手に持っていた缶のプルタブを指先で上に持ち上げた。
 カシュッっと小気味良い音が鳴って、アルコールの香りが鼻腔をくすぐる。口元まで持ち上げて、喉を鳴らしながら勢いよく煽った。
 私は、嫌なことがあるとこうしてベランダでお酒を飲む。六階にある私の部屋のベランダはかなり涼しくて、熱を持った頭を適度に冷やしてくれる。そこにアルコールを流し込めば、たいていの嫌なことは忘れられた。そうでもしないと、私はこのストレス社会を生きてはいけなかった。

「うわ、これあんまり美味しくない……」

 350mlの缶が半分ほどになるまで飲み干してから、私は小さく呟いた。
 缶のラベルを見ると、そこにはビール……ではなく発泡酒と書かれている。今月はあまりお金がなくて、これしか買えなかった。いつもはもらい物のワインとか、ウイスキーとか日本酒とか、そういったものばかり飲んでいたから尚更美味しくなく感じてしまう。せっかく買ったのだから残すなんて事はしないけれど、あまりたくさん飲もうという気にはなれなかった。
 そうなると、今度は忘れさせてくれるほどのアルコールが脳に浸透せず、どうしても今日の上司の鬼のような形相を思い出してしまう。また、溜息をついてしまった。

「あれ、メールかな?」

 そんな時、ポケットに入れていたスマホがSNSのバイブレーションとは違う震え方をして、首をかしげた。取り出して画面をつけてみると、新着メール一件の文字。友達や会社の同期たちとの連絡は基本的にSNSでするし、定期的に来る自動配信のメールマガジンなどはこの時間には来ない。そうすると、送り主の心当たりは一人しかいなかった。

『今週末の連休は帰ってくる?』

 予想通り、母親からのメールだった。

「なんで急に……」

 思わず呟いてしまう。
 新卒で就職してから今まで、そんな連絡が来たことはなかった。別に仲が悪いわけではないけれど、両親は好き勝手やらせるタイプの人間だったから、私が何か言わない限り何も言わないはず。それが今更、どうしてそんなことを聞いてくるのか、私にはわからなかった。

『急にどうしたの?』

 そう打ち込んで返すと、一分もかからず返信がくる。

『そろそろ都会の生活に疲れた頃かと思って。うちに帰ってくれば仕事のことなんてしばらく忘れてゆっくり過ごせるわよ?』

 図星を突かれてドキッとしてしまう。でもすぐに、母はこういう人だったと思い直した。
 放任タイプの人間だけど人のことはよく見ていて、他人の気持ちによく気がつく。それが娘のことともなれば、たとえ離れていてもわかってしまうみたいだ。敵わないな、と思う。

『うん、そうする。お母さんありがとう』

 私は素直にそう返して、残りの発泡酒を全部飲み干した。
 空になった缶を脇に置いて、両手を持ち上げて伸びをする。アルコールに頼らなくても、なんだかすっきりとした気分だった。
 何の気なしに夜空を見上げてみると、星が瞬いて見えた。いつもは、都会の空は濁って汚く見えていたのに、今日は不思議と綺麗に見える。人間と言う生き物は、少しの心境の変化でここまで見えるものが変わるのか。なんて哲学的なことを思いながら、私は苦笑した。
 もう一度心の中で、母親にありがとうと言うと、メールがまた返ってきた。

『そう、じゃあ待ってるわね。あと、冷える前に家の中に入りなさいね。あなたは昔から気分が落ち込むと外の空気を吸いに出てたし、きっと今も外なんでしょう? 風邪だけは引かないようにね。それじゃあお母さんは寝るわ。おやすみ』

 何もかもばればれで、私は声を上げて笑ってしまった。
 『うん、おやすみ』と簡単に打ち込んでからスマホをしまい、言われたとおり部屋の中へと戻ることにする。空き缶を片付けて、寝る前のあれこれを済ませてベッドに潜ると、すぐに瞼が落ち始めた。こんなに気持ちよく寝られそうな感覚は久しぶりだった。
 目を瞑って、まだ週末まで数日あるけれどもう少しだけ頑張ろう。そう私は気合を入れた。

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