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近況報告と短編28

どうも、茶畑紅です。

昨日は上げれずすみません。今日からまた毎日あげていこうと思いますので、またお願いします。

今日の短編ですが、時間がなかったわりに結構いい完成度だと感じています。だんだんと実力が身についてきているのかもしれません。これからも同様に頑張って、できたら長編の製作にも移っていきたいですね。

茶畑紅でした。
では、以下短編です。


・短編 ワード『コーヒー』『ジレンマ』

「私はもう決まった……というか決まってるけど、どう? 呼んでいい?」

 静かで雰囲気のいい喫茶店の店内、穏やかな微笑みを向けられた俺は額に脂汗を滲ませていた。
 俺は今、大きな問題に直面している。それは、コーヒーを飲むか、飲まないか、その二択。俺にとっては究極の二択だ。
 なぜなら、俺はコーヒーが飲めないから。あの強烈な苦味が非常に苦手だった。子供舌だと馬鹿にされようが、苦手な物は苦手だから仕方

ないだろう?
 それならば飲まなければいい。と思うだろうが、理由がある。

「ちなみに何を頼むつもりで……?」
「私は当然コーヒーよ。ここのコーヒーは風味がよくて美味しいの。出来たらあなたにも味わって欲しいわ」

 その理由がこれだ。要するに、彼女はこの店のコーヒーをえらく気に入っていて、俺に勧めたい一身で連れてきたのだ。
 付き合うことになってから初めてのデートで俺はかっこ悪いところをみせたくない。それに、彼女がこんなにもキラキラとした瞳でお勧め

しているのだ。その気持ちを無碍にしたくはない。と言う葛藤から、俺は悩んでいたのだ。

 俺の選ぶ道は先ほども言ったとおり二つ。
 彼女と同じコーヒーを頼んで我慢して飲むか、飲めないからと断って彼女の気持ちを無碍にするか。最低な二択だ。なぜこんなことになっ

てしまったのか。こんなことになるならば、先にコーヒーは飲めないと伝えておくべきだった。
 しかし、今更後悔しても遅いのだ。俺はこの二つの選択肢から選ばなければならない。

 よし、まずこの二つの選択肢の先にどんな未来が待っているのか想像してみよう。
 まずは、飲むことにした場合だ。

 コトンと目の前に置かれたコーヒーからは白い湯気が立っている。
 彼女は嬉しそうに手を合わせて、優雅な動作でコーヒーを口に運ぶ。ゆっくりと飲み込むと、感嘆の吐息を漏らしてカップをソーサーへ戻

す。俺はその一挙手一投足を眺めていた。

「あれ? 飲まないの?」
「……あ、うん。の、飲むよ」

 彼女に催促され、俺は恐る恐るカップを手に取り、震えたまま口元まで持ち上げて、ゆっくりと煽った。
 直後に襲い来る、黒く濁った泥のような味。一応砂糖は入れているが、それだけではどうにも拭えない苦味。俺の顔はみるみる歪んで言っ

たと思う。
 顔を上げると、彼女がいぶかしげな表情を浮かべていた。

「コーヒー、飲めないの?」
「……ごめん。無理した。苦いものは苦手なんだ……」

 隠し切れないと思って正直に答えると、彼女の瞳から光が消えたように思えた。

「コーヒーも飲めないほど子供だったのね。もうあなたとはやっていけないわ。さようなら」

 冷たく言い放ち、彼女は俺の前から去っていってしまった。

 ……うん。間違いなくこうなるだろう。
 彼女は、年上で、大人びていて、数々の男性のアタックをことごとく拒絶してきた魔性の女だ。なぜ俺を受け入れてくれたのかはわからな

いが、子供じみた男の相手をするようには思えなかった。
 ダメだ。この選択肢は。まったく良い結果になることが想定できない。
 次だ。飲まない場合のことを考えろ――。

「俺は……コーヒーはやめておくよ」

 正直に告げて、別のメニューを頼もうとメニュー表に手を伸ばす。
 すると突然、ガッと手首を強い力でつかまれた。

「……なんで?」
「え、あ、いや、何でって……俺、コーヒー苦手だから……」
「私のお勧めが信じられないって言うの……?」
「え、な、何で? そ、そう言うことじゃないでしょ……?」

 有無を言わせぬ視線と、強烈な重圧を感じる威圧感。
 俺はしどろもどろになりながら、ただ体を震わせることしか出来なかった。

「……最低ね。私の気持ちを無碍にするなんて。あなたとはやっていける気がしないわ。さようなら」

 バンっと俺の腕をテーブルに叩きつけて、彼女は去って行った。残ったのは静まり返った店内の最悪な雰囲気と、俺の腕を腫れさせるほど

の激痛だけだった。

 ……最悪だ。どう足掻いても良い結果になる気がしない……。このジレンマをどうしたらいいんだ……。
 途方にくれる気持ちで、俺は下を向いてしまった。

「どうしたの? 決まったならもう呼んじゃうよ?」

 何を思ったのか、彼女はそう言って店員を呼ぶチャイムを押してしまう。すぐに女性の店員がよってきて、注文を聞かれた。
 ど、どうする? まだ俺はどっちにするか決めてないぞ!?

「私はオリジナルブレンドのコーヒーをブラックで」
「お、俺もオリジナルブレンドのコーヒーを下さい……」
「お砂糖はどうされますか?」
「……た、たっぷりでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 咄嗟に言ってしまったが、果たしてこれでよかったのだろうか……。砂糖をたっぷりにしてもらったけれど、まったく飲める気がしない。

そもそもブラックが苦手なのではなくて、コーヒーが苦手なのだ。砂糖だけでどうにかなるはずがない。
 震えて待つ俺に、正面から訝しげな声が聞こえた。

「……砂糖たっぷりって、どうして?」

 嫌な想像を先にしてしまったせいか、彼女の声は暗い気がした。

「い、いや、苦いの、苦手だから……」
「……ふーん?」

 待ってくれ。今の「ふーん」はどういう意味がこもっているんだ。もしや、失望したとか、ガキ臭いとか、そう言うことなのでは……。
 どんどん暗く、鬱屈な考えになっていく俺の元に、ついに店員が持ってきてしまった。カップの中を満たす底の見えない黒い液体から、強

烈な恐怖を感じた。砂糖でまろやかになっている様子はまったく見て取れない。飲む前から諦めてしまいそうだった。
 彼女は自分の分のコーヒーを口に運び、満足そうな笑みを浮かべながら、こちらの様子を横目に見てきていた。
 俺の反応を見定めようとしている!? もしここで俺が彼女のお眼鏡にかなう人物じゃなかったら、秒で振ろうと思っているに違いない。
 やばい、心が折れそうだ……飲める気がしない…………いや、でも男なら――

 ――行くしかないだろ!!

「……んん!!」
「あ」

 カップを持ち上げて、勢いよく煽った。もうどうにでもなれ、と言う気持ちだった。
 出来立てのコーヒーでそんなことをしたら、当然――。

「あっちぃいいい!!」
「ちょ、ちょっと! 何してんの!?」

 一度口に含んだコーヒーをぶちまけて、盛大に机を黒く染め上げてしまった。
 彼女は慌ててティッシュやらお手拭やらでテーブルの上を拭っていて、俺は熱さに口内を焼かれて悶絶。店員さんも慌てて雑巾やら何やら

を持ってきて大騒ぎ。店内にいたほかのお客さんも、何が起こったのかと俺達を見てきていた。
 ……想像したものより、さらに最低最悪の結末だった。

 片付けを終えてからしばらく経ち、落ち着いた俺の前には、まだ彼女が座っていた。
 なぜ、まだいるのだろう。あんな失態を晒してしまったのだ。もう関わるなと罵って、電話もSNSもブロックされて、完全に拒絶されて

もおかしくないはずなのに……。
 それなのに、彼女は心配そうに俺の様子を見ていてくれた。

「大丈夫?」
「……ごめん、馬鹿なことして」
「それはいいけど……でも、どうしてあんなことしたの?」
「それは……」

 彼女は今もまだ心配そうにしてくれている。すぐに去ってしまう様子はない。でも、きっと近いうちに俺の元を去ってしまうだろう。だっ

たら、今のことを謝っておきたい。そう思った俺は、正直に話すことにした。

「コーヒー、苦手で飲めないんだ……」
「そうだったんだ……。私お勧めとか言って、無神経だったね。ごめんね」
「え?」

 想像と違った返しだった。てっきり、つまらない男なんていわれるものだと……。

「……嫌いになったりしないの?」
「なんで? そんなことで嫌いになったりするわけないでしょ? 嫌いなものなんて人それぞれあるわけだし、私だって食べれないものはあ

るもの」
「そ、そうなのか……」

 安心した。彼女は俺が思っていたよりすごく優しかったみたいだ。付き合ってまだ少しだったから、彼女のことを見誤っていたらしい。最低な想像をしてしまって、謝りたいくらいだった。

「……でも、ちょっと気になったけど、今まで飲んだことのあるコーヒーってインスタントだけだったりする?」
「え、そうだけど……。どうしたんだ?」

 唐突に聞かれて、答えに困ってしまう。彼女の意図がわからなかった。

「やっぱりそうなんだ。だったら、騙されたと思って、飲んでみてよ」

 彼女は自信満々の顔でそう言って、自分の飲んでいたコーヒーを俺の前に差し出してきた。俺は何のつもりかわからず、困惑していた。

「あ、もう冷めてるけど、一気飲みはしないでね? あと、飲んでみてやっぱり嫌いだったら正直に言ってくれていいから」

 ほら、と催促されて、言われるがままにカップを持つ。口元まで持ち上げてみるけれど、やっぱりその黒い液体を美味しそうに思うことは出来そうになかった。でも、彼女の言葉に従って、恐る恐る口を付けてみた。

「……え、おいしい……かも……」

 砂糖も入っていないのに、嫌な苦味は全然感じなくて、だけど確かなコクを感じて、すごく美味しかった。
 驚いて、俺は彼女を見て、更に驚いた。

「でしょ? ふふ、よかった。わかってくれて」

 そう言って嬉しそうに微笑む彼女は、すごく可愛らしかった。胸がどきどきと高鳴っていた。彼女の魅力を、改めて感じた。

「あの、これからもよろしく……」
「え、突然何よ。言われなくてもよろしくするよ?」

 そう言いあって、お互いに顔を合わせて笑った。

 今日、一つ新たな彼女の魅力を見つけて俺は思った。これからも彼女と過ごして、もっともっと彼女の魅力を見つけていきたい。そして、俺の魅力も彼女にもっと知ってほしい。
 だから、これからもずっと一緒にいよう。そう思ったのだ。

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