どうも、茶畑紅です。
昨日カクヨム公式のツイッターを見て知ったのですが、「5分で読書」短編小説コンテストをまた開催するみたいですね。お題も決まってますし、短編に慣れてきたような気がしているので、挑戦してみようかなと思ってます。出来れば、全てのお題に一つずつは頑張ろうかなと思います。今のところ全然思いついていませんけどね……。
今回の短編ですが、落ちが薄いのは狙ってやりました。1000字から2000字に収めたかったし、なんでもないよくある日常、みたいな小説を描いてみたいと思っていたからです。それに、いろんな小説を読んでいると、たまにそういった落ちといった落ちがないのに、読了感はすっきりとしたものになる作品も多かったから憧れていたのもあります。
その結果うまく書けたのかどうかはよくわかりませんが、練習にはなったと思ってます。どこが難しくて、どうするのがいいのか、自分なりに少しつかめたような気もしてます。今後はこういうのも書けたらいいなと、そう思います。
それでは、これで。茶畑紅でした。
以下短編です。
・短編ワード『老いぼれ』『淡水魚』
私は、淡水魚を飼っていた。
飼っていたと過去形なのは、もう皆死んでしまったからだ。婆さんが他界してから飼い始めた色鮮やかな淡水魚達だったが、今日最後の一匹が死んでしまった。先ほど、水槽に張った水の表面に浮いていた透き通るような赤色の子を、庭に埋めて供養してきた。
その後、水槽を洗って、なんとなく水を張って眺めていた。
「誰もいなくなってしまったの……」
私は一人で呟く。当然のように、いつも通りに水の張られた水槽の中には、一匹も魚は泳いでいない。その光景が、なんだか自分の住んでいる今この家と重なって見えた。
十数年ほど前に、娘は嫁に出て行き、婆さんは数年前に逝った。だんだんと寂しくなっていくこの家の様子は、まさに水槽の中と同じだった。
そう考えたら、もしかしたら最後も同じなのかもしれないと思ってしまった。一人寂しく残っているこの老いぼれは、誰に見取られることもなく、あの赤色の子と同じように、静かに死んでいくのかもしれない。私は途端に寂しくなってきた。
「娘は、元気にしとるかのぉ」
もう何年も顔を見ていない娘のことを想い、つぶやく。
最後に見たのは……婆さんが逝った頃か。あの子は私を嫌っていたから、大した話も出来なかったなぁ。もっと優しく接してやればよかった……。
今更後悔しても遅いのに、胸のうちに満ちた感情は、私を鬱屈とさせた。
連絡してみようかと持ち上げていた携帯を、静かに机の上に下ろす。最後に会ったとき、娘は結婚した相手と親しそうにしていた。それをこんな老いぼれが邪魔するのはいけないだろう。
ただ勇気が出ないだけなのに、そう言い訳して私は立ち上がった。
「これ以上こうしていても意味無いかのぅ」
淡水魚たちがいなくなった水槽をそのまま置いておくのも不謹慎な気がして、片付けることにした。
水を捨て、石や流木、水草などもあけて、水槽を洗う。何度もやった作業ではあるけれど、これで最後だと思うとまたとたんに寂しさが押し寄せてくる。また、一人ぼっちになってしまった。
全て片付け終えると、とぼとぼと居間のテーブルに戻り、携帯の前へと座る。携帯のランプが点滅しているのが目に付いた。
「メール……?」
右手で携帯を持ち上げて、左手で開いて画面を見る。『新着メール一件』という文字が、画面上部に現れた。
誰からだろうと思いながら、メールを開く。それは、しばらく会っていない娘からだった。
『最近調子はどう?』
娘は、婆さんが死んでから定期的にこういった連絡をくれる。いつもは無難な返しをして、『そう』と冷たい返事が来て終えていた。
だけど、なんだか今日は寂しさで胸が一杯だったから、思わず普段送らないようなことを送ってしまった。
『今日、飼っていた淡水魚の最後の一匹が死んでしまった』
淡水魚を飼っていることは伝えていたけれど、事細かにその様子を伝えるようなことはなかった。娘は魚が嫌いだったし、興味もなさそうだったから。
でも、今日だけはどうしても伝えたくなってしまった。
しばらく携帯を握ったまま待っていると、返事のメールが来た。きっと、今回も簡潔な一言だけなのだろうと思いながら開いた。
『それは残念だったね……。じゃあ今家にはお父さん一人なの? ……よければ、こっちで一緒に住む?』
その最後の一言に私は酷く驚いた。どういう風の吹き回しか、娘がこんなことを言うなんて。私は唖然としながら、『いいのかのう?』と送り返した。
『迷惑になるかもって考えているのなら、遠慮しないで。私と子供達もお父さんが来てくれたらきっと喜ぶ。それに、お母さんが死んでしまったのは、お父さんがお仕事に言ってるとき、一人で家にいたからだったでしょう? お父さんも一人になったら……そう思うと心配だから。近くにいてくれたほうが安心できると思って』
読み終えた私の瞳からは、涙が溢れてきていた。
私を嫌っていたあの娘が、私のことを心配してくれていた。その事実に、胸が熱くなっていた。
ハンカチで涙を拭いながら、私は『迷惑にならないならよろしくお願いする』と送った。
次のメールでは、『明日迎えにいくから準備しておいて』と簡潔に送られてきた。
私は携帯をしまうと、もう一度庭のほうへ足を進め、淡水魚たちのために作った墓の前にかがんだ。
思えば、この子たちは婆さんが死んで、寂しくなった私の心をずっと埋めてくれていた。それから今日まで、娘が私を連れ出してくれるまで支えてくれた。もしかしたら、この子たちは私のことを導いてくれていたのかもしれない。
そう思いながら、私は頭を下げた。
「お前達のおかげだのぉ。婆さんが死んでから、ずっと見守ってくれて本当にありがとのぉ」
そう言って、私は微笑んだ。