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近況報告と短編24

どうも、茶畑紅です。

やっぱり近況報告として書く事がなくなってきたので、今度から短編とその短編について思うことだけを書いていこうかと思います。ただ、もちろん近況報告を完全にやめるというわけではないです。近況報告は週一回のペースにしようと思ってます。そう言うことでお願いします。

では、今回の短編ですが、またながーくなってしまいました。いつもいつも1000字から2000字で考えているのに、あらすじを組んだ時点で1000字を軽く超えてました。思いついた要素をどんどん加えていくと、どうしてもそうなってしまいますね。設定を盛りすぎてしまうのは僕の悪い(?)癖です。練習にはなりますし、仕方ないと諦めることにします。というわけで、長いですがよければどうぞ。茶畑紅でした。
以下短編です。



・短編 ワード『きぐるみ』『地縛霊』

 私たちはとある依頼を受けて、このデパートにやってきた。人払いは済んでいるため周囲に人はおらず、依頼の対象はすぐに見つかった。私と師匠は少し離れたところから身を隠すようにして様子を窺っていた。

「あのきぐるみが除霊対象でいいの?」
「そうだ」

 訪ねると師匠は偉そうな口調で言った。
 私のほうが大学生で年上なのに、どうしてそう偉そうに出来るのだろうかこの男子高校生は。いや、私と彼の関係は弟子と師匠だからそのほうが正しいのかもしれないけど。でもやっぱりもう少し年上を敬う心を持って欲しいなと思う。

「それなら、今回は私がやってもいい?」
「なんでだ?」
「いや、私まだ実践したことないし。ここらで自分の実力を確かめておきたいなーと」

 そう言うと、師匠は眉を顰めた。

「そう言うことならダメだ」
「え、何で? 私には手に負えないくらいの相手ってこと?」
「いや、今のお前なら問題なく除霊できるだろう」
「じゃあなんでダメなの?」
「それは…………いやいい、俺がやるからお前は見てろ」

 あのきぐるみからはそれほど強い霊力も感じないし、動く気配もない。ただただボーっと立ってるだけだから、練習にはぴったりだと思ったんだけど……。師匠はそんな私の提案を無理やり拒んで、見て学べと突き放した。
 彼はいつもそうだ。私が退魔師見習いとして彼に師事してから、今まで何も教えてくれなかったし、鍛えてもくれない。ただ、自分のやり方を見せるばかりで何一つ身になることをしてくれない。彼が不器用なだけかもしれないけれど、私にだって向上心はあるし、師匠と言う立場になったのだから責任を持ってもっと色々教えて欲しかった。最近は、もうこれ以上彼に師事していても意味ないのではないか、鞍替えするべきなのではないかとすら思っていた。
 そんな私の不満をまったく気にも留めず、師匠は懐から一枚のお札を取り出した。

「……それ、なに?」

 思わず聞いてしまった。
 私にはどうしてもそのお札が気になった。あまりにも強い霊力がそのお札一枚に宿っていたから。師匠の力も合わせれば、ここら一体吹き飛ばせるのではないか。そう思ってしまうほどに。
 師匠は退魔師の中では情け容赦のない人間として有名だ。だから、あたりもろとも塵も残さず消し去るのではないかと思って戦慄した。今までそんな戦いをしたところは見なかったけれど、そうしなければならないほどあのきぐるみが危険なのかもしれないとも思った。依頼にはただの地縛霊とあったけれど、善良に見える霊が世界を滅ぼしかねない悪霊になってしまうことを私は知っている。あのきぐるみもそういった類の存在だったのかもしれない。
 そんな相手に私は何を慢心していたのだろう。師匠はそれをわかって止めてくれたのかも。

 ……いや、でも、さっき私でも問題なく除霊できるって言ってたよね?

「これはこうやって使うんだ」

 疑問に思っていた私によく見えるように師匠はお札を握った手を軽く振って、何かしら唱えた後、勢いよく自分の胸元へとたたきつけた。
 その行動に私はぎょっとする。あれほどの霊力を放つお札を自分に使ったら、そんなのひとたまりもない。さっきも言ったお通り塵も残らず吹き飛んでしまう。
 私が慌てて師匠の下へ近寄ると、案の定師匠の体は横に傾き、倒れそうになった。地面に当たる寸前で抱きかかえて、私は叫んだ。

「師匠――ッ!」
「……おい、そんな大声で叫ぶな。あいつに気付かれるだろう?」

 だけど、師匠らしき声は私の腕の中からではなく、背後から聞こえた。なんだか少し声のトーンが高かった気もするけれど。

「……え、師匠?」
「おう、無事成功したな」

 慌てて振り向くと、そこには小学校低学年くらいの年齢の男の子がいた。顔立ちは師匠にそっくりで、偉そうなその態度もすごく似ていた。と言うか、この男の子が師匠と言うことなのだろう。人払いをしてあるこの場所に小学生の子供がいるはずないし。

「あれ……? 本当に師匠?」
「この状況でそれ以外に何がある?」

 それでもやはり信じきれず、私がおずおずと問うと、男の子は呆れた様子で溜息をついた。
 この高慢ちきな態度、間違いなく師匠だ。見てくれは可愛くなったのに、まったく可愛げを感じない。やっぱりムカつく。

「さっきの札は霊体化するためのもので、かなり霊力を使うんだ」

 ああ、だからあんなに霊力を感じたんだ。と納得する。
 確か退魔師たちの研究によると、霊体化するのは簡単だけど霊体化した後もとの体に戻す為にかなり霊力が必要になる、とこの間退魔師が書いた本で読んだ。だから、あの札には膨大な霊力が宿っていたらしい。
 だけど、同時に疑問も湧いてきた。あの本にはこうも書いてあった。
 霊体化は可能になったが、そのコストに見合わず使い道がない。攻撃力や防御力が上がるわけでもなく、むしろ吹かれれば飛んでしまうくらいに弱くなってしまう。その上、霊体化している最中の本体は魂を失った状態のため、ほとんど屍と同然。加えて、霊体のほうが消されてしまうと、魂は帰る道を失い死んでしまう。
 要するに、何の意味もない技らしかった。なぜ、師匠は今そんなことをしたのだろう。とち狂ったのだろうか?

「じゃあ俺の体を頼む」

 師匠は相変わらず無愛想な顔でそれだけ告げて、きぐるみの元へと駆け出してしまった。
 もう師匠の行動は私には読みきれない。何か考えがあってのことだろうと、諦めることにした。
 もうどうにでもなれという気持ちで成り行きを見守っていると、信じられない光景を目撃してしまった。

「こんにちは、くまさん。ぼくふうせんほしいな」

 舌足らずなしゃべり方できぐるみの前に立った師匠は、柔らかい笑顔を浮かべていた。もう結構長い間師匠と一緒にいるけれど、笑顔を見るのは始めてなきがした。あまりにも驚きすぎて、師匠の体を落としてしまった。師匠の頭がコンクリートの地面に当たる鈍い音が響いた。

「ありがとう! くまさん!」

 私が慌てて師匠の体を拾い上げているうちに、きぐるみと師匠のやり取りは更に予想外の方向へと進んでいた。
 きぐるみは奇怪な動きで持っていた風船を師匠に差出し、師匠は先ほどよりも更に華やかで可愛らしい笑顔で受け取っていた。その笑顔にまた驚いたけれど、それ以上に驚くことがあった。

「……え?」

 おもわず声が出てしまったのも仕方ないことだと思う。
 きぐるみの地縛霊は、顔は見えないけれどどこか満足した様子でキラキラと輝く軌跡を残しながら、やがて霞むようにして消えてしまった。いつもは魔物や悪霊と戦うとき、物理的に攻撃して消し去っていたので、それは始めてみた光景だったのだ。でも、なんだか今までで一番綺麗な方法だと思った。あれも、除霊というのだろうか?

「師匠……今のは……?」

 いつの間にか帰ってきていた師匠に呟くようにして聞いた。

「成仏したんだ」
「成仏?」
「ああ、そうだ。地縛霊という奴は後悔や遣り残したことを想うあまり、その場所にしがみついてしまう。だから彼らを成仏させるためには、その後悔を消し、遣り残したことを成し遂げさせればいい。本来はその想いを読み取るのが難しいから、物理的に攻撃して無理やり消してしまうんだが……あいつの場合は簡単だったな。きぐるみを着ていたし、風船を持っていた。多分生前このデパートで働いていて、子供達に風船を受け取ってもらえなかったりしたのだろう」

 師匠の言葉には、優しさが含まれていた気がした。今のを聞いて、疑問に思ったことをまた聞いてみる。

「……でも、やっぱり攻撃したほうが楽なんじゃないですか?」
「楽かどうかで言えば間違いなく攻撃したほうが楽だろう。俺以外の退魔師たちもきっとそうして除霊するはずだ。だけど、俺は極力そういうことはしたくない。あいつはまだ悪霊にもなっていない霊だったからな」
「なんでですか?」
「だって、可愛そうじゃないか。あいつらだって元は人間だ。ただ、亡くなったときに他の人よりも強い想いがあって、成仏できなかっただけなんだ。だったらその未練をなくしてやれば、気持ちよく逝けるじゃないか。そうしてやるのが、正しい退魔師だと俺は思ってる」

 真剣な様子の師匠の言葉を聴いて、私は強く胸を打たれたような気持ちだった。この人を師事するのをやめようと思ったことを後悔した。ただただ上を目指すのではなく、正しい退魔師を目指すならこの人以上に師事するべき人間はいないと思った。
 もっと早く知っていれば、彼の行動をよく見て勉強できたのに。そう思って、それは私が悪いのかと思い直す。師匠を口下手で教えるのが下手な人間だと決め付けて、目を背けてきたのは私だ。どう考えても私が全部悪い。これからは心を入れ替えて、もっと頑張ろう。そう決めた。

「そういえば、さっきからお前なんで敬語なんだ? 今までため口だったろ」
「と、とくに理由はないですよ……?」
「ふーん、まあいいけど。というか、そろそろ戻りたいから俺の体下ろしてくれるか? そんなに抱かれても困るんだが」
「え……え? あれ!? ご、ごめんなさい!」

 慌ててそっと師匠の本体を下ろし、謝った。
 師匠は小さく溜息をついてから、小さい体でもぐりこむように本体に溶け込む。しばらくして、師匠はむくりと上体を起こした。
 そして、師匠は顔を顰めて頭をさすった。私の背中から冷や汗がぶわりと噴き出すのがわかった。

「……なあ、頭が割れそうなくらい痛いんだが、お前何か知ってるか?」
「あ、え、いえ、なにも知りませんけど……?」
「その様子、お前何かしたな。安全な場所で俺の体を支えているだけだったのに、どうしたらそうなる。本当に使えない弟子だな」

 その瞬間、私の頭の中で何かが切れた音がした。師匠は言ってはならないことを言った。

「は? 師匠こそ何の説明もなしに勝手に行動して、わかるわけないでしょ。もっとちゃんと説明してよ。教えてよ。師匠としての責任を守ってよ」
「なんだと……?」

 さっきのことで見直して、尊敬するべきだと思って敬語を使っていたけど、尊敬に値する人間性を彼は持っていないと改めて考え直した。
 うん、やっぱり彼と私は相性が悪いみたいだ。本当に師事する人変えたほうがいいのかも。そう私は思うのだった。

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