• に登録

近況報告と短編11

どうも、茶畑紅です。
今日もまたギリギリになってしまいましたね。出来れば投稿する時間は統一したいと思っているのですが、書ける時間も投稿できる時間もばらばらなので、今のところは難しそうです。あと、明日は予定が入っていて時間がなさそうなので、投稿するつもりではありますが、短編については非常にクオリティの低いものになってしまうかもしれません。すみません。短いですが、近況報告は終わりです。

今回の短編について。
今回はお題に非常に恵まれた分、あらすじがもりもりになってしまい、むしろ大変でした。その上時間も無かったので、やっつけ感も出ちゃいましたし、誤字なども多分多いと思います。もっと時間を取って書けたらよかったのに、と今現在は悔しさに苛まれています。そんな拙い短編ですが、よかったらどうぞ。



・短編 お題『自転車』『野宿』


「おー! 風めちゃくちゃ気持ちいいなー! そう思わないか成美ー!」

 僕の前を走る洋司が、自転車から両手を離して叫んだ。

「だなー!」

 危ないなと思いながらも感じていたことは同じだったから、ちょっと声を張って返した。
 本当に気持ちよかった。周りは田んぼや畑ばかりで風を遮るものがないし、見渡す限り山に囲まれていて、なんだか空気も澄んでいる気もする。こんな気分になるのはいつぶりだったろうか。いや、もしかしたら人生初なのかも。
 なんて感慨に耽っていると、両手をハンドルに戻して速度を下げた洋司が、僕のすぐ横に並んできた。

「で、成美。今日はどうする?」
「うーん……泊まれる所どころかコンビニすら全然見当たらないし、野宿しかないんじゃない?」
「だよなー。広そうなとこ見付けたらそこでとまるかー」

 洋司は残念がるような返事をしておきながら、その口元は笑っていて楽しそうだった。
 きっと、洋司は野宿のほうが良いと思ってるに違いない。漫画のネタがほしいとか言ってたし、ドラマ性ありそうなほうが都合がいいんだろう。
 まあ、僕も学校行事であったキャンプは好きだったし、別に文句も何も無い。そもそも僕が言ったのだし。

「よし。じゃあ良いとこ見つかるまでスピードあげてっか」
「え……まあ、洋司がいいなら僕は何も言わないけど……」
「んじゃレッツゴー!」

 僕の心配をよそに、洋司は意気揚々と立ちこぎし始めて、どんどんと僕から遠ざかって行った。
 仕方ないなと思いながら、僕も見失わないように速度を上げる。自転車からは機械的な音が鳴って、僕の負担を軽減してくれた。
 やっぱり楽だなと思いながら、僕は洋司の後姿を追った。







「……おい、やっぱお前のチャリ卑怯だな……」
「まあ、高いしね」

 無事に僕らは広くてテントを置けそうな場所を見つけ、二人仲良く天然の雑草ベッドに大の字になっていた。
 僕は軽く息を切らしているだけなのに比べて、洋司はもう顔を青くして汗だくの様子だ。これが電動アシストの付いている自転車と、中古のぼろぼろママチャリとの差だった。
 といっても、スピードを上げればアシストの性能は落ちるので、僕がそんなに疲れていないのには、自力の差もあるんだろう。僕が毎日会社に行ってたのに比べて、洋司は時折のバイトを除けばずっと机に向かってるだけだったんだし。

「じゃあ洋司は水分補給しながら休んでてよ。テント建てておくから」
「……おー、サンキュー」

 ふらふらと手を上げる洋司に苦笑しながら、僕は近場に下ろしてあったリュックから折りたたみ式の小型テントを取り出した。組み立て方も固定の仕方も、このたびの最中でもうだいぶ慣れた。ひとりでもスムーズに、たてることが出来た。

「こんなもんかな」

 パンパンと手に付いた埃を払って、テントの中にリュックやら何やらをしまいこむ。ついでに、二人分の自転車も近場に移動した。
 そうして、今度はご飯を食べるための色々を準備しようとしていると、ようやく復活したらしい洋司が近寄ってきた。

「俺も手伝うわ」
「うん、じゃあテーブルとか組み立てとくから、ご飯のほう用意頼んだ」
「あいよ」

 二人で手分けして、準備を進めていく。
 この分担作業も慣れたものだ。あっという間に用意ができ、後は調理するだけになる。

「今日の献立は?」
「カレーだ。小学校のキャンプ思い出すだろ?」
「あはは、そうだね。あ、ちょっと思いついたんだけど、その頃の気持ちになってやってみるのはどう? 漫画のネタにならない?」
「お、それ名案! さすが俺の大親友だな。よし、じゃあ俺班長な」
「洋司はあの時も班長してたもんね、了解――僕は野菜の皮むきと切るのやるから、お米は"班長"がお願い」
「おうよ! 俺が最高の米を炊いて、クラスで一番うまいカレーにしてやるぜ!」

 洋司とそんなやり取りをしていると、なんだか本当に小学生の頃に戻ったような気になった。あの頃の僕はまだ何も物事を知らなくて、だからこそ楽しかった。戻れるものなら、あの頃に戻ってみたいなんてことも思ってしまった。

 そんな僕らのおままごとは、班員が二人しかいないことで設定が崩壊し、笑いながら結局いつも通りの分担で調理を進めた。
 出来たカレーはありきたりな味だったけど、懐かしさも感じて、なんだか涙腺が緩みそうになった。
 食べた後は、僕らは二人で仲良くテントの中で寝袋に入っていた。

「そういえばさ、結局漫画のネタって思いついたの?」

 寝る前に、僕はそんなことを聞いてみた。
 この旅を始めた理由は、仕事をやめた僕に洋司が「漫画のネタが思いつかないから旅に出るぞ!」といったからだ。またバカなこと言い出したなと思いながら、あの時おかしくなっていた僕は付き合うよと返事をしていた。それがまさか、「どうせなら日本一週だ! それも伝説になりそうな方法で行くぞ!」とか言い出した洋司が、移動方法は自転車、しかもロードバイクとか本格的なのじゃなくてママチャリ限定って言い出すとは思わなかったけど。

 でも、今は感謝している。当時は、絶対に無理だし、ママチャリで日本一周したひとは多分いるんじゃないかな、とか思っていたけれど、これまで半年近く旅を続けてきて、僕にとって得るものはたくさんあった。
 だから、洋司の目的も達成できてたらいいななんて思ったのだ。

「まあ思いついてはいるな……」

 歯切れの悪いその答えに、僕はすぐ隣の顔をみた。
 洋司の顔は、恥ずかしそうに赤く染まっていた。なんだかすごく気になった。

「なに、教えてよ」
「あー……笑わずに聞いてくれよ?」
「うん、絶対に笑わない」
「ジャンルは現代ドラマ。それも、ハートフルな友情ものだ」
「それってもしかしてだけど、モデルは洋司と僕?」
「………………そうだ」
「――ぶふっ、ぶははははははははははっ!!」

 僕はこれでもかってくらい大声で笑った。

「おい! 笑わないっていっただろ!!」
「あははは、ご、ごめんごめん。でもそんなの創作物のなかじゃ笑う前のお決まりの文句じゃん? だから笑うのがきっと正解なんだよ。ぷふ、ふふふ、あはははははは!」
「てっめ!」

 怒ったような言い方だったけれど、寝袋を跳ね除けてじゃれあいに飛び掛ってくる洋司も、どこか楽しそうだった。
 一頻り笑って落ち着いた頃、寝袋に入り直して、今度はしっかり寝ようとした。そんな時、もうこの際出しいいかと言った様子で洋司が囁くように言った。

「……本当はさ、それだけが目的じゃなかったんだ」
「え? 他にも何かあったの? 野宿、してみたかったとか?」
「いや、漫画のネタには確かに詰まってたし欲しかったけど、それよりも俺はお前が心配だったんだよ」
「……そっか」

 思えば、確かに突拍子無さ過ぎたような気もする。きっと洋司なら、旅をしようと思いついたらすぐに行動していたはずだ。なのに、どうしてあのタイミングだったのかと問われれば、それは僕が原因だったとしか言えないだろう。
 あの時の僕は、酷い状態だったから。

「……もう、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。もう吹っ切れた」

 僕はしっかりと頷いた。
 うん、改めて胸の中で考えてみても、もう"死にたい"だなんて思わない。ううん、その時の気持ちが思い出せないんだ。このたびでは、そんなこと考える暇なんて無かったから、すっかり忘れてしまった。忘れさせてくれた。本当に、洋司には感謝している。

「そうか、ならいいんだ」

 はにかむような笑顔で言ってから、洋司は僕に背を向けた。

「あ、あのさ。寝る前に言いたい事があるんだけど」
「なんだ?」

 今度は僕が恥ずかしいことを言う番だろうと思った。

「……ありがとね」
「――ッ!!」

 顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。
 なんでなのだろう。お世話になった相手や家族とかに感謝を伝えるより、友達に伝えるほうがよっぽど羞恥心を感じる気がする。本当は旅の最後に言おうと思ってたから、今になってやっぱりもっと溜めとくべきだったなんて後悔した。多分、この羞恥心から逃げたかっただけだと思うけど。
 そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、洋司は寝袋のまま突然立ち上がった。

「……ひらめいた」
「え、なに?」
「漫画のネタ! 完璧にひらめいたァ!!」

 洋司は叫んで、へんてこな踊りを始めてしまった。
 それを見て僕の羞恥心は急激に冷め、何でこんな奴相手に恥ずかしがっていたのだろうと思った。

「よし、決めた! 早くこの旅を終わらせて帰ろう! そして漫画を描こう! お前にも手伝ってもらうぞ、成美! 俺が雇ってやる!」
「ええ!? 僕漫画なんて描いたこと無いよ!?」

 あまりに唐突過ぎて、僕は声を裏返しながら言った。本当に洋司は強引だった。

「大丈夫! 書店に本が並んだことなんて無いけど、俺が教えてやるから!」
「すごい不安だ!!」
「お前は器用だから出来るさ! 俺だって出来たんだからな! 賞全部落ちてるけど!!」
「もうだめだ! おしまいだぁ!」
「よっしゃあ! そうと決まれば明日は早起きするぞ! お前もさっさと寝ろな!!」

 洋司は自分勝手に言い放つと、何度目かの寝袋を被り直し、すぐにいびきをかき始めた。
 本当にこいつは僕を振り回してくれる。でも、そんな生活も悪くないかもしれないともちょっと思った。給金はもらえなさそうだけど。

 でもまあ、まだ旅は折り返しにもなっていない。半年も前に始めてまだこれだけなら、きっともっともっと時間はかかるだろう。しばらくはこんなバカみたいな日々が続くんだろうな、そう楽しみに思いながら、僕は目を閉じた。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する