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ベネデッティ ミケランジェリ礼賛

 「ピアニストに恋をして」にアルトゥーロ ベネデッティ ミケランジェリの試論をアップしたばかりだが、その直後、探していた彼の演奏するモーツアルトの協奏曲を見つけた。ミケランジェリの正規の録音はほぼ所有しておりこれが最後のものとなる。ラフマニノフの4番やラベルの左手のピアノ協奏曲、あとベートーベンのピアノソナタの7番(これは正規録音であるがグラモフォンが曲の組み合わせを変えたせいで漏れてしまった)などがまだ未購入ではあるけれど、おいおいと老後の楽しみ(もはや老後では、という指摘はあるだろうけど)として、いったん纏めておきたい。
 まず13番からである。かなりゆっくりのテンポで進む。とりわけ二楽章のカデンツァは冬の一日、ハンブルク港近くにある公園を散策しながら、「どうだね、ここらへんで少し座って休もうじゃないか?」と問いかけるような目を向けてくるそんなテンポと、心の揺れを感じる。  
 ハンブルクの冬は雲に閉ざされてめったに晴れないのだけど、その日は前日に北から吹いた風で雲が流され久しぶりに晴れた日のようである。
 50年代の演奏で見られたあの鋭く、他を寄せ付けないような煌めきにも似た調子はそこにはなく、穏やかな性格の大型の老犬がみせるような優しいまなざしが感じられる。やはり病気で倒れた(1988年)前後で演奏のスタイルはだいぶ変わったのだろう。それでもモーツアルトの演奏に特徴的な演奏スタイルは変わらずに保持しているわけで、むしろその傾向は強まっている。

 15番1楽章のアレグロは指示通りの速さで殆どテンポも揺れない。13番とは別の日の録音であるようだから、おそらくは13番を演奏した日よりこの日の方が体調は良かったのだろう。と言っても13番は13番でそれで演奏を終え、録音の放送と発売を許したのだから、彼にとってはそれが完成した姿だと言い切って構いはしない。
 アレグロの指定のある、跳ねるような冒頭部を難なく弾ききると、管弦楽と進む様は往年の猟犬のような目をしたミケランジェリのピアノである。そのままアンダンテの楽章を弾き終えると、再びアレグロへと戻っていく。然したる疲れも見せず、カデンツァを弾ききったピアニストを称えるように管弦楽が付随、展開していく。終曲の2分ほど前に始まる独奏はややテンポが落ちるけれどピアニストは自らに鞭を入れるように突き進んでいく。
 モーツアルトの協奏曲として「これを最初に」と勧める演奏ではないかも知れないが、様々な演奏に触れた人に「ぜひ聴いてみて欲しい」と言えるようなそんな演奏である。
 ですから、あなた、是非聴いてみてください。

*ヴォルフガング アマデウス モーツアルト
ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調 K.415(387b)
ピアノ協奏曲 第15番 変ロ長調 K.450
 アルトゥーロ ベネディティ ミケランジェリ(ピアノ)
 北ドイツ放送交響楽団 指揮 コード ガーベン
  ユニバーサル (ドイチェ グラモフォン) UCCG-90833

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