春先の雨滴は大粒で、すりガラスのような夜空へと急速に体温を奪っていった。しかし、国道に繋がるだだっ広いアスファルトを眺め続けるくらいには、現状に無頓着であった。向かいのコンビニから方形の光が押し出されては路面に滲み、まれに通過する車輪が全てを飛び散らせて波が寄せる。割れた水面はぶくぶくと泡を寄せ合って鏡面を作り直し、満足したように消えていく。
そこへ雨粒がどぼん。鏡は完成しない。
雨は全てに平等だ。平等に潤いを与え、平等に熱を奪う。積乱雲の覆う四方一キロ、その場の熱的な差がもし全て均されたのなら、私は一体どうなっているのだろうか。水たまりに横になり、シャツの襟から流れ込む水の冷たさに驚いて起き上がる。案外私は地面と同じようで、ただ私の立場から同じ温度になった気でいたんだね。下肢を伝う水は気持ちが悪かった。人間は後悔できるように作られているが、靴底でぐじゃぐじゃと音を鳴らす不快感を予測するようにはできていない。
も少し歩くと、白く小さな、しかし気丈な厚さの花弁たちが地面で打たれていた。まだ誰にも踏まれていない小花は、暗い中ではパールに見えた。しめた、私は辺りを見回した。少し前から、いや今からかもしれないが、私には落花にキスをする夢があった。膝をついて、花の一群に覆いかぶさる。夜這いのようで少し気恥ずかしさがのこったが、えい、私は礫浮かぶ水たまりと植物片の中に口唇を浸けた。ファーストキスはひどいもので、端的に言えば路面は粘膜に少々強すぎた。せめて落花を食もうとするも焦りは体をこわばらせ、前歯を打ち付ける。生き物としての危機感と情けなさから仰け反った顔を相変わらず雨滴は濡らし続けた。
しばらく座り込んだのちに花弁を拾って口に押し込んだ。純粋な青臭さと苦みが口腔を突き抜け、ぺっと歩道に吐き出す。その方向を見る勇気さえ無かった私は、また立ち上がって、ふらふらと歩きだした。