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通行人Aの観察

彼の少し大きな目は、柔らかな憂いと優しさでできていて、親しい人を見つめる虹彩には「とろみ」があった。
眠れぬ冬の夜に1人起き出して、灯りの少ない台所で作った濃いめのインスタント・ココアのような。白い信念と黒い現実が渦を巻いて葛藤し、しかしその激しさを決して角膜の表面に出すことはない。それにどれだけの破壊力があるか、彼はとてもよく知っているようだ。
彼の目は、苦手なものの前では膜を張る。瞳孔に、深みのない単色の黒が下りる。見た目では区別が付きにくいが、笑顔を見せた時の目の瞑り方が、普段とは違う。クシャっと笑いながら、閉じられる瞼を透かして、拒絶が浮かんでいる……気がする。
とにかく、憧れるほど優しい目をしていたことは確か。

以上、妄想。

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