激しいアンコール曲も半ば、観客は潮騒のごとくステージに押し寄せ、アドレナリンと汗のしぶき、照明の浮き上がらせたホコリ、爆音のうねりを合わせた濃厚なカクテルは彼らの頭蓋に注がれた。心臓が血管を体に叩きつけ、視界を星が飛んでいく。鼓膜などとうに手懐けられ、雷鳴にもまさる音の激痛に快感すら覚えている。歓声は声帯を焼いて、尚も収まらず。ステージ上のあの人と同じ空間で呼吸していることが未だに信じられなくて、空気じゅうに飽和する振動を大切にしまい込んでは、揺れる臓物にひとつずつ刻み込んだ。
唐突に刺さるギターの高音。
人々の視線はスポットライトと共に、壇上のギター、手の甲、ピック、そしてそれを一身に受けるもなお堂々そそり立つ彼の全身へと移り、6本の銀線上で乱舞する汗まみれの両指が発した熱線に、網膜を焦がした。
手中のギターは、柔らかく抱き止められた清純な少女のようだが、時々、ギタリストの戦友のごとき猛々しさをみせるから不思議だ。
そのけしきに「精悍」の2字が浮かぶも、読み方も意味も忘れた。とっくの昔に脳内のシナプス結合は引きちぎれて、スピーカのソケットにねじ込まれている。