【解放星団<リベレーション・クラスター>】
現在の銀河系における最大の反連邦勢力。潜在的影響力も含めれば、銀河人類文明の三割を勢力圏に収めると言われる、統一銀河連邦への武装闘争ネットワーク・対抗国家・思想運動の総体。
いまでこそ革命家ニコラス・ノースクリフ率いる義勇軍“ザナドゥ”に御株を奪われつつあるが、彼の登場より遥か以前から“星団”自体は存在していた。しかし“星団”は反連邦勢力としての規模こそ最大であるものの、ネットワークと銘打ちながら有機的な連携を欠き、あろうことかCJPO(連邦統合治安維持機構。通称メガリス)と癒着して、軍需産業に利益を供するための制御された低強度紛争を演じている下部組織すらあった。
“ザナドゥ”との接触以降はニコラスが組織の再編に知恵を貸しており、大規模な戦線整理や内規粛正を経て、現在の“星団”は最悪の時期よりいくぶんかマシになりつつある。とはいえその巨大さゆえ、末端では監視の目が届き得ない部隊・衛星組織も無数にあり、そうしたところではCJPOと同等以上の軍規紊乱が見られるのも現実である。
民衆のための闘争を行う革命者としてクリーンなイメージを保たねばならないニコラスにとって、こうした足手まといの味方は敵以上に厄介な存在であり、広報戦略を阻害する内患とも言える。一部は実際に連邦のイメージ工作が混ざっているのも、問題とその対処を一層複雑にしている。
【革命義勇軍“ザナドゥ”】
統一銀河連邦にとって現在最大の脅威とみなされる反体制武装組織。傑出した技術力により高位の禁制技術を次々と複製し、技術管制主義による支配体制の根幹を揺るがしつつある。
軍事組織としての“ザナドゥ”は、同名の辺境惑星を発祥の地とする。
惑星ザナドゥは船団連邦初期の開拓星で、星系領主が代々支配していた。領民の教育水準は意図的に低く抑えられ、知的好奇心は弾圧と粛清によって報いられる。文盲の者も少なくない彼らは統一銀河連邦の存在すら知らず、鋼の巨人を操る領主を魔術師として恐れていた。
状況が変わったのは銀河標準暦913年頃。この星を訪れたニコラス・ノースクリフが、体制に不満持つ領民を率いて、領主の城館へ攻撃を仕掛けた。ニコラスが持ち込んだ星系外のテクノロジーにより民衆は善戦。領主がただ一機保有するシングラルが出撃し、一気に叛乱を鎮圧するかと思われたが、ニコラスが自ら設計したハンドメイド・シングラル“カレトヴルッフ”の前に敗れる。
叛乱軍が事前に超光速通信を押さえ、リプレイサー・ドライブ搭載の連絡艇などを一隻も脱出させなかったことで、この革命を連邦が察知するまでに数年を要した。
四百年に及んだ領主の支配は終わり、人々はテクノロジーの恩恵を受ける権利を勝ち取った。
しかし連邦が異変に気付けば、再び不条理な規制と歪んだ経済の押し付けが始まる。根本的な解決のためには銀河連邦の変革こそが必要である、とニコラスは説いた。一度得た自由を奪われてはならない、連邦との対立は不可避である、そうした論理と自らのカリスマ性で以てニコラスはザナドゥの住民を懐柔。元をただせば彼が煽動し巻き込んだ戦いであるにもかかわらず、反対派は少なかった。これは無知だった人々がテクノロジーの味を知ってしまったからでもある。
文明は後退を是としない。すでに後戻りは利かなかった。
禁断の果実を喰らった同星は反体制勢力の拠点へと急速に生まれ変わり、この組織はやがて発祥の地から名を取って革命義勇軍“ザナドゥ”と自称。ニコラスの卓越した戦略眼に導かれ、反連邦闘争の急先鋒となってゆく。
ニコラスを批判する者はこの経緯を旧約聖書の失楽園に準え、彼は神の意に背いて無知な人々を堕落せしめた「狡猾なる蛇」であると断罪する。一方、ニコラスの支持者はギリシャ神話やグノーシス主義を引用し返し、彼はプロメテウスやサタン同様の「文化英雄」であると称揚する。
ザナドゥのシンボルマークである「金色の球体へ差し延ばされる手」は、実際これらの神話的モチーフを参照したデザインである。黄金の球体は太陽(天の火)であるとも、智恵の果実であるとも解釈できる。また、下方から伸びた手は球体を掴もうとしているようにも、支えようとしているようにも見える。