昨日、若い、多分、大学生と思われる女性が、友人らしき同年代の女性に向かって、
「お母さんったら、口を開けば、もっと先のことを考えなさいってうるさいの……」
と、こぼした愚痴が、手前の耳に飛び込んでまいりました。
「口を開けば」
という台詞を手前が耳にいたしましたのは、久しぶり、と申しますか、おそらく、古い時代劇で耳にして以来だったように思います。
「うちのカカア、亭主に向かって口を開けば、稼ぎがないろくでなしだと抜かしやがる……」
などと、長屋住まいの気のいい職人が居酒屋なんかで仲間に愚痴をこぼすような場面だったように思います。
第一回の「蟻の一穴」にせよ、今回の「痛くもない腹を探られる」にせよ、昔の時代劇の他に、日常会話として使用されることなど実際にはない、いわゆる死語に近い言葉のようにも感じておりますから、「口を開けば」も、その類いに属する言葉になっていたかもしれない、とふと思ってしまいました。
言葉を受け継いでいくのは、時代劇ではなく、家族です。そう考えるなら、お母さんに対する愚痴として使われたこの台詞は、普段、お母さんも使っている言葉でもあるのではないか、と察することができます。
たとえば、
「もう、お父さんったら、口を開けば、オレは仕事で疲れているんだって言うばかりで、家にいるときはなんにもしないんだから」
と……
でも、今の世の中、そんな御亭主は少なくなっているようにも思います。
もし、そうだとしたら、「口を開けば」も、やがては誰も使わなくなるかもしれません。
あ、このネタ、本編で使えばよかった……