カクヨムアニメ化作品特集

カクヨム発
アニメ化作品特集

カクヨムから生まれ、アニメ化された人気タイトルを一挙にご紹介します。異世界ファンタジーやラブコメ、青春ドラマなど、多彩なジャンルの作品が集まっています。アニメから先に楽しむも良し、カクヨムに投稿されたWeb小説から入るも良し。書籍版やコミカライズ版も含めて、ぜひ様々な形で作品に触れてみてください!

「継母の連れ子が元カノだった」© 紙城境介・KADOKAWA/連れカノ製作委員会|「勇者、辞めます」©クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会|「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」©しめさば・KADOKAWA/『ひげひろ』製作委員会|「スーパーカブ」©Tone Koken,hiro/ベアモータース|「慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~」©土日月・とよた瑣織/KADOKAWA/慎重勇者製作委員会|VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた©七斗七・塩かずのこ/KADOKAWA/「ぶいでん」製作委員会|「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~」©美紅・桑島黎音/KADOKAWA/いせれべ製作委員会|「神は遊戯に飢えている」©2024 細音啓,智瀬といろ/KADOKAWA/神飢え製作委員会|「異修羅」©2023 珪素/KADOKAWA/異修羅製作委員会|「ブルバスター」©P.I.C.S.・KADOKAWA刊/波止工業動画制作部|「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」©2024 ロケット商会/KADOKAWA/勇者刑に処す製作委員会|「ある魔女が死ぬまで」©坂/KADOKAWA/ある魔女が死ぬまで製作委員会|「公女殿下の家庭教師」©2025 七野りく・cura/KADOKAWA/「公女殿下の家庭教師」製作委員会

 
 
 
 
 
リビルドワールド
  • 原作:ナフセ
  • イラスト:吟
  • 世界観イラスト:わいっしゅ
  • メカニックデザイン:cell
  • ©2023 ナフセ/KADOKAWA/リビルドワールド製作委員会

あらすじ

旧文明の遺産を求め、数多の遺跡にハンターがひしめき合う世界。
新米ハンターのアキラは、スラム街から成り上がるため命賭けで足を踏み入れた旧世界の遺跡で、全裸でたたずむ謎の美女《アルファ》と出会う。
彼女はアキラに力を貸す代わりに、ある遺跡を極秘に攻略する依頼を持ちかけてきて――!?
二人の契約が成立したその時から、アキラとアルファの数奇なハンター稼業が幕を開ける!

キャラクター

  • アキラ
    アキラ
    東部クガマヤマ都市のスラム街で暮らす少年。そこから成り上がるためにハンターとなり、ハンター稼業の初日に向かった旧世界の遺跡でアルファと名乗る謎の美女に出会う。
  • アルファ
    アルファ
    旧世界の情報を知る謎多き女性。普通の人間には姿を見ることも言葉を聞くこともできない。アキラと、とある遺跡を攻略する代わりに力を貸す契約を結ぶ。

カクヨムエピソード1

 

リビルドワールド

ナフセ

第1話 アキラとアルファ

 少年が広大な都市の廃墟はいきょの中を険しい表情で進んでいる。辺りには半壊したビルが建ち並んでいる。地面にはそのビルから崩れ落ちた瓦礫がれきが散らばっている。人気ひとけは無い。少年の足音も、足下の小石を蹴った音も、周囲の静寂に飲まれて消えていく。

 汚れで変色しているただの服と、整備状態の怪しい拳銃。それがここを探索している少年の装備だ。それは少年の境遇から考えれば正しく、この場の危険性から考えれば著しく間違っている。ここが旧世界の遺跡と呼ばれる場所だからだ。

 故障による暴走で目標を無差別に襲う自律兵器。既に死に絶えた制作者の命令に従って今も外敵を排除し続けている警備機械。野生化した生物兵器の末裔まつえい。過酷な環境で突然変異を繰り返している動植物。それらは生物や機械の区別無く、東部に住む人々からモンスターと呼ばれている。旧世界の遺跡はその危険なモンスター達の住みなのだ。

 少年もここが自分を殺すに足る非常に危険な場所だと知っている。表情の険しさがそれを示している。それでも自分の意思で、死の危険を覚悟して足を踏み入れたのは、その危険に見合うものがここにあるからだ。少なくとも、スラム街の子供という自身の安値の命よりははるかに高額なものが。少年はそれを求めてここに来た。

少年の名は、アキラといった。

アキラがめ息をいてつぶやく。

「……ろくな物がねえな。命懸けでここまで来たっていうのに。……もっと奥まで行かないと駄目か?」

 顔を少し上げて遺跡の奥に視線を向ける。その先には無数の高層ビルが建ち並ぶ遠景が広がっている。かすむ遠景から軽く判断しただけでも、奥の建物ほど規模も巨大で外観の状態も良い。アキラの周りにある半壊した建物とは状態に雲泥の差があった。

(何とかしてあそこまで行けば、すごく高値の遺物が手に入る、か?)

 得られるかもしれない大金がアキラの欲を刺激する。僅かに悩み迷ったが、すぐに嫌そうに首を横に振り、自分に言い聞かせるように口に出す。

「いや、無理だ。流石さすがに死ぬ」

 廃墟はいきょと化している周囲と、立派な景観を維持している奥部。その差異はその状態を維持する環境の差だ。つまり、奥部では旧世界時代の高度な自動整備修復機能が現在でも稼働しているのだ。それはその周辺の警備機械などが、当時の驚異的な技術で製造された高い性能を維持したまま、現在でも稼働している可能性が極めて高いことを意味する。それらの警備機械の警備区域から、アキラのような子供が生還する可能性など皆無だ。

「この辺だって、俺には厳しいんだ。めろ。これ以上奥には行くな。……よし」

 アキラは欲を振り払って周囲の探索を続けた。

 ここはクズスハラ街遺跡の外周部と呼ばれている場所だ。アキラが住むクガマヤマ都市から一番近い遺跡であり、また都市の経済圏内に存在する遺跡の中では最も大規模な遺跡でもある。

 この遺跡の外周部にいるモンスターは比較的弱いものばかりだ。アキラはその比較的安全な外周部を探索していた。

 なお比較的弱いとはしっかり武装した人間ならある程度対処可能という意味だ。同じく比較的安全とは遺跡の奥部よりは生還の可能性が高いという意味だ。アキラが問題なく生還できるという意味など欠片かけらも含まれていない。

 変異生物の牙も、敵性機械が放つ銃弾も、真面まともな防具すら着けていない者が食らえば即死か致命傷は確実だ。加えて対人用の拳銃程度では、至近距離どころか眼前まで近付いて撃ちでもしない限り真面まともな効果は見込めない。つまり、アキラの装備では勝ち目など無い。交戦すれば高確率で死ぬことになる。

 だが望む明日を買えるだけの金を手に入れる手段など他には存在しない。それを理解しているからこそ、アキラは自身の命を賭け金に乗せてまで、このクズスハラ街遺跡に足を踏み入れていた。

 その後もしばらく遺跡探索を続けたが、これといった成果は無かった。軽く項垂うなだれてめ息を吐く。下がった視線の先には白骨死体が転がっていた。

 既に似たような白骨死体を数回見付けている。その都度、所持品でも残っていないかと死体の周囲を探してみたのだが、金目の物は全く見付からなかった。

(……この先客も所持品は無しか)

 既に誰かが持ち去った。あるいは自分と同程度に無謀な者が、ろくに装備もそろえずにここに来て、その無謀に相応ふさわしい末路を迎えただけ。アキラはそう思って少し憂鬱になっていた。

(……このままだと日が暮れる。夜になったら遺跡探索は無理だ。照明なんか持ってない。それにモンスターに襲われる確率も高くなる。……危険な遺跡から生還した。その経験が最大の収穫だ……ってことにして、今日はもう帰るか? 下手に意地を張って残れば、この白骨死体の仲間入りだ)

 アキラはこのまま帰る言い訳を考え始めていた。命賭けでここまで来たこともあり、成果無しで帰るためには、それなりの言い訳が必要だった。

項垂うなだれていても仕方無い。もう少し探して、それでも何も無かったら帰ろう)

 成果無しでの帰還は、ここに来るだけでも命賭けのアキラにとって、死なずにここまで辿/rb>たどり着けたという最低限の成果すら無駄にする行為だ。その未練混じりの妥協案に従って、アキラはもう少しだけ探索を続けようと、項垂うなだれていた顔を上げた。

 そのアキラの動きが止まる。視線を戻した先に、誰もいなかったはずの場所に、いつの間にか女性がたたずんでいた。

 彼女を見た瞬間、アキラは衝撃で硬直した。

 その女性は全身に幻想的で非現実的な美しさを備えていた。更に端麗な容姿と美麗な肢体を余す所無く周囲にさらしていた。つまり全裸だった。

 その肌はスラム街の住人のものとは雲泥の差があるほどに美しく、そのきめ細やかな肌の光沢は、都市の上位区画に住む女性達が財と執念と旧世界の技術をもって磨き上げた輝きを超えていた。肢体の美しさは芸術的ですらあり、腰まで伸びた僅かな劣化も見られない髪が見事な艶を放っている。老若男女問わず見れるであろう顔立ちに浮かぶりんとした表情が、そのたたずまいを際立たせていた。

 魂を奪われる。そう表現できるほどにアキラは彼女に見れていた。彼女の飛び抜けた美しさは、アキラのさほど長くない人生の中で見た全ての女性と比べても、比較対象に想像さえ含めても、比類無きものだった。アキラの中にある美人の基準を一目で大幅に書き換えていた。

 彼女は何をする訳でもなくたたず佇んでいた。アキラに気付いている様子もない。そしてしばらくすると、何げない動作でアキラの方に顔を向けた。

 アキラと彼女の目が合う。彼女はアキラにその裸体を余す所無く見られているのにもかかわらず、微笑ほほえみながらアキラをじっと見詰めている。その視線と微笑ほほえみに、まだほうけていたアキラが僅かに反応を示した。

 アキラは確かに自分を認識している。彼女はそう判断すると、非常にうれしそうに笑った。そして、一歩アキラに近付いた。

 見知らぬ誰かが自分に近付こうとしている。その認識がアキラに僅かな警戒心を抱かせた。その瞬間、アキラは一気に状況を理解し直した。ほうけていた表情を激変させると、おびえすら感じられる非常に険しい表情で彼女に銃を向け、叫ぶように制止する。

「動くな!」

 彼女は異常の塊だった。

 旧世界の遺跡は危険なモンスターの住みだ。訓練を積んだ武装集団ですら死にかねない場所だ。彼女はそのような場所に1人で武器も持たずに隠れもせずに立っている。辺りを警戒する素振りすらない。衣服を何一つ身に着けておらず、裸体を隠そうとする素振りさえ見せない。ビル風が砂やほこりを巻き上げているのに、髪にも体にも僅かな汚れすら付いていない。

 アキラは素人なりに必死に周囲を警戒していた。他の者やモンスターとの遭遇を避けようと、僅かな音にも過敏に反応していた。だが自身を隠そうともしない彼女の存在に全く気付けなかった。

 そして、見知らぬ誰かから銃を突き付けられているのに、その者は震えで誤って引き金を引いても不思議のない状態だと一目で分かるのにもかかわらずに、彼女は全く動揺せず、一切警戒せず、危機感の欠片かけらも感じさせない態度でアキラに近付いてくる。

 既にアキラは彼女に対する認識を、極めて美人な女性から、極めて得体の知れない未知の何かに切り替えていた。微笑ほほえみながら近付いてくる彼女に向かって、再び叫ぶように警告する。

「う、動くなって言っているだろう! それ以上近付くな! 撃つぞ! 本気だぞ!」

 普段のアキラなら警告などせずに既に撃っている。相手が丸腰だと一目で分かること。彼女の表情から敵意を感じられないこと。訳の分からない状況で混乱していること。それらがアキラの指を鈍らせていた。

 しかしそれにも限度がある。警告を無視して近付いてくる相手に引き金を引こうとする。その瞬間、彼女の姿がアキラの視界から忽然こつぜんと消えせた。アキラはまばたきすらしていなかった。だが彼女がどこかに素早く移動したような過程は全く見えなかった。一切の前触れなく、一瞬で、完全に姿を消していた。

 アキラの顔が驚愕きょうがくで激しくゆがむ。混乱しながら周囲を見渡すが、彼女の姿はどこにも見えない。

『大丈夫。危害を加える気は無いわ』

 自分の真横から、誰もいないはずの場所から、アキラは彼女の声を聞いた。反射的に声の方へ顔を向けると、すぐ横、手を伸ばせば届く至近距離に彼女がいた。いつの間にか服を着て、目線を合わせるために中腰の体勢で、微笑ほほえみながらアキラを至近距離からじっと見ていた。

 
まずはマンガを読んでから!というあなたへ
リビルドワールド
[コミック版]リビルドワールド
原作:ナフセ
漫画:綾村 切人
キャラクターデザイン:吟 世界観デザイン:わいっしゅ メカニックデザイン:cell
カドコミ

関連情報

リビルドワールド
リビルドワールド
著:ナフセ
イラスト:吟
世界観イラスト:わいっしゅ
メカニックデザイン:cell
レーベル:電撃の新文芸
電撃の新文芸
 
 
 
 
 
公女殿下の家庭教師
  • 原作:七野りく
  • キャラクター原案:cura
  • ©2025 七野りく・cura/KADOKAWA/「公女殿下の家庭教師」製作委員会

あらすじ

——王宮魔法士の試験に落ちてしまった。世の中は厳しい。
実家に帰ろうにも、先立つものがない。
仕事を探すアレンに舞い込んだのは、公爵家御息女、
すなわち公女殿下の家庭教師の仕事。
どうも胡散臭いが、あの『腐れ縁』ほど大変な生徒じゃないだろう。
そう高を括っていた矢先、
彼を待っていたのは魔法を一切使うことができない少女だった?!
彼女の魔法を妨げているものとは一体…?

アレンの常識を覆す授業が、少女の未来をやさしく照らす——。

キャラクター

  • アレン
    アレン
    平民出身の苦労人で、狼族の養子。優しく謙虚な心の持ち主。 『剣姫』リディヤの相方として、『剣姫の頭脳』と称されるその実力は計り知れない。 整ったルックスとその性格故、今までも多くの子達を救い、慕われていることから、『天性の年下殺し』と揶揄されることも。
  • ティナ・ハワード
    ティナ・ハワード
    ハワード公爵家の次女。 四大公爵家に生まれながら、魔法を一切使うことができず『ハワードの忌み子』と蔑まれてきた。それでも王立学校入学を諦めきれず、アレンの教えを受けることに。努力家で負けん気の強いところがある。

カクヨムエピソード1

 

公女殿下の家庭教師

七野りく

第1部

プロローグ

「アレン……信じられないが、君は王宮魔法士の試験に落ちたようだ」

「はぁ……そうですか」

 

反応に困る。

筆記は自分でも感触が良かったし、魔法の実技でも失敗はなかったと思う。

けれども――結果は不合格。世の中、厳しい。

それよりも、何よりも……。

 

「教授、何か仕事はありませんか? お恥ずかしい話ですが、帰ろうにも先立つ物がありません」

「故郷へ戻ろうと言うのかね? 君がその気になれば王都で仕事は幾らでも見つかると思うが」

「僕も少しだけそう思っていましたけど、世の中にはもっと凄い人達がいるようですので」

 

試験後に王立学校以来の腐れ縁とした答え合わせは良かったんだけどなぁ。

やっぱり、苦手な実技が駄目だったんだろう。上には上がいるものだ。残念だなー。

 

「本当に残念だ。君とリディヤ嬢は近年稀にみる優秀な生徒だった」

「ありがとうございます。あいつは当然受かったと思うので、今後とも助けてあげて下さい」

「勿論だ。仕事の件だが――僕の旧友が、娘さんの家庭教師を探していてね。春までの仕事だが、給金は良い。どうかね? やってみないか」

「家庭教師ですか――」

 

王立学校、大学校と延々と教え続けてきた苦い記憶が蘇る。

……あ、大丈夫だな、これは。

 

「是非、お願いします」

「そうか。では、すぐに連絡をしよう。善は急げと言うからね」

 

そう言うと、教授は備え付けられている電話機に手を伸ばした。

うん? 相手はまだまだ一般家庭に普及していない電話を持っている家なのか。

……なんか嫌な予感が。

 

「教授。やっぱり」

「もしもし――僕だ。そうだ、例の件なんだがね。今なら、一人紹介出来る。優秀かって? 僕の30年に及び教師人生の中でも指折りの逸材だよ。うん、そうか。分かった。では、細かい事は後で使い魔に託すよ」

 

電話機を置き、満面の笑みを浮かべる教授。

 

「大歓迎とのことだよ。君の生徒はハワード公爵家のご息女で、今春、王立学校への進学を控えられているティナ嬢だ」

「……はめましたね?」

「はは、なんのことかな? とびきり優秀な教え子が田舎に引き籠って楽をしようとしている。そんな勿体ない事を、担当教授として見過ごす訳にはいかないじゃないか」

「別に栄達を望んでいる訳じゃないのですが……ここまで来れたのも奇跡的だったんですから」

「それを正直に言えてしまうのが君の良い所であり、悪い所でもある。なに、君ならばすぐに王都へ舞い戻って来る事になるだろう。僕には分かる」

 

そんな自信満々に言い切られてもなぁ……公女殿下の家庭教師とは随分と難易度が高――くもないのか。リディヤと同じなんだから、何時も通りにしていれば良いのだろう、きっと 。

なお、王国の四大公爵家には、建国時にそれぞれ王族が嫁いでいる関係から、尊称は特別に『殿下』が使われている。他国だと普通は『閣下』だよね。

 

「分かりました。お請けします」

「そうか。では、早速向かってくれ。場所はハワード公爵家――王都よりも大分寒いぞ。気を付けたまえ」

「教授、汽車代をお借り出来ると」

「これが今日発のチケットだ。一等車を取っておいた。そして、餞別の昼食だ」

「……やっぱりはめましたね?」

「はは、可愛い子には旅をさせねばね。人生とは驚きの連続だよ、アレン君」

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
公女殿下の家庭教師
[コミック版]公女殿下の家庭教師
原作:七野りく
漫画:無糖党
キャラクター原案:cura
カドコミ

関連情報

公女殿下の家庭教師
公女殿下の家庭教師
著:七野りく
イラスト:cura
レーベル:ファンタジア文庫
ファンタジア文庫
 
 
 
 
 
ある魔女が死ぬまで
  • 原作:坂
  • キャラクター原案:コレフジ
  • ©坂/KADOKAWA/ある魔女が死ぬまで製作委員会

あらすじ

「お前、あと一年で死ぬよ」
十七歳の誕生日を迎えた見習い魔女のメグ・ラズベリーは、魔法の師匠であり、魔法界トップの七賢人に名を連ねる『永年の魔女』・ファウストから、突如として余命一年であることを告げられる。 メグは『死の宣告』の呪いにかかっていたのだ。 呪いによる死を免れる方法はただ一つ。手にした者に不死をもたらす、『命の種』を生み出すこと。そして、『命の種』の材料となるのは、感情の欠片――人が喜んだ時に流す、嬉し涙。
「それで、一体どれくらい涙を集めればいいんですか?」
「千人分だ」
「......はい?」
こうして、メグは嬉し涙を集めるため、様々な人たちと関わっていく。 幼馴染みで大親友のフィーネ。 ファウストと同じ七賢人の一人――『英知の魔女』・祈。メグと同い年にして七賢人に名を連ねる天才少女、『祝福の魔女』・ソフィ。 これは、余命一年を宣告された未熟な魔女、メグ・ラズベリーが起こす、奇跡の物語。

キャラクター

  • メグ・ラズベリー
    メグ・ラズベリー
    師であるファウストの身の回りの世話をしながら、魔法の腕を磨く見習い魔女。明るい性格のポジティブおばけで、少し口が悪い。17歳の誕生日当日、「呪いによって1年後に死ぬ運命にある」と告げられる。
  • ファウスト
    ファウスト
    二つ名は『永年の魔女』。魔法界でもトップクラスの実力を誇る“七賢人”の一人。魔導師の中でも珍しい『時魔法』を得意とし、落ち着いて威厳がある。両親を亡くしたメグを引き取り、弟子として育てている。

カクヨムエピソード1

 

ある魔女が死ぬまで -メグ・ラズベリーの余命一年-

地方都市ラピス編

第1話 余命一年の魔女

第1節 穏やかな日の死の宣告

すべての始まりは、たった一言の告知だった。

 

「あんた、死ぬよ」

 

開口一番、お師匠様はそう言った。

 

私、見習い魔女ことメグ・ラズベリーは。

「後一年で」

死ぬらしいのです。

 

午後一時、静かな書斎。

空は晴れ、雲は緩やかに流れるそんな穏やかな一日

突如として放たれたその言葉に、私は思わず「ンブッ」と噴出した。

 

「何ですかお師匠様。突然冗談なんておっしゃいましてからに」

「冗談じゃないよ。あんたは死ぬ運命にある。あと一年でね」

 

何でもなさそうにお師匠様は言うと、何にもないように書類をパラリとめくる。

時計の秒針と、窓から聞こえる鳥の鳴き声だけが、静寂を際立たせた。

 

私が、死ぬ? あと一年で?

 

「嘘ですよね?」

「嘘じゃない」

「冗談は休み休み言ってくださいよ」

「残念だがこれは事実だ」

「私まだ十七ですよ? 死ぬ訳ないじゃないですか」

「お前は死ぬ。呪いでね」

「呪い?」

 

お師匠様は神妙な顔で頷く。

 

「あんたは呪いにかかってる。十八歳で発動する『死の宣告』にね」

「死の宣告?」

「生まれつきの持病みたいなもんでね。十八歳になると体内時計のリミッターが外れる。すると、通常の千倍の速さで老いていく。三日で約十歳、一ヶ月で百歳老いる。どれだけ長くても一ヶ月で死ぬ呪いさ」

「こわっ」

 

口にしたものの、あまり実感は無い。

 

「あのー、呪いを外すにはどうすれば良いのでしょうか」

「方法はない。今のところね」

「じゃあ呪いをかけた犯人は? お師匠様なら分かるでしょう。そいつを血祭りにして足の指から一本一本引き千切って行ったら、呪いを解く方法を吐くでしょう。何なら生きながらにして焼いてやっても良い」

「グロ……。生まれつきって言ったろ。言い換えりゃ病気なのさ。お前は病気だ」

「十七歳のうら若き乙女に何てこと言いやがる」

「一年間面倒見てやるから、安らかに眠りな」

 

無茶苦茶冷たいなこの人。

私が半泣きになっていると「まぁ、冗談はさておき」とお師匠様は続けた。

 

「助かる方法がないわけじゃないよ」

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
ある魔女が死ぬまで 1 終わりの言葉と始まりの涙
[コミック版]ある魔女が死ぬまで 1 終わりの言葉と始まりの涙
原作:坂
漫画:雨霰 けぬ
キャラクター原案:コレフジ
カドコミ

関連情報

ある魔女が死ぬまで
ある魔女が死ぬまで -終わりの言葉と始まりの涙-
著:坂
イラスト:コレフジ
レーベル:電撃の新文芸
電撃の新文芸
 
 
 
 
 
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
    • 原作:ロケット商会
    • キャラクター原案:めふぃすと
  • ©2024 ロケット商会/KADOKAWA/勇者刑に処す製作委員会

あらすじ

勇者とは、この世で最悪の刑罰である。

大罪を犯した者が「勇者」となり、魔王と戦う刑罰を科されるのだ。
殺されようとも蘇生され、死ぬことすら許されない。

勇者刑に処された元聖騎士団長のザイロ・フォルバーツは、
性格破綻者たちで構成された懲罰勇者部隊を率い、戦いの最前線を駆け抜けていた。
過酷な状況の中、ザイロは最強の生体兵器の一人、
剣の《女神》テオリッタに出会う。

「敵を殲滅した暁には、この私を褒め讃え......そして頭を撫でなさい」

生き抜くため、自らを陥れた者へ復讐を果たすため──。
《女神》と契約を交わしたザイロは、
絶望的な世界で熾烈な闘争と陰謀の渦中に身を投じていく。

キャラクター

  • ザイロ・フォルバーツ
    ザイロ・フォルバーツ
    元聖騎士団長でありながら《女神》殺しの大罪を犯したがために懲罰勇者となった。優れた戦闘能力と統率力を持ち合わせ、戦闘の最前線で冷静に立ち回る。荒々しく凶暴なところはあるが、人を捨て置けない性格。
  • テオリッタ
    テオリッタ
    ザイロと契約を交わした剣の《女神》。聖剣や魔剣といった数多の剣を召喚する。自尊心が高く褒め称えられることを好む一方で、自己犠牲的な行動をしてしまうという《女神》らしい一面を持つ。頭を撫でられるのが好き。

カクヨムエピソード1

 

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録

ロケット商会

 勇者刑とは、もっとも重大な刑罰の名前である。

 少なくとも、連合行政室はそう定めている。

 最悪の罰とも称されることもある。

 

 勇者たちは魔王現象との戦いの最前線に立ち、死ぬことすら許されず戦い続ける。

 この罰に刑期はない。

 たとえ百年間戦い続けようが、許されることはない。

 唯一、魔王根絶時の恩赦が規定されているのみだ。

 

 ――そして、すべての魔王の根絶というのは夢物語でしかない。

 

 

 

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
[コミック版]勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
原作:ロケット商会
作画:井上 菜摘
キャラクター原案:めふぃすと
カドコミ

関連情報

>勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
著:ロケット商会
イラスト:めふぃすと
レーベル:電撃の新文芸
電撃の新文芸
 
 
 
 
 
異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~
  • 原作:美紅
  • キャラクター原案:桑島黎音
  • ©美紅・桑島黎音/KADOKAWA/いせれべ製作委員会

あらすじ

幼い頃から酷い虐めを受けてきた少年・天上優夜。人生に絶望する彼が開いたのは『異世界への扉』だった! 扉の向こうには、凶悪な魔物が蔓延る【大魔境】が広がっており――。初めて異世界を訪れた者として、チート級の能力を手にした優夜は、魔物たちを次々と討伐し、レベルアップを重ね……最強の身体能力を持った完全無欠な少年へと生まれ変わった!異世界では魔物から王女を救い、国中で噂の的に……? 現実世界でも女の子たちから猛烈アプローチが始まって……!?異世界×現実世界。レベルアップした少年は2つの世界を無双していく――。人生逆転ファンタジー開幕!

キャラクター

  • 天上優夜(てんじょうゆうや)
    天上優夜(てんじょうゆうや)
    学校でも家庭でも虐げられる日常に苦しみ、人生に絶望していた少年。偶然にも『異世界への扉』を開き、異世界で規格外なレベルアップを果たしたことで、完全無欠な存在へと生まれ変わる。正義感と優しさに溢れた、誠実な性格の持ち主。
  • 宝城佳織(ほうじょうかおり)
    宝城佳織(ほうじょうかおり)
    超名門校・王星学園の理事長の令嬢にして、生徒会役員を務めている少女。気品に溢れたお嬢様で、世間知らずな面も。しかし、間違ったことには毅然とした態度で臨む。心優しく勇敢な優夜に対して、淡い恋心を抱いている。

カクヨムエピソード1

 

異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~

美紅

プロローグ

 俺――――天上優夜てんじょうゆうやは、虐められている。

 

 それも、今に始まったことじゃない。

 昔から……それこそ、幼稚園のときから、虐められてきた。

 どんなにやめるように頼んでも、さらに面白がって虐めはエスカレートしていくし、先生にどれだけ伝えても聞いてすらもらえなかった。

 それどころか、全面的に俺が悪いとさえ言われる始末。

 学校の連中や、先生たちだけから酷い扱いを受けるだけなら、まだよかった。

 でも、俺は家族からの愛情も、向けられなかった。

 生まれた直後は、可愛がってくれたと思う。

 なんせ、両親にとって初めての子供だったわけだからな。

 だが、結局そこまでだった。

 俺の意思とは関係なく醜くなっていく顔。

 食べる時も一般的な食事量であるにも関わらず、体はどんどん太っていく。

 運動をして痩せようとしたこともある。

 しかし、そんな俺を嘲笑うかのように、体重は増える一方だった。

 食事の量は変えていないのに。

 何かの病気かもしれない。

 そう思ったときには……両親の愛情は完全になくなっていた。

 双子の兄妹が生まれたのだ。

 二人とも、俺とはとても似つかない綺麗な顔立ちで、そんな二人に両親は愛情をたっぷり注いでいった。

 それから俺の扱いは一変した。

 食事は、双子ばかりいい物を食べさせてもらい、俺は昨日の残りを貰うだけ。

 貰えるだけましかもしれないが、多くは残飯だったり、賞味期限や消費期限の過ぎたモノが主な俺の食事だった。

 洗濯も双子の服が汚れるからという理由だけで一緒に洗ってもらえず、さらに水道代が勿体ないという理由で、そのまま俺の服は放置される。

 だから、小学生の俺はいつも一人で自分の服を公園の水道を使って洗っていた。

 服と言えば、双子は新品を買ってもらえるのに、俺はいつもボロボロの服だけ。

 小学校のランドセルも中学校と高校の学生カバンも俺だけボロボロで、双子はいつも新品だった。

 双子は俺より一つ年下で、これらの理由から幼稚園に入ったころからは多くのことは自分でやらなきゃダメだった。

 すごく羨ましかった。

 俺は何もしてない……いや、何もしてないのがいけないのか?

 どれだけ訴えても、両親は俺の声を聞いてすらくれなかった。

 そんな理由から、俺が病気かもと思っても、病院にすら行けなかったのだ。

 一応、必要最低限の食事は与えられていたことを考えると、俺は恵まれているのだろう。

 例えそれが、両親にとって外聞を気にするからという理由であったにしてもだ。

 ――――しかし、そんな俺にも、優しくしてくれた人がいる。

 それは、もう亡くなったおじいちゃんだった。

 いろいろな場所に行っては、いつも変なお土産を持って帰って来るおじいちゃんは、あまり家にいることがない。

 でも、帰って来てるときは、おじいちゃんは醜い俺をいつも可愛がってくれた。

 それこそ、双子なんかよりも俺だけをずっと可愛がってくれたのだ。

 そんなおじいちゃんも、昔からあちこち飛び回って、変なモノばかり収集する変人として知られており、両親もお爺ちゃんのことを毛嫌いしていたりする。

 小学生になってからは、おじいちゃんの家が近いこともあって、おじいちゃんが家にいる時はいつも向かっていた。

 俺の扱いに憤慨したおじいちゃんが、周囲に訴えかけても、俺の見た目やおじいちゃんを変人扱いする周囲の声によって、すべて潰されてしまったのだ。

 そんなおじいちゃんも、俺が中学生のころに死んでしまった。



『優夜。決して負けるんじゃないぞ。なぁに、大丈夫。辛いことがあっても、笑顔を浮かべていれば、幸せはきっとやって来るさ。いつか、お前に酷いことをしたヤツらを見返せるくらいにな』



 そう俺に告げて、おじいちゃんは息を引き取った。

 しかも、俺におじいちゃんが住んでいた家と、財産を譲ってくれたのだ。

 もちろん、両親がそれを奪おうとしてきたが、おじいちゃんが徹底的な根回しをしていたらしく、両親は結局俺から奪い取る事が出来なかった。

 だが、その結果、両親は俺を育てることを完全に放棄した。

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異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~
[コミック版]異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~
原作:美紅
作画: 港川 一臣
キャラクター原案:桑島 黎音
カドコミ

関連情報

異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~
異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~
著:美紅
イラスト:桑島黎音
レーベル:ファンタジア文庫
ファンタジア文庫
 
 
 
 
 
異修羅
  • 原作:珪素
  • キャラクター原案:クレタ
  • ©2023 珪素/KADOKAWA/異修羅製作委員会

あらすじ

魔王が殺された後の世界。
そこには魔王さえも殺しうる修羅達が残った。
一目で相手の殺し方を見出す異世界の剣豪、音すら置き去りにする神速の槍兵、
伝説の武器を三本の腕で同時に扱う鳥竜の冒険者、一言で全てを実現する全能の詞術士、
不可知でありながら即死を司る天使の暗殺者……
ありとあらゆる種族、能力の頂点を極めた修羅達はさらなる強敵を、“本物の勇者”という栄光を求め、新たな闘争の火種を生み出す。
全員が最強、全員が英雄、一人だけが勇者。“本物”を決める激闘が今、幕を開ける――。

キャラクター

  • 柳の剣のソウジロウ
    柳の剣のソウジロウ
    「地球最後の柳生」を名乗る異世界の剣豪。どんな状況にあっても自分のペースを崩さず、常に斬ることを楽しみ、強敵と戦うことを求める戦闘狂。一瞬にして敵の急所を見極め、なまくら刀で巨大構造物すらも切断する頂点の剣術を振るう。
  • 遠い鉤爪のユノ
    遠い鉤爪のユノ
    ナガン迷宮都市の学士。大迷宮から突如現れた機魔に襲われ、親友のリュセルスを失ったことをきっかけに “強者”への復讐を誓った。ソウジロウに救われ、彼とともに黄都を目指す。

カクヨムエピソード1

 

異修羅

珪素

第一部 十六修羅

柳の剣のソウジロウ その1

 これは、一人目の話だ。

 遠い鉤爪のユノにとってのそれは、同窓の友人、リュセルスの記憶から始まる。

 

リュセルスは美しい少女だった。陽光に流れる銀の髪。整った睫から覗く、切れ長の碧の瞳。人間ミニアなのに森人エルフ血鬼ヴァンパイアよりも魅力的で、同じ女のユノが見てもそう思えるほど、養成校の中で――それどころか彼女の住むナガン市の中で、誰よりも輝いて見えた。

 

 だから級分けのはじめ、詞術しじゅつの授業中にリュセルスが教えを請うてきた時、ユノは内心の喜びを抑え切れなかったものだ。

 詞術しじゅつの中では多少、力術りきじゅつの分野を得意としてきたユノにとって、多くの同級生の中から彼女が自分を見つけて、ユノの唯一の取り柄を認めてくれたことは、初めての誇りだった。

 

 生来の少ない口数を振り絞って、ユノは彼女と話した。

 話してみると、リュセルスもまた、華やかな見た目からは意外なほど臆病で、成績が悪い事に悩んだりもする、普通の少女だった。しかし彼女の話し方はいつでも思慮深く、優しく、ユノの憧れが裏切られることはなかった。やがて植物学の分野で、驚くほど話が合うことに気付いた。

 彼女らはいつしか一緒に行動することが多くなって、新しく見つけた星の名前や、王国の併合の話、想いを寄せる男子候補生について教え合ったりもした。

 

 ナガン市は、大迷宮を中心に発展した新興の学術都市である。この市には複雑な生い立ちを持つ者も多い。遠く親元を離れて探索士養成校まで志願したリュセルスにも、もしかしたら、ユノの知らない何か複雑な事情があったのだろう。

 けれどそういった話に踏み込まなくとも、二人は友人でいられた。

 

 魔王自称者キヤズナが作り上げたナガン大迷宮には、二人が大人になってもきっと掘り尽くせないほどの、無数の秘密と遺物が残されている。この市ならば、どのような過去の者にも、どのような身分の種族にも、栄光を掴む道が拓けているのだ。

 “本物の魔王”が死んで、恐怖の時代は終わった。破滅に怯える必要もなくなったこの時代なら、未来にそんな夢を見る事だってできた。

 

 ――その未来が今だった。

 

「かはっ」

 

 炎に包まれたナガン市の石畳の上に、リュセルスの体は踏みにじられていた。

彼女の細い背を見下ろしているのは、緑を帯びた金属光沢の、虚ろな巨躯の鎧だ。太く重い四肢。頭部はその殆どが胴体に埋まっていて、青い単眼の光だけが見える。歯車仕掛けの機魔ゴーレム

 

「あっ、ぎ」

 

 リュセルスの美しい腕は、ユノの眼前で無造作に二回り捻られて、ブチブチと裂けた。

 

「リュセ、リュセルス……」

 

 それがユノではなくリュセルスだったのは、ただの偶然でしかなかった。リュセルスが左側を逃げていたから、石路地の左から飛び出してきた機魔ゴーレムに、彼女が捕まった。

 刃も通さぬ重金属の装甲で鎧われた機魔ゴーレムには、一頭丸ごとの馬の胴をも捻り切る力があるのだという。ただの少女二人には、立ち向かうことはおろか、逃げ延びることも不可能だった。

 それが全てだった。

 

「嫌! そんな、嫌ぁっ!」

 

 ユノは叫んだ。美しいリュセルスの肩の付け根から覗いた醜い骨と肉を、見ていることしかできない。肋骨ごと肺を押し潰されたリュセルスは、末期の悲鳴も上げられずにいるようだった。

 リュセルスは、掠れる声を吐いた。

 

「痛い……いっ、う……ああ……」

 

 親しい誰かが死にゆく時、自分が無力でいること以上の絶望が、この世にあるのだろうか。

 ――ああ。それとも、絶望ではなかったのか。

 最後の言葉が『助けて』という懇願でなかったことへの安堵を、一片でも抱きはしなかったか。

 

 大好きだったリュセルス。誰しもの憧れだったリュセルスは……

 そのまま、左脚も根元から引き抜かれた。まるで食肉みたいに脂肪の膜が糸を引いて、もがいていた膝関節は、だらしなく垂れた。

 

 機魔ゴーレムは何ひとつとして感情を見せず、他の市民を尽くそうしたように、ユノの崇拝する美しいリュセルスをも、生きながら解体した。

 

関連情報

異修羅I 新魔王戦争
異修羅I 新魔王戦争
著:珪素
イラスト:クレタ
レーベル:電撃の新文芸
電撃文庫
 
 
 
 
 
VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた
  • 原作:七斗 七
  • キャラクター原案:塩かずのこ
  • ©七斗七・塩かずのこ/KADOKAWA/「ぶいでん」製作委員会

あらすじ

数々の華やかなVTuberが所属する大手運営会社ライブオン。その三期生で『清楚』VTuberの心音淡雪が、不注意から配信を切り忘れた結果――「やっぱロング缶の鳴る音は最高だぜ!」「は? どちゃしこなんだが?」「わたしがママになるんだよ!」素の性格(酒カス・女好き・清楚(VTuber))がバレてしまい!?そして翌日「めちゃくちゃ切り抜かれてる!? トレンド世界1位!? なにこの同接数!!!!」大炎上するかと思ったら、ギャップがウケて大バズ! その結果「おっしゃー配信始めるどー!」開き直った彼女は、大人VTuberへ駆け上がっていく!! 

キャラクター

  • 心音淡雪(こころねあわゆき)
    心音淡雪(こころねあわゆき)
    淡雪の降る日にのみ現れるミステリアスな美女。吸い込まれるような紫の瞳の底にはなにが隠されているのか……。

カクヨムエピソード1

 

VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた

七斗七

第1話切り忘れ 前編

「皆様、本日もご清聴ありがとうございました。次もまた淡雪の降る頃にお会いしましょう」

 

コメント

:乙

:今日も楽しかったよー!

:淡雪が降る頃って言っても、最近毎日配信やってるよな。頻度しゅごい……

:毎日淡雪降ってるんだろ、察しろ

:淡雪が毎日は優しい異常気象

 

流れるコメントが一通り止まったところで配信を切る。

 

「ん?」

 

どうやらPCの調子が悪く若干固まってしまったようだ。

 

「もう……」

 

カチャカチャとクリックを繰り返してみるが、どうも反応しない。

PCにはあまり強くないのでこういう時の正しい対処法が分からない。

 

「お」

 

なんかよく分からんがとりあえず配信画面は閉じられたようだ、よかったよかった。


「はぁ」


ため息ともに席を立ち、一人暮らしのアパートの中を歩き冷蔵庫へと向かう

それと共に完全に頭の中が心音淡雪こころね あわゆきから二十歳無職の一般女性、田中雪たなか ゆきへと切り替わる。

……そう無職だ。大学生でもないしバイトもしてない生粋のNEET。

……そんな白い目で見ないでください、ちゃんとした理由があるんです。

高卒で入社した会社がまさかの純度100パーセントのブラックで毎日ぼろ雑巾のように酷使される日々、死んだ目で毎日を過ごしていた社会人生活だった。

そんな中唯一心の支えだったのが、最近になって一気に勢力を増し、今では国内トップクラスのVTuber運営会社となった『ライブオン』の華やかなVTuber達だった。

一人ひとりが色の濃すぎる世界を展開するそのカオスな世界に私は一瞬で魅了され、ただでさえ少ない自分の時間を削ってでも日々視聴を続け、次第に生きる希望といっていいほどのめりこんでいった。

そんな精神をすり減らしながらなんとか安い給料で生き繋いでいた私だったが、働きすぎで最早ダークホールのようになった私の光なき目に一点の光を灯すニュースが舞い降りてきた。



《ライブオン 三期生ライバー大募集!!!》



正直無理だと思った。

実際緊張しすぎて面接のとき何をしゃべったのか未だに思い出せない。

だがこれも神のいたずらか、なぜか本当に受かってしまった。

新たに与えられたのは心音淡雪というもう一人の私。

女性としてはなかなかの長身に背中まであるストレートの黒髪、真っ白な肌、そしてなにか奥に得体のしれない『なにか』を感じるハイライトの薄い紫の目。

担当のマネージャーさんからは雪さん本人をモデルにしてイラストレーターさんに書いていただきましたと言われた。とても私はこんな美人ではないと思うのだが……

ちなみに勤めていた会社は三期生に合格してすぐやめた。

流石に早計じゃないかお前と言いたくなる人もいるだろうが、VTuber活動は忙しいからね、仕方ないね。



……嘘ですごめんなさい、これ以上あのブラック環境で働くのはクソ雑魚メンタルの私には無理でした……。



でもこれからはVTuberとして配信いっぱいして人気も出てやがては収益化でうはうはだヒャッハー――!!!!!!

そんな欲丸出しの夢物語が実現できると思っていた時期が私にもありました。

はっきり言うが人気が出ない。まじで出ない。収益化以前の問題である。

もうデビューから3か月程経ったが、同じ時期にデビューしたライバー達と比較してもチャンネルの登録者や配信に来てくれる人は半分以下だ。というか時間がたつにつれ離されてきている。

 

関連情報

VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた
VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた
著:七斗 七
イラスト:塩かずのこ
レーベル:ファンタジア文庫
ファンタジア文庫
 
 
 
 
 
ブルバスター
  • 企画・原作:中尾浩之・P.I.C.S.
  • キャラクター原案:窪之内英策
  • ©P.I.C.S.・KADOKAWA刊/波止工業動画制作部

あらすじ

若き技術者・沖野鉄郎は、自ら開発した新型ロボット・ブルバスターを携え、害獣駆除会社の波止工業に出向。田島が社長を務める波止が対峙しているのは“巨獣” と名付けられた謎の生物だった!さらに万年金欠の零細企業とあって、波止には常に経済的な問題がつきまとう……。ロボットの燃料費、パイロットの人件費、もちろん弾一発の無駄さえ許されない。巨獣を退治するという「理想」と、コストという「現実」の狭間で、波止に未来は訪れるのか!?

キャラクター

  • 沖野鉄郎(おきのてつろう)
    沖野鉄郎(おきのてつろう)
    パイロット兼インストラクター。蟹江技研の社員だが、自身が開発したブルバスターの納品を機に、出向で波止工業に移籍した。ロボットアニメ好きの明るいオタク。性格は無邪気で単純だが、調子に乗りやすく、大失敗も少なくない。
  • 二階堂アル美
    二階堂アル美(にかいどうあるみ)
    波止工業社員。パイロット。操縦において抜群のセンスを見せる。性格はクールで無愛想だが、巨獣に関しては、時に感情をあらわにする。龍眼島の元住民で、島への思い入れが人一倍強い。首元のチョーカーは母の形見で心のより所。

カクヨムエピソード1

 

ブルバスター

原作:中尾浩之 /小説:海老原誠二

ブルバスター始動!

第1話

二〇××年皐月。

 倉庫のような建物を、力強さを増し始めた五月の朝日が照らしている。

 そこは、翼を広げたジャンボジェットが丸々一機入りそうな横幅と奥行きを備えた格納庫。

 ドーム状の丸みを帯びた天井まで、六、七メートルあるだろうか。建物全体のずんぐりとしたシルエットは、板に乗ったかまぼこを思わせる。建物の外壁はおおむね、校舎のように淡いクリーム色で塗られている。

 屋根のちょっと下、かまぼこで言うところのピンクの部分には、黒い文字で『蟹江技研』と書かれている。そのすぐそばに赤で記された『安全第一』の文字の方が、社名よりも目立っているのは、社員思いの会社である証拠か、単なる対外アピールの格好づけかは分からない。

 そんな格納庫を、一人見上げる作業着姿の青年。

『蟹江技研』の文字を見詰めるその表情は、どこか感慨深げにも見える。

 青年は、振り仰いだ視線を水平に戻すと、格納庫の壁面に据え付けられた小さな箱状の装置に足を向けた。

 作業着のポケットに押し込んでいた鍵束をジャラリと取り出すと、慣れた手つきでそのうちの一つをつまみ、装置の鍵穴に差し込む。そのまま鍵を右に回すと、カチッという小気味良い音と共に装置のふたが開いた。

 青年が、中にあった『開』のボタンを押し込むと、格納庫の天井付近から、ガシャンという重い音が聞こえ、シャッターがゆっくり左右に開き始めた。

 朝日が格納庫の内部に差し込み、徐々にその全景があらわになっていく。

 だだっ広いスペース。青年を除いて、そこに人の姿はない。

 壁際には、工具や資材が整然と並べられている。単なる格納庫でなく、整備場も兼ねているのだろう。内部には、錆びた鉄の臭いと機械油の臭いが染みついている。

 ただ、それが鼻をつまみたくなるほどキツイ感じがしないのは、作業員たちの日頃の行いの賜物だろう。夜中、閉鎖空間に溜まっていた密度の濃い臭気は、スルリと吹き込んできた朝の風が、どこかに運んでいってしまった。

 スペースの中央に、一台の大型トラックが停められている。荷台はシルバーのシートですっぽり覆われていて、何が積まれているのかは分からない。ゴツゴツとしたシルエットから、重機の類いであることは何となく見て取れるものの、シャベルカーやブルドーザーとは少し違うように思える。

 その〝鉄の塊〟らしき物を、誇らしげに見上げる青年。

 沖野鉄郎。二十一歳。

 蟹江技研の開発部に籍を置く、入社三年目の社員だ。

 ただ、それなりに聞こえる肩書きとは裏腹に、顔には少年の面影が色濃く残っている。鼻の周りに散ったソバカスやいたずらっぽい目からすると、青年と呼ぶにはまだ早いように思える。

 そんな童顔体質を気にしてか、髪にはふんわりとしたデザインパーマをあてているようだが、それが大人の男感に繋がっているかといえば、首を傾げざるをえない。一応かたちになってはいるものの、大リーグに行った日本人選手が移籍した途端にヒゲを伸ばすような、そこはかとない違和感、無理やり感を漂わせている。

 本人にとっては、それはオシャレでやっているというより、「舐められてたまるか!」という男の意地や見栄に近いものなのかもしれない。

 男臭さとはほど遠い、線の細さも特徴だろう。きゃしゃな体型をカバーしようと、わざわざブカっとしたツナギ状の作業着を着ているようだが、それがむしろ体の細さを際立たせてしまっている。

 イマドキっぽい容姿と言えばその通りだが、子供っぽさやきゃしゃな体つき、それらすべてがある種のコンプレックスだった。

 

トラックの荷台に積まれた積載物を見上げていた沖野は、無意識の内にそれを覆っているシートに手を掛けそうになった。が、慌てて手を引っ込めた。

 沖野は、その積載物の中身がどんなものか知っている。しかし、今、そのベールを剥いでしまっては、後の楽しみが半減してしまうことも、また知っていた。プレゼントを渡すより先に、それに自分の手垢が付いてしまっては、興ざめである。喜びの瞬間は、この品を発注したクライアントと共有したい。

 沖野は、その光景を想像して、一人ニンマリした。

 わざわざ早起きして、誰もいない格納庫に足を運んだのは、トラックの荷台をのぞき見るためではない。格納庫の内部、自分が同僚たちと汗を流して作業に勤しんだ、この仕事場の光景を目に焼き付けるためだった。

 というのも、沖野が二〇××年の入社以来、三年間通い詰めた場所に日参するのは、この日が最後になるからである。今日、二〇××年五月一日をもって、納入品と共にクライアントへ出向の身となるのだ。

 三年間、世話になった部室を後にするような感慨がある。しかし、決して感傷的な気分になっているわけではなかった。

 むしろ、社長から直々に出向を命じられた瞬間は、小躍りしたくなるほどうれしかった。なぜなら、出向先での業務が、願ってもないものだったからである。子どものころからの夢は、今の会社に入ったことで半分はかなった。残りの半分は、出向先の会社でかなえることができる。

 沖野は、自身の恵まれた境遇に、改めて感謝した。

 

 三年前、高校卒業後、蟹江技研に就職した沖野は、希望通り開発部に配属された。それから今に至る時間は、文字通りあっという間に過ぎ去った。

 ほとんどの時間は、見て学ぶ、やって学ぶ、失敗して学ぶことに費やされた。トラックの積み荷は、入社二年半を過ぎ、初めて開発リーダーを任された代物だ。

 その抜擢は、異例中の異例だったと言っていい。製造のライン責任者くらいなら、二十歳そこそこの若造が就いた前例はある。が、開発リーダーとなると、蟹江技研創業以来、初めての大胆な人事だった。

 もちろん、沖野自身に才能があったことは言うまでもない。先輩や同期を押しのけて、その任務を与えられたのは、単なる〝好き〟を超越した、沖野自身の実力によるところが大きかった。背景には、年功序列を拠り所にしない、あっけらかんとした社風もある。

 現在の時間は、朝七時をちょっと回ったところ。フレックスタイム制が導入されている蟹江技研で、沖野は普段、十一時ごろの出社を日課としている。いつもより四時間近く早いのは、巣立ちの時を迎えた職場で一人感慨にふけるためと、もうひとつ、それとは比べものにならないくらい大きな理由があった。

 トラックの荷台に積み込んだ商品を、朝一でクライアントに届ける手はずになっているのだ。

 思い起こせば、ここに至るまで、楽な道のりではなかった。開発の難しさ、手間、労力は、最初から覚悟していたこともあって、特段語るようなことはない。むしろ、沖野個人からすれば、幼少期から思い描いてきた空想を、現実のものにするという高揚感の方が勝っていた。開発を任されてからの半年は、沖野にとって至福の時間だったと言える。

 ただ、唯一計算外だったのは、クライアントが直前になって納品を急かしてきたことだった。当初、納期は来週の予定だったのだが、急きょ「一週間早めてほしい」と打診されたのだ。

 それでも、沖野のモチベーションは下がらなかった。というより、むしろ上がった。文化祭前日にクラスみんなで徹夜するようなワクワク感さえあった。

「オレがどんだけ無理ゲーをクリアしてきたと思ってんの? やれるに決まってるっしょ!」

 納期の前倒しを受け、そんな独り言を口にしたことを思い出す。

 実際、沖野は今回の無理ゲーも余裕でクリアした。ここ数日、徹夜状態でソフトウェアのデバッグを行い、その合間を縫うように電気系統の最終調整を行った。が、疲労感はまったく感じていなかった。

 準備は万全。あとはモノをトラックでクライアントに届けるだけ。大型免許を持つ運転手は、八時にはここに現れることになっている。朝の渋滞を考慮しても、クライアントのもとに九時前に到着できる算段だ。

 沖野は、トラックに同乗し、クライアントに商品をお披露目。そのまま出向初日を迎えることになる。

 

 

 

関連情報

ブルバスター
ブルバスター
原作:中尾 浩之
カバーイラスト:窪之内英策
レーベル:エンターブレイン ホビー書籍編集部
詳細はこちら
 
 
 
 
 
佐々木とピーちゃん
  • 原作:ぶんころり
  • キャラクター原案:カントク
  • ©2024 ぶんころり,カントク/KADOKAWA/佐々木とピーちゃん

あらすじ

佐々木がペットショップで購入した文鳥は、異世界から転生した高名な賢者様だった。
可愛らしい賢者様に世界を超える機会と強力な魔法の力を与えられ、佐々木は異世界へと現代の物品を持ち込んで商売を開始。
世界間貿易でお金を稼ぎ、魔法の訓練をして、美味しい物を食べまくる――そんな悠々自適なスローライフを目指してみるも、ある日のこと、会社からの帰り道で佐々木は異能力者と遭遇する。
賢者印の魔法で異能バトルを切り抜けるが、その実力を見込まれて内閣府超常現象対策局という異能管理組織からスカウトされ、晴れて転職先が決定してしまい……?
異世界ファンタジーに異能バトルに年の差ラブコメ(?)。
さらには魔法少女、ご近所JC、同僚JK、貴族、ロリババア、王子etc...属性ジャンル全部乗せでお贈りする、アラフォーリーマン佐々木&文鳥賢者ピーちゃんコンビの異世界と現代日本行ったり来たり物語。

キャラクター

  • 佐々木(ささき)
    佐々木(ささき)
    本作の主人公。都内の商社に務める万年平の草臥れた社畜。同僚が猫を飼い始めたことに感化されてペットショップを訪れたところ、文鳥のピーちゃんと出会う。これを契機として異世界と現代を行ったり来たり、世界間での商売に励むことになる。
  • ピーちゃん
    ピーちゃん
    本作もう一人の主人公、人語を解するシルバー文鳥。その実態は異世界からやってきた高名な賢者様。ペットショップで佐々木にお買い求めされる。当面の目標は食っちゃ寝スローライフ。好物は高級和牛のシャトーブリアン。

カクヨムエピソード1

 

佐々木とピーちゃん

ぶんころり

第一章 異世界と異能力

プロローグ

 四十路を目前に控えて、心が寂しい。

 

 そこでペットショップにやってきた。猫を飼い始めた勤め先の先輩が、とても楽しそうに愛猫トークを繰り広げてくる様子に感化されてのことだ。パソコンやスマホの壁紙など猫一色で、それはもう毎日を幸せそうに生きている。

 

 しかし、流石に猫は敷居が高い。

 

 アパートを借りるにも敷金が跳ね上がるし、それなりの広さを用意する必要もある。更にお迎えの為の初期費用も数十万とのこと。こうなると二の足を踏んでしまうのが、安月給の悲しいところだ。

 

 お金が欲しい。

 

 お金さえあれば、お猫様を迎えることができる。

 

 いいや、お犬様を迎えることさえ夢ではない。

 

 最強のワンワン、ゴールデンレトリバーを。

 

 ただ、今の自分はお金がない。

 

 だから犬も猫も駄目。

 

 そこで本日、目当てとなるのは小型の鳥類である。

 

 現在の住まいとなるワンルームのアパートでも飼育可能、という条件で考えると、鳥かネズミになる。しかし、ネズミは寿命が短い。二、三年で亡くなる種が大半だそうな。なんて切ないのだろう。

 

 もしもネズミを飼育したのなら、再び共に歩めるか定かでない春夏秋冬を思い、相棒と共に過ごす毎日を大切にし過ぎてしまいそうである。その存在に癒やされたいのに、むしろ日々を張り詰めてしまうのではなかろうか。

 

 そう考えると鳥以外に選択肢はなかった。

 

 なるべく鳴き声が小さめで、ストレス耐性のある賢い子をお迎えしたい。

 

「……ゴールデンレトリバーかわいい」

 

 

 店内でゴールデンレトリバーの子犬を発見した。

 

 心は大型犬を求める。

 

 広い戸建ての屋内でゴールデンレトリバーを飼いたいと。

 

 ケージの中でうつらうつらとする赤ちゃんレトリバー。その愛らしい姿についつい視線が向かってしまう。店内を進む足が止まってしまいそうになる。値札に視線が吸い寄せられて、クレジットカードの上限と照らし合わせてしまう。

 

 しかし、仮に上限が許容範囲であったとしても、その願いは敵わない。

 

 何故ならば我が家は手狭いワンルーム。

 

 それもこれも、やっぱりお金がないのが悪い。

 

 可愛らしい子犬を傍らに見送り、歩みは鳥コーナーに向かう。

 

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
佐々木とピーちゃん
[コミック版]佐々木とピーちゃん
原作:ぶんころり
漫画:プレジ和尚
キャラクター原案:カントク
カドコミ

関連情報

佐々木とピーちゃん
佐々木とピーちゃん
著:ぶんころり
イラスト:カントク
レーベル:MF文庫J
MF文庫J
 
 
 
 
 
神は遊戯に飢えている
  • 原作:細音啓
  • キャラクター原案:智瀬といろ
  • ©2024 細音啓,智瀬といろ/KADOKAWA/神飢え製作委員会

あらすじ

暇を持て余した至高の神々が作った究極の頭脳ゲーム「神々の遊び」。永き眠りより目覚めた元神様の少女レーシェは、開口一番にこう宣言した。
「この時代で一番遊戯の上手い人間を連れてきて!」
指名されたのは“近年最高のルーキー”と注目される少年フェイ。二人が挑む「神々の遊び」は難易度高過ぎで完全攻略者はいまだ人類史上ゼロ。なぜなら神様は気まぐれで、とっても理不尽で、たまに理解不能だから。だけどそんなゲームだからこそ、心から楽しんで遊ばなきゃもったいない!
ここに、天才ゲーム少年と元神様の少女と仲間たちによる、至高の神々との究極頭脳戦が幕を開ける!

キャラクター

  • フェイ
    フェイ
    「神々の遊び」通算成績は未だ無敗。「近年最高のルーキー」と期待される使徒。
  • レオレーシェ
    レオレーシェ
    愛称はレーシェ。氷の中にうっかり3000年眠っていたゲーム好きな元神さま。

カクヨムエピソード1

 

神は遊戯に飢えている。

細音啓

Chapter1 ゲームスタート

神の遊戯その1「神ごっこ」

第0話 ゲームの始まり

 隠れんぼ、という遊戯ゲームをご存じだろうか。

 

 好きな場所に隠れる「子」と、それを見つける「鬼」の二役で遊ぶ、実に単純明快で、誰でも一度は経験のある遊びである。

 そう、そして。

 

 この世界には、こうした遊戯ゲームでヒトと勝負したい神々が無数にいるのだ。

 

 一つ例を紹介しよう――

 

 はるか太古のこと。

 隠れんぼの最中に海の底に隠れたきり、うっかり三千年ほど寝過ごした・・・・・・・・・・最高に愉快でドジな竜神を。

 

 その神さまが目覚めた時から、きっと、この物語は始まった。



 ◇



 北の大寒波地域レイアス=ベルト。

 史上一度として溶けたことのない氷の秘境。ぶあつい氷壁が山のようにそびえ立ち、訪れる冒険者の行く手を阻む。

 

 その一角で――

 吹きすさぶ吹雪にまじって。

 氷壁を切りだす作業にあたっていた探検チームから、驚愕の声があがった。

 

「出てきたぞ! 化石じゃない」

「そんな……ここは氷河期の氷の中だってのに!?」

 

 氷壁から切りだされた巨大な氷塊。

 そこから見つかったのは、恐竜やマンモスの化石――――ではなかった。

 

「ヒトだ、それも少女!?」

 

「神秘法院に連絡急げ。ああ本部にだ!……どういうことだ。氷河期の地層からなぜ人間が出てくる!?」

 

 氷壁から見つかったのは、人間。

 それも明らかにまだ十代なかばの少女だった。

 

「……古代魔法文明の時代の人間でしょうか」

「冗談じゃない! 人間が、どうやってこのマイナス46度の氷中で原形を保っていられる。三千年あればマンモスだって化石化するぞ!」

 

「…………隊長……この子、生きてませんか?」

 

 少女は、美しかった。

 鮮やかな炎燈色ヴァーミリオンの長髪は、燃える炎のごとく煌めいて。

 現代人と変わらぬ顔つきと愛らしい目鼻立ち。わずかに朱にそまった頬は、生きているように血色がいい。

 

 そして一糸まとわぬ裸身。

 

 華奢でありながら、少女らしい丸みを帯びた身体の起伏も覗える。

 もともと服は着ていたが、三千年という時間経過と極寒にさらされて服の繊維がボロボロにほつれていったのだろう。

 

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
神は遊戯に飢えている
[コミック版]神は遊戯に飢えている
原作:細音啓
漫画:鳥海かぴこ
キャラクター原案:智瀬といろ
カドコミ

関連情報

神は遊戯に飢えている
神は遊戯に飢えている
著:細音啓
イラスト:智瀬といろ
レーベル:MF文庫J
MF文庫J
 
 
 
 
 
継母の連れ子が元カノだった
  • 原作:紙城境介
  • キャラクター原案:たかやKi
  • © 紙城境介・KADOKAWA/連れカノ製作委員会

あらすじ

ある中学校である男女が恋人となり、イチャイチャして、些細なことですれ違い、ときめくことより苛立つことのほうが多くなって……卒業を機に別れた。
そして高校入学を目前に二人は――
伊理戸水斗と綾井結女は、思いがけない形で再会する。
「僕が兄に決まってるだろ」
「私が姉に決まってるでしょ?」
親の再婚相手の連れ子が、別れたばかりの元恋人だった!?

キャラクター

  • 伊理戸水斗
    伊理戸水斗(いりどみずと)
    結女の元カレ。中学卒業時に結女と別れるが、その直後に水斗の父親と結女の母親が再婚、義理のきょうだいに。
  • 伊理戸結女
    伊理戸結女(いりどゆめ)
    水斗の元カノ。中学時代は本だけが友達という地味で人見知りな少女だったが、美少女優等生として高校デビューに成功した。旧姓は綾井。

カクヨムエピソード1

 

継母の連れ子が元カノだった

紙城境介

本編

1.昔の恋が終わってくれない

元カップルは叫ぶ。「神様てめえ!」

 

「……………………」

「……………………」

 

 僕は自分の家の玄関で、不良もかくやという睨み合いを演じていた。

 相手は同い年の女子。それ以上でもそれ以下でもない――と言いたいところだったが、実際にはそれ以上でもあるし、あったと表現せざるを得ない。

 

「…………どこに行くの、水斗みずとくん」

「…………そっちこそ、どこに行くんだ、結女ゆめさん」

 

 女が言い、僕が言い、そして黙り込む。

 これで3回目だった。

 実のところ、訊くまでもなく、この女の行き先はわかっている。駅前にある大型書店だ。今日は推理小説を中心に刊行する某レーベルの発売日なのだ。僕もそのレーベルの新刊に用があり、この女もまた同じ目的を持つ。

 だから、このまま玄関を出ると、書店まで連れ立って歩き、同じコーナーに足を向け、レジの列に前後で並ぶ羽目になってしまう。

 そんなの、まるで同じ本の趣味を持つカップルじゃないか。

 そう思われることだけは、お互い、絶対に避けたいことだった。

 

 つまるところ、僕たちは膠着状態にあった。

 出掛けるタイミングをずらさなければならないが、果たしてどちらが先に玄関を出るか――それを決めるべく、牽制を応酬している段階なのである。

 話し合って決めればいいって?

 嫌だね。この女との話し合いで解決することなんて何一つ存在しない。

 それに――

 

「――あれー? 結女に、水斗くんも。そんなところで何してるのー?」

 

 スーツを着た由仁ゆにさんが、リビングのほうからやってきた。

 由仁さんは、ほんの1週間ほど前に僕の母親となった人だ。

 すなわち、僕の父親の再婚相手であり――目の前のこの女の、実の母親である。

 

「二人とも、出掛けるんじゃなかったの?」

「これから出掛けるところです」

 

 それじゃ、と質問を利用してスムーズに先行を試みた僕だったが、その前に由仁さんが言った。

 

「あ、もしかして駅前の本屋さん? 水斗くんも本好きだって聞いてたから~! なら、きっと結女と同じ行き先よね? この子、出掛けると言ったら本屋さんか図書館くらいだから」

「……ええっと」

「ちょっと、お母さん……」

「あっ! もしかして一緒に行くところだったのかしら! 嬉しいわ、水斗くん! 結女と仲良くしてくれているのね! これからもよろしく頼むわ。この子、人見知りなところがあるから」

「……は、はい……」

 

 そういう風に言われては、僕も頷く他になかった。

 隣から射殺さんばかりの視線を感じる。

 

「それじゃあ、わたし、これから仕事なの。いってらっしゃい、二人とも! きょうだい仲良くね!」

 

 そう言い残して、由仁さんは玄関扉の向こうに消えた。

 あとには、僕と彼女だけが――きょうだいだけが、残される。

 そう。僕たちはきょうだいだ。

 ただし、義理の。

 再婚した親の、連れ子同士――

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
継母の連れ子が元カノだった
[コミック版]継母の連れ子が元カノだった
原作:紙城 境介
作画:草壁 レイ
キャラクター原案:たかやKi
カドコミ

関連情報

継母の連れ子が元カノだった
継母の連れ子が元カノだった
著:紙城境介
イラスト:たかやKi
レーベル:角川スニーカー文庫
角川スニーカー文庫
 
 
 
 
 
勇者、辞めます
  • 原作:クオンタム
  • キャラクター原案:天野 英
  • ©クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

あらすじ

魔王軍の侵攻から世界を救った勇者レオ。しかしその強さは平和な世を迎えた人間にとっても脅威となり、 ついには聖都から追放されてしまった。
地位も名誉も居場所も失い、彷徨う勇者が行き着いた先は――ボロボロの魔王軍!?
人への恨みか自暴自棄か、魔王に正体を隠しつつ、四天王と共に軍の立て直しに挑むレオ。引退勇者の大仕事、その先に待つものは……?

キャラクター

  • レオ・デモンハート
    レオ・デモンハート
    人間界最強。あらゆる戦闘能力に長けている。人々から恐れられて人間界の居場所を失い、転職先の魔王軍で業務効率化に尽力する。
  • エキドナ
    エキドナ
    魔界最強。魔王軍を率いている。とある目的のため人間界を侵略しに来てレオに撃退された。人間界の片隅にある魔王城で再起を企てている。

カクヨムエピソード1

 

勇者、辞めます ~次の職場は魔王城~

クオンタム

第一部 : 勇者、辞めます(完結済み)

1. いいから俺を採用しろ

1-1. 勇者、採用面接を受ける

 コン、コン、コン、コン。

 

 丁寧にノックを四回。

『どうぞ』という声を待ってから、赤く分厚い鉄扉を開ける。

 

 ……内定を取るぞ。

 内定を取る。絶対に内定を取ってみせる。

 俺にはもう、ここしか行き場がないのだ!

 

 気合いを入れて前を向き、ぐいと扉を押す。

 面接室の……王の間のひんやりとした空気が俺の頬を撫でた。

 

 王の間は相変わらず広々としており、ひどく殺風景で、寒々しかった。

 ビリビリに破けた赤い絨毯。

 完膚なきまでに粉砕されたフルプレートアーマーの残骸。

 床や壁をはじめ、あちこちに魔王と勇者の戦闘によって刻まれた破壊痕が残っており、それらは特に修繕される様子もなく完全に放置されている。

 

 そんな王の間の深奥で待ち受けるのは、玉座に悠然と腰掛けた真紅のドレスの少女。

 魔界の覇者、爆炎の女帝――魔王エキドナ。

 彼女の両脇を固めるのは、四人の側近。エキドナ直属の四天王達だ。

 

 全員の視線が俺に集中した。

 

 俺は彼らに深く一礼すると、《正体隠蔽ゴーストフェイス》の呪文をかけておいたローブを脱ぎ捨て、素顔を晒す。エキドナが驚愕の表情を浮かべ、玉座から腰を浮かせるのが見えた。

 

 驚くのも無理はない。なにせ、彼女と俺はついこの間まで血みどろの殺し合いをしていたのだから。

 殺るか殺られるかの真剣一本勝負――勝ったのは勇者。つまり、俺だ。

 一言には言い表せない複雑な想いが、俺とエキドナの間に渦巻いている。

 

 だが、過去の事は忘れよう。戦争は終わった。今は未来を見据える時だ。

 人と魔族で手と手を取り合い、希望に満ちた明日へと踏み出す時だ。

 

 エキドナだって馬鹿じゃない。今の魔王軍が深刻な人手不足に陥っているのは彼女が一番わかっているはずだ。たとえ相手が誰だろうと――そう、たとえ憎き勇者が相手でも、とりあえず話くらいは聞いてくれるはずだ。

 

 俺は履歴書をテーブルに置くと、道すがら熟読した『必勝! 就職面接マニュアル』に書いてあった通りに自己アピールを行った。

 

 言葉はできるだけはっきりと。

 経歴は包み隠さず。

 胸を張って堂々と、自分に出来る事を伝える。

 

「元・勇者、レオ=デモンハート!

 特技は剣術、黒魔術、精霊魔術、神聖魔術、その他全般!

 一対一で魔王エキドナを打ち倒した実績あり。即戦力として活躍可能!」

 

 『打ち倒した実績あり』のあたりでエキドナの額に青筋が立った気がしたが、まあ気のせいだろう。事実は事実として伝えましょう、とマニュアルにも書いてあったし。

 

 志望動機は……ううむ、多少脚色してもいいか。

 面接で嘘をつくなんて、今時みんなやっている事だ。大きく息を吸い、志望動機を口にする。

 

 「愚かな人間どもを滅ぼし、魔族の千年王国を作るため、

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
勇者、辞めます
[コミック版]勇者、辞めます
漫画:風都 ノリ
原作:クオンタム
キャラクター原案:天野 英
カドコミ

関連情報

勇者、辞めます
勇者、辞めます
著:クオンタム
イラスト:天野 英
レーベル:ファンタジア文庫
ファンタジア文庫
 
 
 
 
 
ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
  • 原作:しめさば
  • キャラクター原案:ぶーた
  • ©しめさば・KADOKAWA/『ひげひろ』製作委員会

あらすじ

5年片想いした相手にバッサリ振られたサラリーマンの吉田。
ヤケ酒の帰り道、路上に蹲る女子高生を見つけて――「ヤらせてあげるから泊めて」「そういうことを冗談でも言うんじゃねえ」「じゃあ、タダで泊めて」 なし崩し的に始まった、少女・沙優との同居生活。
『おはよう』『味噌汁美味しい?』『遅ぉいぃぃぃぃぃ』『元気出た?』『一緒に寝よ』『……早く帰って来て』 家出JKと26歳サラリーマン。微妙な距離の二人が紡ぐ、日常ラブコメディ。

キャラクター

  • 沙優(さゆ)
    沙優(さゆ)
    家出女子高生。吉田と出会い、同居することに。
  • 吉田(よしだ)
    吉田(よしだ)
    大手IT会社に勤める26歳サラリーマン。

カクヨムエピソード1

 

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。

しめさば

前提

プロローグ 電柱の下の女子高生

 

 失恋をした。

 2つ年上の、同じ会社に勤める女性だ。

 名前は後藤さんといった。

 後藤さんは面倒見が良く、研修の時から俺に良くしてくれた。

 笑顔が淑やかで、気配りができて、社畜と化していた俺の心の支えだった。

 

「男がいるなら最初から言えやァ……」

 

 もう何杯ビールを飲んだか分からない。

 向かいの席で他人事のように笑う同期の橋本はしもとの輪郭もぼやけて見える。

 

 そう、デートに行ったのだ。後藤さんと。

 勤続5年目にして、ようやく彼女をデートに誘った。

 快く誘いを受け入れられて、これは行けるのでは! と期待を膨らませながらデートに行き、動物園を一緒に歩いた。

 正直、動物よりも後藤さんの横顔ばかり見ていた。ときどき、乳も横目で見た。

 とにかく、このチャンスを無駄にしてはならないと、俺は張り切りに張り切っていた。

 動物園を回り終え、オシャレなフレンチの店で夕食をとった。美味しかった気がするが、味はもう覚えていない。

 そして、満を持して。

 俺は後藤さんを誘った。

 

「このまま、俺の家に来ませんか」

 

 お互い大人である。

 この言葉の意味くらいは、すぐに理解できるだろう。

 期待と不安の入り混じった目で後藤さんを見ると、後藤さんは困ったように笑っていた。

 そして、首を横に振ったのだった。

 

「会社では秘密にしているんだけど、私、恋人がいるの」




「じゃあなんでデートに来たんだよッ!!!」

「ああもう吉田、それ今日六回目だから」

「一万回でも言ってやるよぉ……」

「一万回も同じ話聞きたくないんだけど」

 

 俺がビールを煽るのを、橋本は苦笑しながら見ていた。

 

「そのへんにしときなよ」

「馬鹿、こんなんで俺の怒りがおさまるかってんだァ」

「酒が回ってきた後の方がキレてるじゃん。らち明かねぇって」

 

 橋本は他人事だからそんなことを言えるのだ。

 今日は飲まないとやっていられない。

 

 後藤さんにフラれた直後、俺は茫然自失で小さな公園のベンチで項垂うなだれた。

 訊くと、五年前から彼女には恋人がいたのだという。

 つまり、俺が彼女と知り合った時にはすでに男がいたということだ。

 

「馬鹿みてぇだ……」

 

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
[コミック版]ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
漫画:足立いまる
原作:しめさば
キャラクター原案:ぶーた
カドコミ

関連情報

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
著:しめさば
イラスト:ぶーた
レーベル:角川スニーカー文庫
角川スニーカー文庫
 
 
 
 
 
スーパーカブ
  • 原作:トネ・コーケン
  • キャラクター原案:博
  • ©Tone Koken,hiro/ベアモータース

あらすじ

山梨の高校に通う女の子、小熊。
両親も友達も趣味もない、何もない日々を送る彼女は、ある日、中古のスーパーカブを手に入れる。
それは小熊の世界を輝かせる小さくて大きな変化だった。
ひとりぼっちの女の子と世界で最も優れたバイクが紡ぐ、日常と友情の物語が始まる――。

キャラクター

  • 小熊(こぐま)
    小熊(こぐま)
    成績も容姿も普通で目立たない少女。カブと出会い、その世界は少しずつ変わっていく。
  • 礼子(れいこ)
    礼子(れいこ)
    近寄りがたい美形でクラスでも孤高の存在。愛用のバイクはハンターカブ。

カクヨムエピソード1

 

スーパーカブ

トネ コーケン

第1話 ないないの女の子

山梨県北杜市。

 中央本線の日野春駅から市の中心部に至る道を、一人の少女が自転車で走っていた。

 ブレザー制服の下にジャージをはいた小柄な少女。

 おかっぱ頭にうっすらリンゴ色のほっぺ。美少女と言うには小さく野暮ったい目。東京や神奈川の郊外に居ても、田舎の女学生という印象しか抱かれないような女の子。

 少女の名は小熊。外見の田舎っぽさを更に盛り足すような名前をつけた人間に文句を言おうにも、それは不可能だった。

 小熊は天涯孤独の一人ぼっちという奴だった。

 父親は小熊が生まれて間もなく事故で死に、さほど多額でなかった父の遺産を切り崩しながら小熊を育てた母親は、小熊が高校に進学した直後、お役目終了とばかりに失踪宣言の紙切れを残して姿を消した。

 高校に入っていきなり親を失った小熊。父母が駆け落ちに近い形で結婚したこともあって疎遠だった祖父母もとっくに没していた。

 小熊は通っていた高校や自治体と相談した結果、奨学生として現在の高校に通い続けることとなった。

 奨学金の融資を受けられる立場になるための学力試験にも問題なく合格した小熊は、とりあえず平穏な生活が送れそうになったことに安堵し、今はもう居ないけど、バカではない子に産んでくれた母親に一応は感謝した。

 たった一人の親に捨てられた悲しみは自分でも驚くほど薄いものだった。

 昔から母とはさほど会話をしない暮らしをしていた。嫌いだったのではなく、小熊は人への執着を抱かない少女だった。

 クラスにも友達といえるほど親しい人間は居ない。部活もやってない。趣味らしい趣味も無い。

 ないない尽くしの生活を特に不便だと思ったことは無かった。

 

 日野春駅から坂を降りて川を越え、国道20号線を渡ると、今度は上り坂が始まる。

 小熊は隣町のホームセンターで買った一万円ママチャリのペダルに力をこめた。横をロードレーサー・タイプの自転車に乗った同じ高校の生徒が追い抜いていく。

 あんなエネルギッシュな高校生活を送れたら面白いのかな、と少し思った。学費に加え慎ましく暮らせばなんとかやっていける程度の生活費が無利子で貸し付けられる奨学金で暮す身。ママチャリの前カゴに放り込まれてる通学鞄の中に入ってる弁当も毎朝自分で作ってる。 生活に必要ならば自転車を買い換えられるくらいの蓄えはしているが、そんなことのために貯金をはたく気にはなれなかった。

 高校が近づいてきた。もうすぐ予鈴が鳴る時間。周りに同じ制服を着た生徒たちが増えてくる。

 自転車、徒歩、高校前のバス停に向かう路線バス、このバスの定期代さえ節約しているが、特に何の目的があるわけでもない。

 

 最近になって自分には何も無いということを意識し始めた。

 身寄りも無く、人への関心が薄いため友達も居ない。高校を出た後の目標も無く、生活の中の楽しみといえるものは、せいぜい部屋でラジオを聴いたり、地図を見て空想の旅をするという安上がりな暇つぶしだけ。

 ブィーンという音と共に横をスクーターが走り抜けていった。坂の多い立地にある高校のため、原付での通学が認められている。

 小熊は走り去る原付を見ながら、あの子には原付というものがあると思った。何も無い自分との違い。今漕いでる自転車はただの生活道具。自分にとっての何かじゃない。何も無い暮らしを変えてはくれない。

 あの原付という物があれば何かが変わるのかな?と思った。

 

 特に何かを得られたという感触の無い授業が終わり、小熊は駐輪場に停めてある自分の自転車に乗った。

 自転車の駐輪場に隣接するバイク駐輪場には何台かの原付が停めてある。生徒数に対してそんなに多くは無い。

 南アルプスの麓に位置する北杜の町。夏は関東並みに暑く冬は積雪し路面が凍結する地では、原付はさほど便利な乗り物では無い。

 徒歩には遠い場所から通う生徒の多くはバスを使い、原付で通ってるのはバス路線から外れた中途半端な場所に住んでるか、好きでそうしてる人間だった。

 小熊はバイク駐輪場に並ぶ原付をしばらく眺めていた。

 今朝一台の原付に抜かれて以来、妙に原付というものが気になる。小熊の知識ではそれなりの値段のするものだということしかわからない。奨学金の蓄えでは届かぬ物。

 自転車に跨って駐輪場を出た小熊は、自分の暮すアパートのある日野春駅方面への下り坂とは逆方向、市街を離れ別荘地やゴルフ場のある上り坂方面へと自転車を漕ぎ出した。

 何か当てがあったわけでもない。ただ毎日学校帰りの体に苦行を強いる日野春駅方面の急坂より、こっちの緩い坂のほうが昇りやすそうに見えた。あるいは、こんな坂のことなど気にしなくてよくなる物があるかもしれない。

 川沿いに何kmか走った小熊は、一軒の建物の前で自転車を停めた。

 周囲と少々不似合いな青い鉄筋二階建て。ホンダの看板。以前小熊がちょっと自転車で走り回った時に見かけたバイク屋。

 南アルプスの山々が連なる間の渓谷に人が住み着いた北杜の町。どこに行くにも坂道を登らされる土地で自転車での散歩はとても不向きだということを知り、以後、自転車は通学と買い物にしか使わなくなった。

 いつもとは違う寄り道をした小熊は、中古バイク屋に並ぶバイクを端から眺め始めた。

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
スーパーカブ
[コミック版]スーパーカブ
漫画:蟹丹
原作:トネ・コーケン
キャラクター原案:博
カドコミ

関連情報

スーパーカブ
スーパーカブ
著:トネ・コーケン
イラスト:博
レーベル:角川スニーカー文庫
角川スニーカー文庫
 
 
 
 
 
慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~
  • 原作:土日 月
  • キャラクター原案:とよた瑣織
  • ©土日月・とよた瑣織/KADOKAWA/慎重勇者製作委員会

あらすじ

超ハードモードな世界の救済を担当することになった新米女神のリスタ。チート級ステータスを持つ勇者・竜宮院聖哉の召喚に成功したが、彼はありえないほど慎重で?
「鎧を三つ貰おう。着る用。スペア。そしてスペアが無くなった時のスペアだ」異常なまでのストック確保だけに留まらず、レベルMAXになるまで自室に引きこもり筋トレをし、スライム相手にも全力で挑むほど用心深かった!
そんな勇者と彼に振り回されまくる駄女神の異世界救済劇、はじまる!

キャラクター

  • 竜宮院聖哉(りゅうぐういんせいや)
    竜宮院聖哉(りゅうぐういんせいや)
    新米女神のリスタに召喚されたありえないほど慎重な勇者。能力値は高いが、異常に用心深い。
  • リスタルテ
    リスタルテ
    治癒の能力を持った新米の女神。難度Sの世界・ゲアブランデを救うべく聖哉を召喚したが、異常なほど慎重な性格にいつも振り回されている。

カクヨムエピソード1

 

この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる

土日 月

1.救世難度Sゲアブランデ

序章 女神の苦悩

「今回、救世難度Sクラスの世界『ゲアブランデ』の担当になった女神はリスタルテです!!」

 

 人間達の住む世界とは次元の異なる此処、統一神界の神殿内に割れんばかりの拍手喝采が巻き起こっている。逞しい男神達や麗しい女神達が拍手を送る先には――私がいた。

 

「やり甲斐のある仕事だな! 頑張れよ、リスタ!」

「すごいじゃないの、リスタ! これを乗り越えればアナタも一人前の女神よ!」

 

 先輩達に励まされ、私は引きつった笑いを顔に浮かべていた。

 

 ――難度Sクラス……嘘でしょ……?

 

 私、リスタことリスタルテは、およそ百年前、女神としてこの統一神界に誕生した。そしてこれまでに五回、地上から勇者を召喚しては困窮する世界を救ってきた。

 

 まぁ五回というのは他のベテランの神々達に比べると、かなり少ない数字である。彼、彼女達は平均で数十回、多い者だと数百回もの勇者召喚を行い、地上世界を救っているのだ。ちなみに難度Sとはそんなベテランの神でも尻込みするような恐ろしい世界である。その世界を統べようとする悪しき者には、この統一神界の神にも匹敵する力があると言われているからだ。

 

 神殿内に割り当てられた自室に戻った私はとりあえずいつものように、地球という惑星から比較的年齢の若い日本人に限定した候補者リストを取り寄せた。三度目の勇者召喚から私は必ず日本の若者を召喚することにしている。ちなみに最初の勇者召喚では火星人を召喚し、また二度目の召喚では南アフリカ奥地の原住民を召喚した。どちらもこのシステムを理解して貰うのに丸一ヶ月ほど掛かった。

 

 その点、日本では異世界転移や異世界転生が書物などで人気らしく、すぐにこちらの意図を理解してくれるので楽なのである。まぁ一時の熱気は薄れているとはいえ、日本ではまだまだ異世界ものはブームであり依然として市場を賑わせているのだ……って私は一体何を言ってるのかしら。随分と疲れているようね。

 

 疲弊するのも仕方ない。部屋に入ってからずっと一人、うず高く積まれた候補者リストに目を通しているのである。顔は脂ぎり、目の下にはクマが出来、その上、貧乏揺すりが止まらない。せっかく櫛で整えた自慢の金髪ロングも乱れに乱れてしまった。

 

 それでも、机の上にそびえ立つ書類の山から、女神の美貌を犠牲にしつつ、どうにかこうにか選り分けた二通の書面を眺める。

 

 まずは一通目。



 佐々木篤士ささき あつし

 Lv1

 HP101 MP0

 攻撃力55 防御力37 素早さ28 魔力0 成長度6

 耐性 無し

 特殊スキル 無し

 性格 普通



 ……見るからに戦士タイプ。魔力はないが攻撃力が高い。それに書類に記載されている殆どの候補者の初期HPが二桁なのに対して『101』の三桁だ。

 

 続けて二通目。



 鈴木夕子すずき ゆうこ

 Lv1

 HP65 MP47

 攻撃力18 防御力29 素早さ20 魔力72 成長度7

 耐性 水

 特殊スキル 火炎魔法(Lv1)

 性格 普通



 ……こちらは典型的な魔法使いタイプ。火炎魔法が最初から使え、加えて水の耐性があるのも好印象だ。

 

 さぁ、佐々木か鈴木か。鈴木か佐々木か。いっそのこと、どちらも連れて行ければ良いのだが、勇者召喚で呼び出せるのは一つの世界につき一人のみである。

 

 ああ、鈴木、佐々木、佐々木、鈴木、鈴木、佐々木……しかしどちらも似たような名前ね。何だかもうどっちでもよくなってきた……。

まずはマンガを読んでから!というあなたへ
慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~
[コミック版]この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる
原作:土日月
作画:こゆき
キャラクター原案:とよた 瑣織
カドコミ

関連情報

この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる
この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる
著:土日月
イラスト:とよた瑣織
レーベル:カドカワBOOKS
カドカワBOOKS
 

カクヨムとは?

様々な小説を「書ける、読める、伝えられる」、Web小説サイトです。
ファンタジー、SF、恋愛、ホラー、ミステリーなどのオリジナル小説から、二次創作作品、また角川文庫やファンタジア文庫、MF文庫JといったKADOKAWAの文芸小説、ライトノベルが全て無料で楽しめます!

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