慎重勇者 ~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~
土日 月
1.救世難度Sゲアブランデ
序章 女神の苦悩
「今回、救世難度Sクラスの世界『ゲアブランデ』の担当になった女神はリスタルテです!!」
人間達の住む世界とは次元の異なる此処、統一神界の神殿内に割れんばかりの拍手喝采が巻き起こっている。逞しい男神達や麗しい女神達が拍手を送る先には――私がいた。
「やり甲斐のある仕事だな! 頑張れよ、リスタ!」
「すごいじゃないの、リスタ! これを乗り越えればアナタも一人前の女神よ!」
先輩達に励まされ、私は引きつった笑いを顔に浮かべていた。
――難度Sクラス……嘘でしょ……?
私、リスタことリスタルテは、およそ百年前、女神としてこの統一神界に誕生した。そしてこれまでに五回、地上から勇者を召喚しては困窮する世界を救ってきた。
まぁ五回というのは他のベテランの神々達に比べると、かなり少ない数字である。彼、彼女達は平均で数十回、多い者だと数百回もの勇者召喚を行い、地上世界を救っているのだ。ちなみに難度Sとはそんなベテランの神でも尻込みするような恐ろしい世界である。その世界を統べようとする悪しき者には、この統一神界の神にも匹敵する力があると言われているからだ。
神殿内に割り当てられた自室に戻った私はとりあえずいつものように、地球という惑星から比較的年齢の若い日本人に限定した候補者リストを取り寄せた。三度目の勇者召喚から私は必ず日本の若者を召喚することにしている。ちなみに最初の勇者召喚では火星人を召喚し、また二度目の召喚では南アフリカ奥地の原住民を召喚した。どちらもこのシステムを理解して貰うのに丸一ヶ月ほど掛かった。
その点、日本では異世界転移や異世界転生が書物などで人気らしく、すぐにこちらの意図を理解してくれるので楽なのである。まぁ一時の熱気は薄れているとはいえ、日本ではまだまだ異世界ものはブームであり依然として市場を賑わせているのだ……って私は一体何を言ってるのかしら。随分と疲れているようね。
疲弊するのも仕方ない。部屋に入ってからずっと一人、うず高く積まれた候補者リストに目を通しているのである。顔は脂ぎり、目の下にはクマが出来、その上、貧乏揺すりが止まらない。せっかく櫛で整えた自慢の金髪ロングも乱れに乱れてしまった。
それでも、机の上にそびえ立つ書類の山から、女神の美貌を犠牲にしつつ、どうにかこうにか選り分けた二通の書面を眺める。
まずは一通目。
Lv1
HP101 MP0
攻撃力55 防御力37 素早さ28 魔力0 成長度6
耐性 無し
特殊スキル 無し
性格 普通
……見るからに戦士タイプ。魔力はないが攻撃力が高い。それに書類に記載されている殆どの候補者の初期HPが二桁なのに対して『101』の三桁だ。
続けて二通目。
Lv1
HP65 MP47
攻撃力18 防御力29 素早さ20 魔力72 成長度7
耐性 水
特殊スキル 火炎魔法(Lv1)
性格 普通
……こちらは典型的な魔法使いタイプ。火炎魔法が最初から使え、加えて水の耐性があるのも好印象だ。
さぁ、佐々木か鈴木か。鈴木か佐々木か。いっそのこと、どちらも連れて行ければ良いのだが、勇者召喚で呼び出せるのは一つの世界につき一人のみである。
ああ、鈴木、佐々木、佐々木、鈴木、鈴木、佐々木……しかしどちらも似たような名前ね。何だかもうどっちでもよくなってきた……。
選りすぐった筈の二通の書面を机に置いて、大きな溜め息を吐いた。
正直、難度DやCの今まで私が経験した世界ならば、佐々木でも鈴木でも問題はない。だが今回は難易度Sのゲアブランデ。ここは慎重にも慎重に選ばなければならない。
考えれば考える程、鈴木も佐々木も違うような気がしてきた。
――こ、こうなったら、もう一回、全てのリストを見直すか。見落としがあったかも知れないし……。
だが、そびえ立つ書類の山を前にして、不意に目眩がした。ドッと机に倒れ伏すと、積んであった書類が私の頭に向かって倒れてきた。
「ぎゃああああああああ!?」
女神らしくない声で叫んだ後、書類に埋もれる。
私は頭の上に被さる書類を憎々しげに手で振り払う。だが一枚のリストが私の髪の毛に張り付いたようになかなか取れない。
「何なのよ、もうっ!!」
苛立ち、剥ぎ取るように取ったその書類を眺め、
……そして私は目を疑った。
Lv1
HP385 MP197
攻撃力124 防御力111 素早さ105 魔力86 成長度188
耐性 火・氷・風・水・雷・土
特殊スキル 火炎魔法(Lv5) 獲得経験値増加(Lv2)
性格 ありえないくらい慎重
「……は?」
えっ、えっ、えっ。ちょっと何コレ。レベル1なのに何なの、このとんでもないスペックのステータスは。
過労による幻覚か。ストレスによる妄想か。目を擦り、穴が開くほど書面を見詰めたが、書かれた数値に変化はない。
――こ、こんなステータスの人間見たことない! 逸材! これは間違いなく逸材! それも百万人に一人……いや一億人に一人の逸材よ!
書面を握りしめ、部屋を飛び出すと、私は大女神イシスター様の元へと向かったのであった……。
申請を終えた後、勇者召喚の間に赴きながら、私の胸は躍っていた。
最初、難度Sのゲアブランデ担当になった時、不運すぎると自分の運命を呪った。だけど……だけど……初期状態からこんなハイスペックな勇者に巡り会えるなんて! 彼ならゲアブランデだってすぐに攻略出来る! そして私は大女神への階段をまた一歩上ることになる! ああ、何てツイてるのかしら、私!
大理石の通路をスキップするように歩く。
その時。私は『竜宮院聖哉』という物々しい名前の日本人のステータスにばかり目を奪われていた。そのせいで私はある項目を見落としていた。というか、見えてはいたのだが、大して気にはしていなかったのだ。
『性格――ありえないくらい慎重』
勇者召喚後、私はすぐにそのことを後悔することになる。
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