お盆休みもそろそろ終わりを迎えつつありますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか? 私はどこに出かけるということもなく、『RTA in Japan Summer 2025』をずっと自宅で見ておりました。どれだけ短い時間でゲームをクリアするかを競うRTA。自分がプレイしたことのあるゲームがとんでもないスピードで攻略される様子はとても楽しいのですが、イベント中には当然知らないゲームも出てきます。しかし、初めて見るゲームであってもプレイヤーや解説の人が言葉を尽くしてゲームの魅力を語ることで、やったことのないゲームでもその面白さは伝わってくるものです。
 自分もそんな風に作品の魅力を伝えていきたいと思いを新たにして、今回の新作特集「金のたまご」のレビューを書きました。青春小説から、ミステリー、SF、ホラーと、ジャンルはバラバラですが、どの作品も自信を持って面白いと断言できます。願わくばこれらの作品の魅力が少しでも皆様に伝わりますように。

ピックアップ

正反対な二人の少女が、魂剥き出しで世界にがなり立てる!

  • ★★★ Excellent!!!

 ちょっと剣呑なバイトをしている女子高生の六町らいかは、深夜に雨宿りで入ったライブハウスで遭遇したガールズバンド『ライカーズ』の曲に衝撃を受ける。しかも良く見ればそのボーカルの正体はクラスメイトの地味な少女、吠巻黒歌だった。

 タバコを吸えば酒も飲み、暴力の行使に躊躇がなく同性相手に真顔でセクハラをキメるらいかは大変キャラが立っているが、もう一人の主人公である黒歌もそれに引けを取らない。外見は地味で大人しく、内面には多くのコンプレックスを抱える黒歌だが、音楽の話題になると話は別。普通ならダサくなりそうな言葉も、赤裸々すぎる世間への本音も叩きつけるように吐き出す姿がカッコいい。

 この正反対な二人がライカーズを人気にするために様々な活動を始める様子が抜群に面白い。時には失敗し、対立しながらも、一歩ずつステップアップしていく姿はまさに青春!

 これだけでも十分に面白いのだが、物語は後半で意外過ぎる展開を見せて、全くの別ジャンルへと姿を変える。それなのに作品の雰囲気がブレないのは、物語を彩る登場人物たちの価値観が揺るぎなく確立しているから。キャラクターの魅力がそのまま作品の面白さに直結している勢い抜群な一作。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

様々なシチュエーションで綴られるAIの死の物語

  • ★★★ Excellent!!!

 ロボットの死とはどのタイミングで発生するのか?

 代替のないワンオフなものなら、その機体が破壊された場合には死んだと言っていいだろう。だが、そのロボットのAIがバックアップを取っていた場合は? 客観的には同じものが残るのであれば、本体が破壊されたとしても、それは「死」とは呼べないのではないか?

 SFファンなら誰しも考えたことのあるテーマだが、本作はメイドロボのホタルさんと、彼女の主人であるシュウジのやり取りを通じて、こうしたロボットやAI人格ならではの「死生観」を考察する短編集となっている。

 本作で面白いのは、ホタルさんとシュウジの関係性は変わらないが、それ以外の設定は各話ごとに微妙に異なっているところ。「ハードウェアに不備はなくともソフトウェアがリセットされたら?」「内部では稼働していても、外部からそれが確認できない場合は?」など毎話様々な形でAIの死を描かれていくのだが、その数はなんと25パターン! 非常に細かい形でAIの「死」が分類されている。

 SF好きは当然必見として、様々な形で描かれるホタルさんの死は、ホラーのような書かれ方をするものもあれば、時には人間賛歌というべき内容になっているものもあって、SFファン以外も楽しめるアイデアに満ちた短編集に仕上がっている。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

探偵役は事件前からすべてを知っている……!

  • ★★★ Excellent!!!

 探偵事務所を経営する夜加部ロウ。彼には人の「役割」を見ることのできる特殊な力があった。そんな彼と助手の日裏みみこは道に迷った末に、あるペンションを訪れる。すると、宿泊客の中に【被害者】と【犯人】の文字が浮かび上がっているのを発見してしまい……。

 一目で誰が犯人がわかるという破格の能力を持つ夜加部だが、決められた役割を覆すことはできないし、仕掛けられたトリックの内容まではわからない。決して万能な力ではないのだ。しかし、あらかじめ犯人がわかっていることを利用して、事件の発生前に解決への布石を打つという独自のスタイルは実にユニーク。

 会話文が多めでテンポよく進む推理パートは読みやすく、犯人が用意したアリバイを崩す手つきも実に鮮やかと、この時点でミステリーとしてよくできているのだが、本作はそこに「役割」を利用したギミックがさらに魅力を上乗せしていく。

 終盤で「役割」に関する意外な真実が次々に明かされ、物語は二転三転する。独自の設定をフル活用する稚気に富んだ内容でいながら、きっちりとどんでん返しも決めてくれる、特殊設定好きなミステリファン垂涎の一作。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

超凶悪! 因習村×サイコな恋人!

  • ★★★ Excellent!!!

 大学生の九条マコトは所属するオカルトサークルのメンバーとともに、島根県にある真理弥村を訪問する。その村では人身御供に関する言い伝えが残されており、さらに宿の女将からは教会の鐘が鳴ったら決して外には出ないようにと言い含められ……とホラージャンルで人気の因習村要素を踏まえた内容になっているが、本作ではそこにドロドロの人間関係を描いたサイコホラー要素が絡み合っているからより恐ろしい。

 この恐ろしさの中心に堂々と鎮座しているのがマコトの恋人である新田ヒナ。具体的な理由を言わないまま「ママになりたい」と言い続け、街で妊婦を見かけたら突き飛ばしたりもする超激ヤバ物件である。激ヤバなのでマコトへの執着も当然強い。それなのにサークルにはマコトの元許嫁である西洞院アイも所属しており、彼女は彼女でマコトに未練タラタラなのである。こんな環境、因習村とか関係なく絶対ヤバいことにしかならないって! 実際、時々フラッシュバックするマコトの回想では、明らかに××を処理している様子まで描かれているし……。

 因習村! サイコな彼女! 怪しい過去! と不穏な要素でゴテゴテにデコレーションされていながらも、ただ設定を盛っただけに終わらず、これらの要素が不気味に調和しており、一度読み始めたら最後、一気に読み続けること請け合いの怪しい雰囲気と勢いを持った作品だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)