ウェルウィッチアという植物をご存知でしょうか。アフリカのナミブ砂漠に分布する裸子植物で、生涯でたった二枚の葉しかつけず、雨の降らない過酷な環境で数メートルにもわたって成長し続ける。なかには数百年から二千年以上も生きている株もあるといいます。植物学でもそれ単体で一科一属一種に分類されている稀有な存在です。その奇妙な生態からつけられた和名は『奇想天外』。創作にとっても奇想天外な発想が重要です。もちろん、ただ奇抜なだけではいけません。あえて住心地のいい環境を離れ、誰もが避ける過酷な環境に挑戦する。そういう環境に自分をおいてこそ、他人には真似できないオリジナリティが磨かれると思うのです。今回の選ばせていただいた作品も、一風変わったテーマに挑戦した奇想天外な物語です。皆様、どうぞご照覧あれ。
伯爵家の三男坊アルフォンス・リュシオールは、6歳のときに自分が日本人であったことを思い出す。現代知識を使えば領地を発展させられると考えたアルフォンスは、手旗信号による世界初の通信事業を起こすことに。
アルフォンスが転生した世界では人間の死は身近な出来事だ。魔物や盗賊の襲撃、突然の怪我や急病、事故や災害。人々に危険が迫ったとき、いち早く通報できる通信システムがあれば、もっと多くの命が救えるという企業理念が尊いのです。
起業のために父親である伯爵当主を説得するプレゼン、詳細な事業計画書の作成、資金集めのためのスポンサー探し、従業員の社員教育、さらにクライアントとなる冒険者ギルドへの営業活動と、思いつきを形にして事業にこぎつけるまでの地道なプロセスが、まさにスタートアップのお手本なんですよ。
各所を走り回って、たくさんの人と交渉を繰り広げ、ついに異世界初の通信会社が誕生する。しかしアルフォンスの目標はまだ道半ば。果たして通信で人を救えるのか。起業で人々と出会い、絆を繋いでいく異世界通信ファンタジーです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
大戦が終結して十年後。レシプロ飛行機に乗って遠距離通学をする男子高校生・下地イスカは、学園一の美少女・天乃セキレイを飛行機事故から助ける。同じ街から学校に通う二人は彼女の飛行機が直るまでの間、一緒の飛行機で登下校することに。
レトロな飛行機に乗って、可愛い女の子と登下校する独特の世界観がエモいんですよ。
夜が明けたばかりの澄み切った朝の空を飛び立ち、放課後は夕焼けで一色に染まる世界を帰る。ときには曇り空なときも、風が強いときも、空の世界は自由で広大でありのままの姿を見せる。そんな空の世界を共有するのは主人公とヒロインの二人だけ。むちゃくちゃロマンチックじゃないですか。
言葉を交わすのは登下校だけ、学校ではただのクラスメイトという秘密の関係も大好物ですね。学校ではお淑やかなお嬢様として周囲の羨望を集めるセキレイですが、実はお転婆で飛行機や動物が大好きという、イスカにだけ見せる素顔が無邪気で身悶えます。
登下校を一緒にするだけじゃなく、休日にカフェや海水浴に行く間柄になっていって、それはもう付き合っているんじゃないですか!?
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
隕石の衝突によって出現した巨大生物『怪獣』の脅威と戦う激動の時代。怪獣との戦いで記憶を失った航空自衛隊の源王城は、怪獣特殊処理班への転属を命じられる。そこは怪獣のコアの処理を専門とする特殊部隊だった。怪獣の後始末を専門にする特殊作業員たちの物語です。
地球の生物をベースにコアが宿った存在が『怪獣』だ。怪獣が死んでも意識が宿るコアを浄化しなければ、再び怪獣は蘇る。王城たち怪獣特殊処理班は怪獣のコアを目指して怪獣の体内を突き進む。その光景は未知のダンジョンさながら。腐敗のはじまった肉体は可燃性のガスが溜まり、戦闘機や戦車の爆撃を受けた怪獣の肉体はいつ崩れてもおかしくない。そんな危険と隣り合わせの現場の状況が手に汗握ります。
怪獣のコアの浄化作業を進めるうちに、王城たちの前にコアを持つ人間『怪人』が現れる。暴れるだけの怪獣と違い、知性を持つ彼らは敵か味方か。なぜ怪獣は出現するようになったのか、コアとはいったいなんなのか、政府の上層部は何を隠しているのか。複雑怪奇な陰謀劇を描く壮大な怪獣SFです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
かつてダンスバトルの大会を総なめにし伝説を打ち立てた青年・砂川拓実。しかし31歳になった彼は、どこにでもいる冴えない会社員になっていた。21歳の鳥羽春親と海堂清史はかつて拓実に憧れプロのダンサーを目指す若者だった。偶然、拓実と出会った春親と清史は、彼をプロへの登竜門となるダンス大会のチームメンバーに誘う……。
大人になって一度は夢破れたおじさんサラリーマンが、再び夢と情熱を追い求める青春リブートストーリーです。
かつてはダンスバトルでは敵なしだった拓実ですが、ブラックな上司に理不尽に叩かれ、後輩からは面倒事を押し付けられ、すっかり自信を失ってしまった姿に胸が痛みます。
だけれど、そんな拓実を信じる春親と清史の若さが眩しいんですよ。二人にとっては今でも幼い頃に憧れたヒーローのままで、絶対に彼となら優勝できると信じているんです。
そんな純真な若者たちに期待されたら年長者としてカッコ悪いところ見せられないですよね。練習を重ねながら昔のカンを取り戻していく拓実の姿に応援したくなっちゃうんです。ダンスに年齢は関係ない。おじさんダンサーの意地を見せてくれ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)