池波正太郎の小説を原作とする人気時代劇『必殺仕事人シリーズ』は、弱者が晴らせぬ悪党への恨みを主人公たち仕事人たちが引き受け暗殺を遂行する世直しストーリーだ。仕事人が鍼医師なら針を急所に刺したり、組紐屋なら紐で首を吊ったりと、裏稼業のキャラクターがそれぞれの表の職業にちなんだ決め技を披露するのも見せ場の一つだ。そんな『必殺仕事人シリーズ』のように殺し屋、暗殺者というのは創作の世界において定番で人気の職業だ。そこで今回は殺し屋に関する作品を取り揃えてみました。殺し屋だからといって血も涙もない冷酷な人間ばかりではありません、殺し屋にも悩みがあったり、喜びがあったり、失敗したりもする、血の通った人間だからこそドラマが生まれるのです。そんな殺し屋の悲喜交交なお仕事ぶり、是非ご堪能ください。

ピックアップ

闇に潜んで悪を断つ! コミュ障ぼっちの異世界暗殺生活

  • ★★★ Excellent!!!

 異世界に転移したコミュ障の青年・シゲオが、凄腕の女暗殺者アネシアに拾われ、困難に立ち向かいながら生きることに真剣に向き合っていく姿が胸を打ちます。

 暗殺と言っても、政府お抱えの暗殺者であるアネシアが狙うのは表立って罪を裁けない悪徳貴族だけ。

 誰にも気づかれず屋敷に侵入し、警備をかいくぐり、標的の居場所を突き止め、確実な死を与え、痕跡を残さずに逃げる。ひとつひとつがミスの許されない命がけのアクションで張り詰めた緊張感が伝わってきます。

 しかし今まで一般人として生きてきたシゲオは、相手が悪党でも人殺しに手を染めることを躊躇ってしまう。仕事は成功したものの罪の意識に苛まれるシゲオをアネシアは、「お前は正しい行いをした。人々を救った」と慰める。

 それまでは他人と極力関わらず、将来の夢もやりたいこともなく、ただ惰性で生きてきたシゲオが、この世界で生きていくため、師匠の期待に応えるため覚悟を決めるシーンが印象的で、暗殺とは真逆の『生きる』という強いメッセージを感じさせるのがこの作品のすごいところなんですよ。

 暗殺者としても成長していくシゲオの異世界生活。次々と現れる強敵や英雄の暗殺を如何に成し遂げるか、乞うご期待。


(「殺し屋の憂鬱」4選/文=愛咲優詩)

世界最強暗殺チームの護衛対象は女子中学生!?

  • ★★★ Excellent!!!

 世界一の大国ジルベス合衆国が開発した最強の軍用パワードスーツ『U.N.I.T.』。そのユニットを用い国家の敵を密かに闇に葬る暗殺者集団クアッドの正体は、四人の少年少女だった。そんな彼らが中学生の少女ユアの護衛を命じられ、襲いくる刺客とバトルを繰り広げるSFアクションものです。

 ひねくれ者のリーダーのオウルを始め、それぞれに癖があって危険なところもあり、一筋縄ではいかないところにキャラクターの深みが感じられるんですよね。

 暗殺集団が護衛任務という場違いな命令に最初は戸惑っていた彼らでしたが、ユアは望むと望まざるに関わらず厄介な騒動を引き寄せてしまう。騒動を調べていくうちに社会を揺るがす大事件へと繋がっていく。

 改造人間にパワードスーツ、超音波破壊兵器、ナノマシン治療薬、プラズマカッター、そしてそれら全てを凌駕する一騎当千の究極の武装であるユニット。トンデモ科学なSF武器の数々が交錯するバトルシーンが迫力満点で盛り上がります。

 ごく普通の女子中学生と、絶対に普通じゃない最凶の暗殺チームの掛け合いも面白い。SF映画が好きな人に是非おすすめしたい作品です。


(「殺し屋の憂鬱」4選/文=愛咲優詩)

身体は少女、頭脳は殺し屋。暗躍で成り上がる異世界復讐劇

  • ★★★ Excellent!!!

 ある仕事で失敗した殺し屋が死の間際、異世界の少女の声を聞く。それは復讐の依頼だった。依頼を受け伯爵家の令嬢シオンとして転生した殺し屋は、彼女の復讐を果たすため伯爵家の乗っ取りを計画する。

 かつてのシオンは貴族の令嬢であるが妾の子として家族中から虐待されていた。復讐対象を家族と考えた主人公だが、年端もない少女の身体では力もないし、立場が低いシオンに味方をするのは、ドワーフという理由で迫害されているメイドのルーレンくらい。

 そこで当主の後継を巡って争う伯爵家の兄弟たちのライバル関係につけ込んだシオンは、対立を煽って互いを潰し合わせようとするのですが、伯爵家に宿る憎悪は、予想だにしない惨劇へと転がって……シオンは騒動の裏で糸を引く黒幕と暗殺者に気づいていくのです。

 シオンの水面下の駆け引きが興味深く、ほんの些細なきっかけで人間は狂気にはしる。人間の心の闇を色濃く描いた作品です。


(「殺し屋の憂鬱」4選/文=愛咲優詩)

口封じに監禁してみた。殺し屋おじさんと訳アリ家出JKの共同生活

  • ★★★ Excellent!!!

 ベテランの殺し屋フォックスは、とある仕事で不注意にも素人の女子高生・燈梨に殺しの現場を目撃されてしまう。とっさに拉致した彼女は訳アリな家出少女だった。口止め料代わりにアジトに匿うことにしたフォックスと燈梨の奇妙な共同生活が始まる。

 世間ずれしたおじさんと、イマドキの女子高生・燈梨の年の差コンビがいいですね。殺し屋なのにお人好しなフォックスと、荒んだ生活をしながらも純真さを捨ててない燈梨が、疑似家族のようになっていく共同生活が和みます。

 しかしフォックスの弟子の美女・舞韻は、尊敬する師匠の側に別の女が住み着くのが面白くなくて意地悪をしてしまいます。しかしフォックスに救われた女同士通じ合うものがあるのか、次第に世話好きの姉と手のかかる妹のようになっていく舞韻と燈梨の関係も可愛いんですよね。

 殺し屋としては一流でも、年頃の娘たちに振り回される世の中のお父さんのような中年男のやるせなさが身につまされます。

 共同生活を過ごすうちに燈梨が裏社会のいざこざに巻き込まれたり、フォックスが燈梨の家庭事情に首を突っ込んだり、奇妙な出会いからお互いの新しい人生を切り開いていくハートフルストーリーです。


(「殺し屋の憂鬱」4選/文=愛咲優詩)