皆さんは最近人を騙したことがありますか? 僕は昨日「原稿なら今日中に送るので安心してください!」と豪語して、現在その原稿を書いている真っ最中です。
そんなわけで今回は詐欺にまつわる作品特集。歌舞伎町の住人たちが異世界で詐欺よりも酷いことをする作品や、詐欺にあってばかりの男と少年の友情を描いた短編、詐欺に遭った老人たちが逆に騙し返そうとする異色のコンゲーム、社長が詐欺で捕まった探偵事務所の社員のエッセイ……現実で騙されるのは嫌ですが、小説の中で騙されるのは結構楽しいですよ。

ピックアップ

歌舞伎町の住人、異世界へ飛ぶ。

  • ★★★ Excellent!!!

異世界転生勧誘詐欺――それは甘い言葉で地球人を異世界へと勧誘し、うっかり同意した人々を劣悪な異世界で容赦なく使い潰す悪辣な詐欺。

主人公であるコモンくんもそうした勧誘に乗って異世界に向かうことになった一人。しかし、彼は他の転生者たちとは少し違った。一つは彼が詐欺だとわかっていながら異世界行きを了承したこと。もう一つは彼が倫理観の揮発したクソ野郎だったこと……!

地下格闘技のリングアナをやっていたコモンくんは異世界行きが決定すると、役に立ちそうな知り合いをスカウトしては容赦なく殺していく。殺さないと転生できないからね、仕方ないね。

かくして集まったのは、水商売のスカウト、ホスト、シーシャ屋の店員、殺人経験有りの前科者……そんなほぼ反社で構成されたチーム歌舞伎町は、異世界で現地民からカツアゲしたり、麻薬を広めて異世界転覆を目論んだり、他の転生者の彼女を寝取ったりとやりたい放題……!

倫理や道徳というブレーキを一切持たない、けれど女性には優しくて色々ハイスペックなコモンくんとその一行の活躍は、色んな意味で酷すぎて、人によっては好みが分かれるでしょうが、ハマる人にはドハマり間違いなし! 一味変わった異世界転生ものが読みたい人はご一読を!


(「騙し騙され詐欺の世界!」4選/文=柿崎憲)

年齢の離れた二人の友情の意外な結末は……。

  • ★★★ Excellent!!!

他人にノーと言えない性格が災いし、毎日のように訪問詐欺に悩まされるサラリーマン。そんなある日彼の家を訪れたのは詐欺師ではなく隣の部屋に住む少年。

わずか千円の報酬で主人公の部屋の用心棒をしてくれるという少年に、一瞬新手の詐欺を警戒する男。しかし少年は約束通り部屋を訪れる訪問販売員を追い返してくれた。この出来事をきっかけに交流を始める男と少年だったが、ある日男の携帯に少年が交通事故にあったという報せが届き……。

詐欺を扱っていることもあり後半の意外な展開が印象に残る作品ですが、そればかりではなく主人公と少年が友情を深めていく過程が実にいいんですよ! 短い会話を通じて、独身のサラリーマンと育児放棄された少年という年齢も立場も全然違う二人が友情を育む様子がしっかり書かれていて、これがラストに効いて来るんですよ。

短いながらもしっかりとサプライズが用意されていて、じんわりと胸に沁みる作品に仕上がっています。


(「騙し騙され詐欺の世界!」4選/文=柿崎憲)

目には目を、詐欺には詐欺を! 騙された老人たちの逆襲が始まる!

  • ★★★ Excellent!!!

投資詐欺に引っかかり、孫のために大事に貯めていた6000万円を騙し取られた孫井鹿子。家族を心配させてしまうのが嫌でなかなか警察にも行けない。この話を聞いた鹿子の友人たちは意外な提案をする。詐欺師を逆に詐欺にかけて奪われた6000万円を取り返そうというのだ!

詐欺や騙し合いといった頭脳戦を扱うジャンルを「コンゲーム」と呼ぶが、本作はそのコンゲームに老人が挑むかなり異色の作品。亀の甲より年の功とは言うが、詐欺にかけては素人な老人たち。どこかコミカルな騙し方を思いつくもあっさりバレて逆に騙されてしまう始末……。

この逆襲計画に巻き込まれた探偵の祖父江は、いざとなったら警察に行けばいいやと気楽に様子を見守っており、どこかコメディチックに物語は進んでいく。しかし読者よゆめゆめ忘れる勿れ、ミステリー小説の真髄は作者と読者の騙し合い。軽やかな筆致で進む物語に油断していると、思わぬ真相に騙されてしまうこと間違いなしだ!


(「騙し騙され詐欺の世界!」4選/文=柿崎憲)

詐欺事件に巻き込まれた探偵の運命や如何に!?

  • ★★★ Excellent!!!

探偵事務所に就職したけれど、推理小説で起こる事件などそう起きるはずもなく、日々所内の事務や雑用を担当していた筆者のゴオルド氏。しかし、そんな探偵事務所をある凶悪な犯罪が襲う! それはなんと詐欺事件…………で事務所の社長が捕まったのだ!

そう本作は探偵事務所で働いていたのに捜査する側ではなく捜査される側になってしまった人の体験談なのである!

突然来訪する刑事、いつの間にか姿を消す他の従業員、一切連絡が取れなくなる社長……これだけでも大変なのに、社長の冤罪の可能性を信じて事務所に残ってしまったゴオルド氏を待ち受けるのは、溜まりに溜まった仕事の後始末……!
 
置かれている状況はかなり深刻なはずなのですが、決して腐らずにそのことをコミカルに書いているのが大きな特徴。ゴオルド氏をこんな目に追い込んだ社長ですら、どこか愉快な人物として描かれます。

事件を通じて厄介ごとに次々巻き込まれていくゴオルド氏の体験談は読み物としても大変面白いのですが、それと同時にあなたが犯罪に巻き込まれた時のヒントになるかもしれません……。


(「騙し騙され詐欺の世界!」4選/文=柿崎憲)