今日はバレンタイン! 年に一度、チョコレートや甘いお菓子がたくさん食べられる、スイーツ好きからすれば夢のような日です。でもバレンタインって、甘いだけじゃなくて、苦い思い出やしょっぱい思い出なんかもありませんか? っていうか、むしろそっちの方が多いような気も……!?
人によって、バレンタインの思い出は様々。本日はそんなバレンタインにぴったりな、スイーツがたくさん登場する、けれど甘いだけじゃない小説を紹介したいと思います! お腹がへっちゃいますので、ぜひお手元にスイーツを用意して読んでみてくださいね!

ピックアップ

これぞ「エモ」!※猫は無事です

  • ★★★ Excellent!!!

遠い昔、確かに読んだはずなんだけども、断片的な記憶しか思い出せない。誰に聞いても知らないと言われて、結局何もわからず仕舞い……。そんな物語って、皆さんにもありませんか?

この小説に登場するトリト青年も、そんな記憶を持つ一人です。幼い頃に読んだ絵本の続きを知りたいがために、短編映画を制作し、絵本を知っている人を探し出そうとします。主人公ナナカさんは、そんなトリト青年の映画制作を手伝いますが、二人が本当に探しているものは、果たして……。

短編ながら、映画館に座って素敵な映像を見ているような、夢みたいなお話でした。そして、とってもお洒落! 群青色の夜空、旅をする少年と猫、菫ソースの魔法のクッキー、探し物をするトリト青年とナナカさん。ワードセンスもさることながら、一つ一つのシーンが美しく、激エモです。

甘くてふわふわ、キラキラした不思議な雰囲気の前半から、突然アクセルが入って、一気にラストまで連れて行ってくれる感覚も爽快でした。
ナナカさんに感じた前半の違和感が、後半で回収されていくのもスッキリです(なるほど、いろんな意味でSFだなと)。

キラキラ光る宝石を散りばめたような、素敵な文章でした。
もちろん、終始猫は無事ですので、猫好きの方も安心して読める小説ですよ!


(「甘いだけじゃない!? スイーツが登場する物語」4選/文=美雨音ハル)

チョコレートを準備してから読みましょう

  • ★★★ Excellent!!!

音楽や料理は、一度聞いてしまえば、食べてしまえば、跡形もなく消えてしまいます。形のないもので人の心を動かすこと。人の心に残り続けること。それはとっても難しいことですよね。

本作の主人公、音楽家の響子と、ショコラティエの匠も、自分たちが創る物は『跡形もなく一瞬で消えてしまうもの』として、一体そこにどういう価値があるのか、苦悩しています。

本作のテーマは、ある意味、小説や映画や舞台など、あらゆるものの創作者が共通して悩むことかもしれません。形ないもので人の心を揺さぶることの難しさを、私自身もよく感じております。クリエイターの命題ですね。特に音楽や料理は本当に一瞬のものであり再現芸術ですから、その一瞬にどれだけの価値を込められるのか、作り手はとてもプレッシャーを感じるのではないかと想像します。

とっても美味しそうなチョコレートの描写と、優しい音楽の描写が混じり合っていき、悩む二人を導くシーンが素敵でした。創作者として二人が出した答えに共感しつつも、美味しそうなチョコレートの描写にすっかりお腹がへってしまいました! 響子と匠のこれからの関係も気になる、バレンタインにぴったりな、いろんな意味で甘い小説です。


(「甘いだけじゃない!? スイーツが登場する物語」4選/文=美雨音ハル)

悩みがあるそこのあなた。魔法菓子で少し休憩しませんか?

  • ★★★ Excellent!!!

お人好しのパティシエ・蒼衣と陽気なオーナー・八代が営むお菓子屋さん『ピロート』。お店に並ぶのはケーキやシュークリーム、マドレーヌなど、とっても美味しそうで素敵なお菓子。でもただのお菓子ではありません。魔力の込められた特別な「魔法菓子」なんです。

日常の中に、ごく自然に魔法菓子が溶け込んでいる世界観がとても素敵でした。星座が浮かび上がるチョコケーキ「プラネタリウム」や、食べると鈴の音が鳴る「ベルサブレ」……美味しそうなだけでなく、見た目がとても楽しそうで、ぜひイラストや映像で見たいと思いました。私のお気に入りは、食べると体が浮く「ふわふわシュークリーム」です。

ピロートには様々な悩みを抱えたお客さんがやってきます。魔法菓子には、現実や人の心を変えるほどの力はありません。けれど蒼衣さんと彼の作る魔法菓子は、お客さんに様々な気づきやきっかけを与えてくれます。魔法菓子の力だけではなく、きっと優しい蒼衣さんの人柄が、お客さんの心を動かすのでしょう。私も悩みがいっぱいあるので、ぜひ魔法菓子を食べながら、蒼衣さんとお話ししてみたいなと思いました!


(「甘いだけじゃない!? スイーツが登場する物語」4選/文=美雨音ハル)