今回は、いつかやってみたいと思っていたレースもの特集です。小説の業界では、まだまだレースものというのはマイナーなジャンルに位置づけられがちです。しかし世界に目を向ければ、自転車やバイク、自動車、競馬、ボート、飛行機などなど、乗り物もルールもさまざまで、大人も子供も国境や人種の壁を越えて人々を熱狂させる巨大コンテンツでもあります。その人気の波は、いつか小説にも来るに違いないと密かに思っています。とくにSNS社会では、なにかのきっかけさえあれば簡単に人気に火がつきます。流行にとらわれることなく、新しい作品を書いたり、読んだり、オススメしたりしてみてください。新しい流行のきっかけを作るのは明日の皆さんかもしれません。

ピックアップ

燃えよドラゴン! 少年はライバルを友に飛躍する!

  • ★★★ Excellent!!!

 ドラゴンに騎乗してコースを駆ける『ドラゴンレーシング』が盛んな世界。祖父が遺した借金を返すため、騎手を目指して競竜学校へ入学した少年・紅蓮炎仁が、個性的なライバルたちとぶつかり合い成長していく光景がまさに青春で眩しかったです。

 炎仁が入った短期コースは強烈なスパルタ式で教師も生徒も普通ではなく、同級生はアマチュア大会の入賞者や、有名騎手の子息など、生粋のサラブレットばかり。

 未経験者の炎仁はビリケツからのスタートですが、退学をかけた崖っぷちのレースを乗り越えて次第に這い上がっていく姿に目を見張ります。

 さまざまなレース競技と違うのは、彼らが乗って走る竜は、一頭一頭が個性の違う生き物だということ。先頭での逃げ切りが得意な竜もいれば、後半からの追い上げが得意な竜、芝やダートが得意な竜もいる。騎手それぞれも乗り方、戦い方があり、戦略性が生まれるのが面白い。

 クラス対抗レースで対戦相手の攻略法をライバルたちと考えていくうちに、やがて友情や絆が芽生えていくライバル関係が微笑ましいです。

 最初は吹けば消えるような小さな種火が燃料を取り込み、熱く大きな炎に燃え上がる。炎仁とライバルたちの若いパワーに胸を熱くさせられる作品です。


(「最速への挑戦」4選/文=愛咲 優詩)

レースゲームは自分との戦い! ぼっちゲーマー世界へ挑む

  • ★★★ Excellent!!!

 最先端のゲーム技術で最高のリアリティを再現したシム・レーシングゲーム『Forza E』。実力がありながらもくすぶっていた青年・水原龍一が、プロとなり世界大会に挑戦するストーリーに夢があり、胸が躍りました。

 主人公の龍一はシャイな性格のぼっちゲーマー。一時はワールドレコードを打ち立てながらも、次々と後発プレイヤーに追い抜かれ、自己ベスト更新もままならず、過去の自分のタイムを追いかける不毛な日々を過ごす冴えない青年。

 そんな彼が幸運にも韓国のプロチームの目に止まり、世界大会への切符を手にする。

 それまではゲームが好きなだけでSNSやネット配信にも無関心だった龍一が、ファンに応援される喜びと、プロとしての使命感を得て、本気のスイッチが入りはじめる。ライバルたちとゲームを競う楽しさにあふれる姿が初々しくて、むず痒い。

 初めてのプロの舞台で緊張から出遅れてしまった龍一だが、ライバルたちは必ず追いついてくると確信し、龍一もその信頼に応えるために全力を尽くす。

 バトルシーンで描かれる駆け引きや真剣勝負の熱さも必見だが、なによりもトップゲーマーたちのフレンドシップ、スポーツマンシップが清廉で素晴らしい。eスポーツドリームがつまった一作です。


(「最速への挑戦」4選/文=愛咲 優詩)

ライバルは最高のパートナー! レーシングお嬢様たちの熱い青春

  • ★★★ Excellent!!!

 モーターメーカーの出資で運営される翔紅学園は、レーサーを目指す少女たちが全国から集まる中高一貫の女子校。高等部に進学した速水紅音と一ノ瀬千迅は競い合いながら高みを目指す。モータースポーツに青春をかける乙女たちの熱血スポ根学園ものです。

 優等生で努力家の速水紅音と、問題児で天才肌な一ノ瀬千迅は、性格は正反対ながらも中等部では一、二を争っていたライバル同士。

 二人ともうら若き乙女ながらも、高等部で初めて乗るレース仕様の暴れ馬「NFR250Ⅱ」の桁違いの馬力を体感して、恐れるどころか闘争心をかき立てられるレーサー魂が勇ましいです。

 常に切磋琢磨し合う二人が手を組み、二人一組で走るタッグレースで他校の自動二輪車部とのレースに挑む。

 クレバーな紅音の作戦と駆け引きと、ここぞという時に機転を発揮する千迅、お互いの長所短所を知り尽くした二人だからこそのコンビネーションが見物です。

 対戦相手のペアもさるものながら、追い上げには瞬時に反応してブロックし、スキを見せたかと思えばフェイントであったり、まるで格闘技のようなドッグファイトの攻防が熱い!

 モータースポーツというと男くさい世界と思われがちですが、これからの時代は女性レーサーにも注目したい。


(「最速への挑戦」4選/文=愛咲 優詩)