転生ものの中でも定番となっているのが乙女ゲーム世界の悪役令嬢転生! 定番だけあってカクヨム内でも個性豊かな悪役令嬢作品が多数見つかるのだが、本作はそんな人気ジャンルの中から、ちょっぴり変化球気味な悪役令嬢をチョイス! 踏み台主人公と一緒に転生した悪役令嬢や、兄妹仲良く転生した悪役令嬢(兄はTS)、あえて破滅フラグを立てようとする悪役令嬢に宇宙初の薩摩系(!?)悪役令嬢など、ひと癖もふた癖もある令嬢を取りそろえた。異世界に転生してもバイタリティ溢れる令嬢たちの活躍を是非楽しんでほしい。

ピックアップ

踏み台転生者と悪役令嬢が、バッドエンド回避の同盟を結ぶ!

  • ★★★ Excellent!!!

異世界の王国の第二王子スタンフォードへと転生した主人公。生まれ持った魔法の才能と前世の記憶を使い周囲から天才扱いされていた彼だが、ある日、彼と同じ転生者である悪役令嬢ポンデローザから衝撃の事実を聞かされる。この世界は乙女ゲームの世界であり、スタンフォードは主人公の踏み台ポジションであること。そしてこのままいけば二人とも死亡ルートまっしぐらなことを……!

最近流行りの踏み台転生者ものと悪役令嬢ものを組み合わせた本作品は、恋愛要素あり、バトルありと二つのジャンルの美味しいところが詰め込まれているが、ただ単純に足し算をしたわけではない。前世の頃からのヘタレな性格を引きずっているスタンフォードと、そんな彼を原作知識と明るい性格で引っ張っていくポンデローザ。この正反対な性格の二人の組み合わせが物語の魅力を何倍にも増しているのだ。

この世界で生き残るためにスタンフォードにこの乙女ゲームの主人公マーガレットを攻略させようとするポンデローザだが、今後この転生者二人の関係がどう変わっていくかも気になるところ。


(「いろんな悪役令嬢」4選/文=柿崎 憲)

兄妹仲良く乙女ゲーム世界に転生! 果たして二人の行き着く先は!?

  • ★★★ Excellent!!!

事故に遭って異世界に転生し貴族の屋敷で下女として働いていたフレール。ある日、彼女は屋敷のお嬢様であるスールと一緒に階段に落ちて男性だった前世の記憶を思い出す!

しかもこの事故で記憶を取り戻したのは、彼(?)だけではなかった。なんと一緒に階段から落ちたスールも一緒に彼の妹だった前世の記憶を取り戻したのだ! かくして乙女ゲームのヒロインと悪役令嬢という形で再会した兄と妹。悪役令嬢に転生した妹が破滅ルートに進まないようにゲームのイベントを避けようとするフレールだが、なぜか攻略キャラたちが向こうから寄ってきて……。

乙女ゲーム転生にTS要素と兄妹愛を混ぜ合わせた本作品。前世男だったこともあってか、たびたび型破りな行動を取るフレールは周囲から「面白い女」扱いされていき、次々にイケメンたちとフラグを立てていく……。という乙女ゲーム転生のお約束を踏まえつつも、妹がバッドエンドに進むのを阻止するのを行動指針にしていたり、妹に甘えられると手作りのおやつを作ってあげたりとヒロインに転生していてもしっかりお兄ちゃんしている姿が実に良い。TS好きにもお勧めしたい一品。


(「いろんな悪役令嬢」4選/文=柿崎 憲)

薩摩系令嬢が征く! 異色の国盗り物語!

  • ★★★ Excellent!!!

学園の卒業パーティーで突然婚約者の王子から断罪された公爵令嬢のクラリス。あわや彼女の命もここまでか……しかし、彼女はただの令嬢ではない。かつての戦乱で武勇を振るったチェスト公爵家の令嬢だったのだ! かくして彼女の行く先は血煙舞い生首が飛ぶ地獄絵図へと変貌していく。

婚約破棄から物語が始まるのは悪役令嬢もののお約束であるが、そこから一切の申し開きを行わず、武力100%で打開していく展開はなかなかお目にかかれない。そして、侍女のベレッタとの薩摩弁による力強いやりとりも本作の大きな魅力だ。

「侍女にごつ」(訳:侍女だから主人の功績を数えたりサポートするのは当然です)
「まっこてよか侍女にごつ」(訳:貴女は本当に良い侍女ですね)

全ての会話がこの調子である。ってか令嬢の口から「肝心(きもごころ)」なんて単語が出てくる小説初めて読んだよ……。こんな調子で国家から断罪された悪役令嬢が、逆に王家へと反逆していく痛快娯楽活劇。1話完結の短編なので物語が最初から最後までフルスロットルなのも大変嬉しい。


(「いろんな悪役令嬢」4選/文=柿崎 憲)

悪役令嬢になりきるのは意外に難しい!?

  • ★★★ Excellent!!!

体が弱く寝たきりの人生を過ごしていた主人公は女神に頼まれ、乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生することに。ちゃんと女神の言うとおり悪役令嬢っぽく振る舞おうとするのだが、本来ゲームでは死ぬはずだった母親にとっさに回復魔法をかけたことでイザベラの運命は大きく変わってしまい……。

ゲームのシナリオから逃れようとするのが悪役令嬢ものの定番だが、本作のイザベラは転生するチャンスをくれた女神に義理立てし、しっかり破滅フラグを立てようとする。なのに前世で身につけたゲーム知識が裏目に出てしまい、なんだか別のフラグばかりが次々と立つ。

さらに本来のメインヒロインの方もなぜかおかしな行動ばかりを取っており、物語はゲームとは全然違う展開に……。そんな状況に頭を悩ませたりはするけど、特に落ち込んだりはしないイザベラの明るい性格がそのまま本作の魅力になっている。

毎回悪役令嬢っぽく振る舞おうとしているのに、結果としていつもいい感じに収まってしまうコメディ要素が強めな楽しい作品だ。


(「いろんな悪役令嬢」4選/文=柿崎 憲)