4月になって新生活が始まった人も多そうですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか! おじさんは一気に暑くなったと思ったら、急に寒くなったりする気温の変化に耐えられません……社会どころか自然にも勝てない……。
なので今日も今日とてお家に引き籠って仕事をしているわけです……生活に何の変化もない……。せめて気持ちだけでもフレッシュにするための新作紹介。今回は新作ながらも全て完結済みの作品なので、作品は完結してから読みたいというタイプの方もぜひぜひよろしくお願いします!

ピックアップ

昨日の敵は今日の友!? 悪の組織は魔法少女を雇って逆襲する!

  • ★★★ Excellent!!!

異世界から世界を侵略しに来た悪の組織ネクローシスは、地球の魔法少女の活躍により撃退され、潜伏生活を送ることに。組織の幹部クリスタルナはこの状況を打開すべく、ある奇策を打ち立てる! 求人広告を出して魔法少女をこちら側で雇ってしまおうというのだ!

いやいやいや、いくらなんでもそれは無理だよ……。と思ったら魔法少女が一人やってきた! しかもその少女はかつてネクローシスを壊滅寸前に追い込んだ最強の魔法少女、エルシャインだった!

いかにもコミカルなタイトルと冒頭だが、その内容は意外にもシリアス。魔法少女の力のせいで19歳になっても子供の姿のままで周囲から奇異の目で見られるエルシャインを始め、魔法少女たちは皆それぞれが悩みを抱えている。一方でネクローシス側もどうしてもこの世界を侵略しなければならない理由があった。それぞれ事情を抱え当初は利害関係で手を組んだ彼女たちが徐々に心を通わせていく展開が実に良い。魔法少女ならではのバトルに加えて、百合要素もたっぷり含んだガール・ミーツ・ガールな青春ファンタジーだ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

人と人に非ざる者のすれ違いを描く悲しき恋物語

  • ★★★ Excellent!!!

自分の腕前に嫌気がさした旅芸人のミオ。引き留める同僚の声を無視して、逃げ出した森の中で彼女は仙人の析易と出会う。芸人と仙人という全くの身分違いの二人であるが、胡琴を伴奏すれば音は見事に重なりあい、析易に連れ出された先で見る鮮やかな光景にミオはすっかり心を奪われる。世俗と離れ平穏な生活を送る二人だが、その生活はある出来事をきっかけに壊れ始め……。

中華風の世界が舞台なのだが、物語全体の雰囲気が非常に良い。森の中で偶然耳にした析易の演奏にミオが思わず伴奏するという出会いも良いし、誰といても劣等感を感じて孤立してしまうミオと山奥でひとり他人と交わらずに暮らす析易が互いの孤独を埋め合わせようとする様子を巧みな文章で見事に描写されている。だからこそ終わりが非常に切ないのだ。析易が抱え込むコンプレックスをミオは全く気にしなかったのに、そのことに析易が最後まで気がつけないというのが何とも悲しい。

シンプルで短い内容の中に、人間とそうでない者のすれ違いを描いた美しい短編だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

アリはキリギリスに憧れる

  • ★★★ Excellent!!!

人類が進化し、給液管を通した栄養液だけで食事を済ませられる時代。主人公はかつての恋人に会うためにとある人々に出会いに行く。『彼ら』はこの時代においても自分の口で料理を咀嚼しアルコールを楽しむ、いわば……野蛮人とでも言うべき存在であった。

SF的設定を膨らませるのが非常に上手く、普通の食事をしないということで変わるのは食文化だけではない。食事をしないことで退化した口では発声ができず、代わりに身体に埋め込んだチップを使って発声する。どのような声にするかは本人が自分で選択できる。それ以外でも口が退化したことで新人類には外見などにも様々な変化が起きている。

だからこそ新人類の目には、口を使って会話し、時間をかけて食事をたっぷり楽しみ、時には大きく口を開けて笑うという『彼ら』の存在が異常な光景に映るのだ。

この口の違いという設定を掘り下げて、物語のラストでは主人公にこの作品でしかありえないような行動を取らせる。こうしてSF的な設定をフル活用しつつも、恋人との価値観の違いといういつの時代にも普遍性のあるテーマを描ききっているのだから実に見事な短編だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

再び手にしたはずの日常は四姉妹とのトラブル続き!?

  • ★★★ Excellent!!!

異世界で勇者として活躍し魔王を討伐した八雲勇治は、無事元の世界に帰還する。時間は転移した瞬間から少しも経っておらず外見も当時のまま。それでいて異世界で得た力は据え置きなのだから大変ありがたい。かくして隣に住んでいる家族同然の四姉妹との日常を満喫しようとしたのだが、実は彼女たちはそれぞれある秘密を抱えており……。

異世界帰りの最強主人公と四姉妹による、ラブコメあり、謎の組織とのバトルあり、ラッキースケベあり……そんな楽しい要素がいっぱいに詰め込まれた作品。四姉妹が隠している秘密もいかにも普段のイメージ通りのものから普段の生活とは非常にギャップのある秘密もあってバリエーション豊か。

敵との戦いでも異世界帰りの主人公が勇者としての様々なスキルやアイテムを持ち出して、ストレスフリーでさくさく進んでいくのも楽しく、四姉妹それぞれとイチャイチャしながら話がテンポよく進み、ノンストップで読み進められる。ラブコメ好きや最強主人公が好きなタイプの人には是非オススメの一作だ!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)