まずは今回の「カクヨム新テーマ発掘委員会」企画への多くのご参加ありがとうございます! たくさんの作品が集まり、企画を盛り上げることができました。重ねて御礼を申し上げます。昨今、音楽シーンは諸事情によってライブから動画配信サイトへと移り変わり、人気アイドルや大物歌手を押さえて、若い新人が投稿したミュージックビデオがヒットチャート入りし時代が移り変わっています。小説もまた電子書籍で読む消費者が増加しており、小説も音楽と同じように投稿サイトからヒット作が生まれると確信しています。これからも皆さんの投稿を楽しみに待っています。
DTMが趣味の青年・荒上原が、異世界に召喚されて大魔王イアレウスを讃える国歌を作れと命じられた! 期日は次の新月まで。満足のいく曲を完成させなければ死刑! 命を賭けてラスボスのための戦闘曲作りに挑む異世界音楽ファンタジー。
RPGのラスボスの戦闘BGMといえば暗く、重く、そして荘厳で最終決戦を最高潮に盛り上げる名曲揃い。
そんなカッコいい戦闘曲を作れと命じられたものの、肝心の作曲するための機材がない。楽器はあれども弾き手がいない!
仕方なしにモンスターたちを指導してオーケストラを築いていく荒上原の苦悩ぶりが可笑しいです。
最初は冷酷非道で恐ろしげに思えていた大魔王が意外と部下に甘かったり、強面なモンスターたちもノリがよかったりと、コミカルな悪役キャラと、テンポの良さが読みやすいです。
果たして大魔王の望み通りの国歌は完成するのか。最後までこの勢いで書き切ってほしい。
(音楽を題材にした作品特集/文=愛咲 優詩)
【レビュー】
緊急事態宣言で全国のカラオケ店が自主休業になった! 大好きなカラオケができず意気消沈する主人公が出会ったカラオケアプリ、『音楽世界』によって生まれるカラオケ交流が心温まります。
自宅に居ながらカラオケを楽しめ、自分の歌声を投稿できる『音楽世界』のユーザーは、原曲の完コピを目指す人、オリジナルに歌う人、上手い人もいれば下手な人もいるが、皆それぞれ違って個性がある。名前も住所も年齢も知らない人々がカラオケで繋がり合い、音楽を愛する気持ちが伝わってきます。
主人公も音楽世界で出会った友人とデュエットして楽しんだり、フォロワーが増えて喜んだり、コメントをもらって舞い上がったり、ときには心のない誹謗中傷に傷つけられたりもするが、優しい人々に励まされて立ち直っていく。そんなSNS上の人間関係の悲喜交交が愛おしい。
いま全国でライブやイベントの中止が相次ぎ、我慢を強いられている人も多いと思います。しかし皆さんは一人ではありません、辛いときにはここに音楽を愛する仲間、小説を愛する仲間がいることを思い出してみて下さい。
(音楽を題材にした作品特集/文=愛咲 優詩)
音響会社でバイトすることになったバンドマンの大学生・孝志は、音響の大ベテランの社長に、どうすれば上手くなるのかと問いかける。
音響として多くのバンドを見てきた社長はこう答える。「上手く歌う必要があるのか?」と。
ヴォーカルは言葉で直接表現できる楽器。一番大事なことはカッコつけた歌い方ではなく歌詞を伝えること。ヴォーカルが聴き手にメッセージを伝えられなかったら音楽は完成しないのだと説きます。
この言葉はすべての創作活動に通じる心構えだと深く感銘を受けました。
小説でもカッコいい物語、カッコいい主人公を書く技術ばかりに注力して、作品にどんなメッセージを込めるか、どうやって読者の心に届けるか、言葉から想いが抜けてしまっては読者の心に響く感動は生まれません。
カッコつけてバンドをやって女の子にモテるイケメンよりも、この作品の主人公のように女にフラれても自分の音楽を追求していく姿に憧れます。
音響は裏方だが、音響がいなければライブはできない。誇りをもって音響をやる社長の信念に自分もそうありたいと思わされました。
(音楽を題材にした作品特集/文=愛咲 優詩)
電子音楽部に所属する男子高校生のツナは、ある日、友人のタクが自宅の部屋で変死体となって発見されたという知らせを聞かされる。外傷がないにも関わらず内臓が破裂するという不可解な死因に疑問を抱いたツナは、死の真相を探るうちに一曲の音にたどり着く……。
ボカロやDTMという電子音楽に着目しつつ、「音楽で人は殺せるか」をテーマにミステリーを描いた異色の作品です。
ツナは被害者が死の直前に音楽を聞いていたことを手掛かりに、音による呪術や言霊、超常現象はありえるのかと女子高生巫女をブレーンに捜査をはじめる。
曲を機材にかけて分析してみると、そこにはツナにも馴染み深いボーカロイドを悪用した仕掛けが隠されていてと、オカルトとデジタルの融合した殺人トリックに慄きます。
ツナの周辺で同様の事件が立て続けに発生し、危険な曲をバラ撒く黒幕の正体に迫っていく緊張感がハラハラドキドキさせます。
音楽は人を魅了する素晴らしい文化である一方、人を狂わせる危険な魔力も持っている。音楽との付き合い方を考えさせられる一作です。
(音楽を題材にした作品特集/文=愛咲 優詩)