おじさんになってそこそこ経ちますが、思えば年齢的にお兄さんだった頃からずっと老けていると言われてきました。そしてその後「老け顔のヤツは歳取ると若く見えるよー」と慰められても。
でもですね、若く見えるはずの歳に達して、実際歳より若く見られるようになって、気づくのですよ。“ほんとは若いおじさん”から“年齢不詳のおじさん”にシフトしただけだという衝撃に事実に!
そうです。結局わたくし、おじさんのカテゴリーから抜け出せてなかったのです!
目下の悩みは、いかにやんわりとおじいさんカテゴリーへ軟着陸するかだったりしますがもちろん、正解は見えていません……というわけで、新作レビュー行ってみましょう。

ピックアップ

とある喫煙所、煙草で繋がれる人の縁

  • ★★★ Excellent!!!

町に点在する“喫煙所”。そこで演じられるささやかな人間模様を描いた短編集。

と、これだけの説明で収まってしまうこちらの作品、まず感じていただきたいのは「喫煙所」そのものです。喫煙者だからこそ喫煙所に集まることは必然なのですが、そうであるからこそ余計な説明を加える必要がなく、読者をストーリーへ引き込めます。舞台そのものを物語の“起”として機能させる構成は、短編作においてひとつの最適解ですよねぇ。さらに言えば、喫煙者という共通点をもってごく自然にキャラクター同士の距離感を縮めていく著者さんの技法もすばらしい。

そうそう、登場するキャラクターさん方にもまた味があるんですよ。別に尖っているわけじゃないけど、どこか斜に構えている感じで。彼らのまっすぐならぬ言動はユーモラスで少し寂しくもあって。煙草がもたらす間(ま)と相まって、小説の重大要素である「作品のにおい(雰囲気)」としてよく効いているのです。

さくっといい話が読みたい方、人間ドラマをお求めの方、そしてもちろん、喫煙家の方にもおすすめいたしますー。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

すべてを止めたものは、死者からのメッセージ

  • ★★★ Excellent!!!

全国高等学校サッカー選手権大会の県予選第1回戦を翌日に控えた桜聖高校サッカー部。レギュラーメンバーのひとりである草薙悠はうまく眠ることができずにいたのだが――そのスマホへメッセージが届く。『わたしを殺したのは誰ですか?』。2ヶ月前に投身自殺した部のマネージャー、西野藍からのクエスチョンが。

藍さんからのメッセージを受け取ったのは、悠くん始め松宮涼真くん、仙崎啓次くん、秋山翼くんの計4人。彼らは協力して真相の解明にあたるのですが……解明が進むにつれ思いがけない事実が露わとなって、誰かが追い詰められていく。ただ緊迫感があるというだけじゃなく、それを4人の会話劇と回想の中で押し引きさせ、悪寒を“じわじわ”募らせてしまう構成に目を惹きつけられずにいられませんでした! そして、このじわじわ感あればこそのオチの爆発力! それはもう極悪な後味を食らわせてくれるのですよ。

物語としてのおもしろさは保証付き。ですので安心して衝撃のエンディングに打ちのめされてくださいまし!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

引き際とは迷うものならず、間違ってはならぬもの

  • ★★★ Excellent!!!

刀工として生き、後継者に恵まれぬまま老いた青野仁。彼は跡継ぎとなることを拒んだ息子から指摘されるまでもなく、自らの衰えを自覚していた。かくて闇雲に焦る中、先祖であり、同じ刀工である初代青野仁の日記を手に取る。引き際に迷ったとき開けと先代から渡された代物を――

仁さんがいる状況はのっぴきならないものです。彼が刀工を辞めるということは、初代から継がれてきた技を棄てることに他ならないからです。キャラクターへの個性のつけかたは種々ありますが、このような「状況」という必然性を、外連味なく練り込んでみせる筆はお見事と言うよりありませんね。唸らせられました。

そして初代というキャラクターですよ。とある依頼主のために打った刀を軸に、初代と依頼主が交わす厚い心情! 情通えばこそ紡がれる切ないセリフの数々! その末に後継へ思いを託した初代の念……ひしと伝わってくるのです。

けして派手ではないけれど限りなく滋味深い、道の果てに立った男の物語。ぜひご一読いただけましたら。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

掘り下げて浮き彫るものは、壊れた“私”

  • ★★★ Excellent!!!

ハラスメントを受け続けた末に上司の殺害を試み、失敗した後には自殺しようとしてこちらも失敗した市役所員が綴る吐露。

……と、つかみはインパクト十二分なのですが。目を惹かれたのは、事件の回想が徐々に著者さんの内側を掘り下げていく内容になることです。そもそも彼女はどのような人物なのか? どのように育ち、どのような思考を持つようになったのか? そしてなぜ、彼女はハサミを掴んで上司へ向かうことになるのか?

著者さんはご自身が経てきた過去を語り、ご自身と他者とを分析、考察します。徹底的に自分目線で、攻撃的にです。おもしろいのは客観ならぬ主観に徹することで、逆に著者さんや周囲の人々の人物像が浮き彫りになることですね。それによって、人間の内にある淵のおそろしい深さを垣間見せることにもなるわけで。

だからこそです。彼らが舞台に配置された果てに事が起こってしまったのだという“宿命”を感じずにいられなくなるのです。

ひとりの女性の過去と思いとが詰まったドキュメンタリーは極上。謹んで推させていただきます。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)