なかなか活気づくことの難しい春ですが、せめてウェブの上では威勢よく賑わいましょうー。
などと前置いておきまして。今回は「みなさまに出遭っていただきたい作品」――特にメッセージ性が強く打ち出された4作を選ばせていただきました。
強いメッセージには当然のことながら“強い印象”が備わるもの。それが読者の心へ突き刺さり、ぐぐいと惹きつけるのです。書き手の方はぜひ心がけてくださいまし……と、言うは易し行うは難しなのですが、大事なことなのでひとつ!
それでは勢いに乗りまして、レビューへ参ります!

ピックアップ

誰ともちがう“好き”の行方と、彼が選んだ行き先

  • ★★★ Excellent!!!

高校生である斎賀友樹は、女児と交流していたところを他者に発見される。それを病気と断じられた彼は深い迷いの中、同じように「本来満たされてはならない“好き”なもの」を抱えた人々の元へ導かれるのだった。

セクシャル等々の“マイノリティ”をテーマに据えたお話です。難しい題材をまっすぐ書ききった筆と志はもちろんですけど特に、ここで描かれた「自分と向き合う」ことの深度の凄絶さにご注目いただきたく!

人間って、自分の穢れからは目を逸らして生きていくものです。でもマイノリティである彼らは、自分の“好き”が他者にとって穢れであることを知っています。だからこそ、同じものを抱えた人と寄り添わずにいられませんし、向き合わずにいられないんですよ。

そしてその中で、友樹くんは寄り添って向き合うことの意味と、そこから踏み出すべき先があることに気づくんです。実はこのお話、変化球に見えてなによりまっすぐな青春ものなんですよね。

日常に迷っている方も迷っておられた方も、ぜひご一読を。

(「聞こえますか、このメッセージ」4選/文=髙橋 剛)

レスラーたちが心で綴る、極上のエンターテイメント!

  • ★★★ Excellent!!!

6メートル四方のリングの上、男たちが鍛え上げた体とプロのプライドとをぶつけ合う、最強にして最狂たるエンターテイメント――プロレスリング! これは陳腐なショーを最高のドラマへ仕立て上げる、タフでクールなレスラーたちのオムニバスストーリー。

というわけですが、ひと言で表わせば「深い」。

レスラーはショーマンです。ショーを全うするため、彼らは存在しない個性やギミック、関係性を演じます。試合をしょっぱい喧嘩で終わらせるも、ひりつく死合や因縁の立ち合い、コミカルな修羅場へ転じてみせるも、すべては彼ら次第なんです。

このお話では、そんな彼らの演技裏に隠された本心が描き出されているわけですよ。裏腹なんですよね、行動と思考は。でもプロだから行動を全うするんです。そういう人間描写がほんとにもう、深いんですよねぇ。
また、試合実況が試合の様相を示す構成も、物語を心情劇一辺倒にせず、メリハリをつけていてお見事です。

アメプロファンだけじゃなく、人間ドラマ好きな方にも強くオススメ!

(「聞こえますか、このメッセージ」4選/文=髙橋 剛)

その男、客観的に“不屈”! でも国際恋愛は実に難しい!

  • ★★★ Excellent!!!

40代未婚男性。今やそうめずらしい存在でもないひとりの男が、現在勉強中の資格がベトナムでも使えるものだと知り、それをきっかけに文通サイトへ登録。20代のベトナム人女性“トゥイ”と出逢う――

あらすじで紹介した通りの男性である著者さんが、ネットを介した遠距離恋愛へ臨むお話。
うん、それは問題起きますよ。同じ国の同年代の男女だってめんどくさいことたくさんあるのに、著者さんとトゥイさんはさらに歳がちがって、なにより国っていう環境がちがう! いろいろ引っかかったりうまく行かないことが山ほどあります。しかもそこに言葉の壁ならぬ“翻訳の壁”が加わって……

おもしろいのは、著者さんがそういう問題を主観の感情じゃなく、客観的な目で解説したり考察したりされているところです。感情に巻かれていたはずのリアルタイムでもそういう“目”――人間力があったからこそ、恋愛を壊さなかった今があるんだなぁと。

国際恋愛というテーマに心惹かれた方、迷わずご一読を!

(「聞こえますか、このメッセージ」4選/文=髙橋 剛)

志したその先を描く“声優志願者”の奮戦記

  • ★★★ Excellent!!!

声優を志す著者さんによる、現在進行形の今を描くエッセイです。

著者さんが通ってこられた道のりは、まさに「アイドル声優」というワードが生まれたときから在り続ける業界裾野のリアルです。

まさに赤裸々な自伝ですけど、ここまでご自身と向き合って文章化する潔いまでの強さが、辛(つら)くて辛(から)い道のりにたまらないドラマ性を醸し出して、読む側からすると引き込まれるんですよ。

自伝というものは、どうしても偏ってしまうものです。だって全部の表現が視点主(著者)の価値観で構成されますからね。それもまた魅力ではあるのですが――こちらは事象をきちんと描いた上で心情を添える形になっているので、まさにそこで起きたことがそのままに感じ取れるのですよね。この構成方法、エッセイ書かれる方は参考になるかと思います。

今現在、新しい活動も開始している著者さんが一歩一歩辿り、進んできた半生の記録。ネタはもちろん、読み応えも最高ですよ!

(「聞こえますか、このメッセージ」4選/文=髙橋 剛)