唐突に寒くなってきましたねぇ。みなさまお体のご調子いかがでしょうか? 私はちょっと調子悪いです。
 今月はみなさまにぜひ出逢っていただきたい作品の中から――カクヨムロイヤルティプログラムで表示されてる広告にも脇目振りつつ(時にぽちりつつ)――特に人間(キャラ)力高いぜーって4作を選ばせていただきました!
 物語を動かすものは登場人物! 登場人物が魅せてくれるものはドラマ! これは題材がなんであれ、そしてお話の大小問わずの真理ですからね。定期的にクローズアップしていきたいなと思ってる次第なのですよ。
 というわけで、人間ドラマ行ってみましょう!

ピックアップ

女子にモテたくて男装始めました! でも素敵男子が集まってきます!

  • ★★★ Excellent!!!

自他ともに認めざるを得ないほどの美少女だった朝比奈千秋は、あるとき思う。このまま男にモテ続ける女であり続けるのはつまらなくないかと。大学へ進学した彼女はさらに人生を謳歌すべく男装し、男として過ごすことにするのだが……

他人という触媒によって自分の有り様を変える。それが人間関係ってやつですが、この千秋さんは男子じゃなく女子にモテようと決めたことで自分を男子に変えた人です。それだけでも十分ドラマチックなんですけど、ドラマはここで終わりません。そう、彼女の前に出現する素敵男子たちのせいで。

なにせ千秋さんは男装してるだけで心はノーマルな女子。それはもう葛藤します。隙を突かれてドギマギします。思いがけずトキメキます。もちろん物理的トラブルだって満載です。そんな奔流に巻かれて翻弄される千秋さん、はっきり言いますけどすごくかわいいんですよねぇ。

隙ありな元美少女にドラマチックが集中する逆ハーレム・ラブロマンス、女子だけじゃなく男子にもお勧めです。

(「魅せる人間ドラマ!」4選/文=髙橋 剛)

謎は主人公を照らすために! 風情ある小さなお話!

  • ★★★ Excellent!!!

好奇心が強い――そのせいで人が目に留めないようなことを気にし、そこに隠された謎を解明してしまうという癖を持つ大学生・添木雛太郎。彼はある朝自室で目覚めたが、そのとなりには見知らぬ女性が眠っていて混乱する。そして目覚めた彼女に問われるのだ。自分の名前を当ててみろと。

この作品は日常の謎もので。事件自体はごく小さなもの。でも、それはメインじゃないんです。なぜなら雛太郎さんという人を描き出すためのスポットライトだから!

しつこかったり情けなかったりお気楽だったりっていう雛太郎さんの姿が、解かれるべき謎によって浮き上がる。1エピソードを読み終えてみて思うのは、謎が解けて「そうだったのか!」じゃなく、「この人○○だなー」です。魅力的とは言い難いのに、妙に気になる風情があるんですよね雛太郎さん。

せっかくのミステリーですし、あえて種明かしはしないでおきますが……そんな人だからこそタイトルもこれなんだと、意外な形で気づけるのも注目ポイントですよ!

(「魅せる人間ドラマ!」4選/文=髙橋 剛)

陰陽と占いとNAISEIと! 三つ巴が織り成す平安の変!

  • ★★★ Excellent!!!

時は平安。安倍晴明の血を引く、ストレスに少々弱めな陰陽師である安倍播磨守靖晶は、出逢う少女占い師の藻(みくず)や彼を気軽に呼び出す五位の尼御前・預流に振り回され、呪詛やら恋やらがいっぱいの大騒ぎに巻き込まれていく!

平安もの、しかも陰陽師ものといえばムーディーでダークな物語が王道なわけですが、このお話はちがいます。時代性をしっかり押し出しているにも関わらず、地の文ばかりかセリフにまで英語を散りばめたライトタッチで、まさに軽妙洒脱。

それがまた読みやすさを生むに留まらず、キャラクターを浮き彫ってるんです! 登場人物それぞれ、いろいろ大変な状況の中にあるんですが、悲壮感いっさいなくて、そんなものに押し潰されてやるもんかって力強さに満ち満ちてて。展開する会話劇の中に織り込まれた彼らの生き様は本当に魅力的です。

掟破りは下手を打てば野暮に堕ちますが、全力で破り切ってるからこその粋がある。だからこそ時代物は苦手って人にぜひオススメさせていただきます!

(「魅せる人間ドラマ!」4選/文=髙橋 剛)

喫煙歴と禁煙歴、それぞれ10年を経た男が煙草について語る

  • ★★★ Excellent!!!

10年の喫煙生活を経て10年の禁煙生活を送っている著者さんが、吸っていた過去と吸わなくなった今とを語るエッセイです。

禁煙化の進みゆく日本ですが、その中で吸っていた人が吸わなくなってからのことを語ってくださっているのがおもしろいところです。

テーマが煙草だけに、内容としては耳障りのいい話ばかりじゃありません。でも、こんなふうに冷静な目で煙草というものを説ける人は少ないものですし、しかもご自身というネタ元を通していればこその説得力があるんですよね。著者さんが積んでこられた10+10の20年そのものが、ひとつのドラマとして、さらにはひとつのドキュメンタリーとして成立しているわけです。

「なぜ煙草を吸うのか?」、「煙草がなにをもたらすのか?」、そして「煙草を辞めたことでなにがもたらされたのか?」を綴る一連の体験談、読み物としても、煙草を巡るひとつの考察としても、一読の価値ありありですよ。

(「魅せる人間ドラマ!」4選/文=髙橋 剛)