毎度おなじみ、カクヨム内の新作をピックアップして紹介する「カクヨム金のたまご」でございます。この企画が始まった当初は、「そんなに毎回面白い新作が見つかるとは限らないのでは……」などと内心思っていたわけですが、今のところ紹介したい作品が多くて迷ったことはあっても、紹介したい作品がないという方向で悩んだことは一度もなく、己の不明を恥じるばかりです。というわけで、今回も多くの作品の中から悩みつつも特にこれを推したいという作品を選ばせていただきました。どうぞご覧ください。

ピックアップ

たった三文字で日常が壊れていく……

  • ★★★ Excellent!!!

大学生の大丸が、知人とのラインのやりとりでいつの間にか送っていた「まがま」というメッセージ。
本人に送った覚えはないし、そもそも言葉の意味すらわからない。最初はこの出来事に困惑するばかりの大丸だったが同じ現象が何度も繰り返され、しかも真剣な話をしているときにばかり送られるものだから、周囲との人間関係もどんどん悪化していき……。

自分の知らぬ間に他の誰かが自分に成り代わっている。というシチュエーションはホラーでは古典的なアイデアである。
しかし、本作はそこにラインという現代の身近なツールと、「まがま」という意味は分からないが不気味な気配のする言葉を組み合わせた点が新しく、そして面白い。何なんだよ「まがま」って……。

これがただの不条理な恐怖で終わらず、読み進めるうちに「まがま」に隠されたある法則性が浮かび上がるというミステリー的な構成も楽しく、それでいてホラーらしい読後感を残すオチも綺麗に決まっている。
『世にも奇妙な物語』みたいな話が好きな人には間違いなくおすすめの短編です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

こんにちはムー大陸! ありがとう古代文明!

  • ★★★ Excellent!!!

他の乗組員にマグロ漁船から突き落とされて、このまま太平洋の藻屑に消えるかと思われた町田清彦。
しかし、運の良いことに彼はちょうど浮上したばかりのムー大陸に漂着。
さらにますます運の良いことに、かつての住民は皆死に絶えており唯一大陸に残っていた美少女アンドロイドは、大陸浮上後最初に足を踏み入れた清彦に大陸の全権限を与えるというのだ。

かくしてとんとん拍子で一国一城どころか一大陸の主となった清彦。
ムー大陸は古代文明ながらも現代よりも遥かに進んだ科学力を持っていたので、あらゆる欲望を簡単に満たすことができるし、その気になれば世界征服だって可能だ!

……それなのに、清彦はそれまで暮らしていたボロアパートの家賃を心配したり、住民票の移動で悩んだり、新居で飼う犬の購入資金のためハローワークで仕事を探したりと、ムー大陸パワーをまったく有効活用しない!
しかも、良かれと思ってやった行動でいらぬトラブルを次々に発生させる始末。
そんな小市民感覚が抜けない清彦と、甲斐甲斐しく彼の世話を焼くアンドロイドのムーちゃん(命名:清彦)の日常が何とも楽しく微笑ましい。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

探偵は死んだ。だが物語は続く。

  • ★★★ Excellent!!!

楽屋話的な話題で恐縮なのだが、新作特集であるこの「金のたまご」のコーナーとミステリーというジャンルはあまり相性が良くない。

なぜならミステリーというジャンルはオチが命。途中までワクワクして読んでいたのに、ラストでガッカリしたという経験は誰でも一度ぐらいあるだろう。
というわけで新作ミステリーの場合、未完のものがどうしても多くなってしまうため、途中まで面白かったとしても紹介するのが少しためらわれてしまう。

そういった前振りをした上で、あえて今回はこの未完のミステリーを紹介したい。
「お客様の中に、探偵の方はいらっしゃいませんか?」という台詞から始まる導入。
現在高校生、元・名探偵の助手という主人公の設定。彼と依頼人の小気味良い会話の応酬。そして「あんたには、私が探してる人を、探して欲しいの」という奇妙な依頼内容……

といった具合に、どの要素をとってもレベルが高く読者の興味を強く惹きつける内容になっている。

まだ完結していないので、本作を最後まで読んだ時にどんな感想を抱くかはまだわからない。
もしかすると「騙された……」と思うこともあるかもしれない。
しかし、現時点での本作に対する思いは「騙されてもいいから、早く続きが読みたい!」だ

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

もしラノベ好き高校生が男女の貞操が逆転した世界に転移したら

  • ★★★ Excellent!!!

ライトノベル好きの高校生、草鹿創平はある日、男女の貞操が逆転した世界に転移してしまう。
電車に乗れば痴女に身体をまさぐられ、体育の時間になると女子は目の前で平然と着替え始め、女子と話慣れてない男子高校生が「清楚系ヤリチン」呼ばわりされる、シュールすぎる世界だ。
考えようによってはラッキーかもしれないが、この世界にはある一つの問題があった。
ライトノベルがないのだ! 

男女の貞操が逆転した世界では、我々の世界のライトノベルは存在せず、あるのは「平凡な女子高生が大勢のイケメンに惚れられる話」ばかり。
かくして創平は元の世界に戻る手段を探し始める。読み逃した『ゼロの使い魔』の最終巻を読むために……。

というわけで、平凡な男子高校生が気が付けばサークルの王子的な存在になってしまう本作品。オタク視点のあるあるネタが多いのだが、舞台が貞操逆転した世界ということもあって「あるある」の内容に一捻り加えてあ一癖も二癖もある内容になっている。

クセがあると言えば登場する女子も、下ネタ全開だったり中二病だったり自称モテモテギャルだったりと、やたらアクの強い子ばかりが集まっており、せっかく向こうから積極的にアプローチしてくれているのに、羨ましいのか羨ましくないんだか判断が難しいところだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)