夏である。思えば小説には、季節感のある作品も無い作品もある。カクヨムでは連載形式で作品を投稿することがほとんどだから、それなりの規模の作品ならば、季節をまたいで連載されていることも少なくない。こういう時間感覚のズレはそれ自体がメディアの性質として興味深いものだが、即時、読書体験としての快適さに奉仕するかと言えば話はまた別である。たとえば『七里靴の配達員』は冒頭から吹雪うずまく北極を舞台にするわけだが(北極に季節も何もないかも知れないが)この時期にこういう描写を見ることは作品のフィクション性をよい意味で高めている気がするし、一方で7月を舞台とする『ライオンリリィのロボコンデイズ』にはほのかな暑気とともに時期的な臨場感が伝わってくる。小説の読書は、その場にいながら読者に旅行をさせてくれる体験ではあるのだが、一方で、読書体験というものが読者の身体感覚と不可分であることも改めて感じさせられた。

ピックアップ

落ちこぼれ高専生たちが、ロボットコンバットに賭けた夏

  • ★★★ Excellent!!!

この作品を取り上げたのは実に夏(休み)らしいと思ったからだ。

実際に七月が舞台だからそれは当然なのだが、本作では高専のロボット同"攻"会の活動の様子が描かれる。
カクヨム利用者の平均年齢や中央値がどうなっているか私は特に知らないのだが、大人になると長期休みというものは基本的に無くなる。
だいたい高校までは一ヶ月で、もし大学に行けば二ヶ月になり、働くようになると急にゼロになる。社会は厳しい。

そんな中で、これはロボットに限ったことではないが、何かに打ち込んだ青春というものはとてもノスタルジックな対象となる。
そこに、専門的な題材と甲子園的な大会があれば、これはエンターテインメントの格好のネタだ。

「やーこ、フレーム製作はいつから?」「7000系のアルミ、まだいくらか残ってただろ。明日から取りかかるよ」
「うん、お願い。CADデータは作ってあるから、あとで送るね」
といったやり取りには、甘酸っぱさとロマンと専門性が同時に感じられる。

肝心の彼らとリリィの"ロボットコンバット"での活躍、そして出場への道がどのようなものであったかは本編でのお楽しみ。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

その"誰よりも足が早い配達員"は、数多の災厄から人類を救っていた――

  • ★★★ Excellent!!!

この作品は、実は、本編的な前日譚が存在している。
したがって本来ならそちらを取り上げればよいという気もしたのだが、こちらから読んでも十分に成立するので、新しいタイトルを紹介することにした。まあ別によい。この作品から入って本編に戻ればいいだけのことだ。

めちゃくちゃ面白いし、どの道、ちょっと読んだらそうすることになるだろう。
あくまでも本作の紹介を少しだけすると、これは、次元の狭間に存在する運送会社「フェニックス運送」と、その配達員である「メチャ子」を主軸とした物語である。
彼女らのミッションは、いかなる荷物であろうと・必ず指定時間までに・どこへであろうと届けること。

なるほどそれに伴う労苦はさながら秘境の冒険譚がごとく。
私は配達員のことを尊敬しているので、彼らをテーマとする物語にはどうしても惹かれてしまうが、配達員に興味がない人ですらこの冒険譚には目を引かれてしまうだろう。

しかも今なら、仄めかされた「幻想雛壇の第九階層」をめぐる事件の物語がすでに完結した形で用意されているのだから、なおワクワクしてこないだろうか?

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

身近なテーマを言葉通りに読んでいったら、なんか怖いことになっていた

  • ★★★ Excellent!!!

本作は五分以内に読み終われるような一話完結型のホラー掌編集である。
本年6月6日以降なんと毎日更新されており、酷暑の夏休みに読むにはまさにうってつけのコージィ・ホラーだ。

お題がいろいろあるだけでなく、使われる小説の技法もさまざまで、ショートショートの技術集としても楽しめる。
たとえば「擬態」は、虫の擬人化を利用した叙述トリックの作品としてその典型的な一例と言えるだろう。

引き算のイメージを実例でやってみたらたいへんなことになった「算数は嫌い」は、言葉を使った(あるいは取り違えた)小SFネタとして薄ら寒いものがある。
こういうのはどちらかというと知的なパズル要素が強いものであるが、なかには「こっくりさん」のような伝統的ホラー題材を取り上げたものもある。

とはいえそこはありふれたイメージを描くのではなく、むしろこっくりさんをする人間の方が……というような目先を変える工夫が効いている。
私が好きなのは罪を吸う「黒い蝶」の話だが、この取り揃えならばあなたのための小咄に出会える可能性も少なくないことだろう。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

一週間後に死ぬには惜しい、尊すぎる美少女ゲーム的日常

  • ★★★ Excellent!!!

およそ物語といえば一通の手紙から始まるものだ――
と言えばさすがに言いすぎだが、この道具立ての横綱感に異を唱えるものは少ないだろう。

それがたまたまラブレターだったとしたら青春物語が始まるには十分だが、差出人が謎の転校生で、しかも実は天使らしく、その上なぜか主人公が一週間後に死ぬことを宣告してくるとなると、これは過積載感が否めない。
まさに「よくわからんが神様からの課題をこなさないと死ぬらしいので全力でクリアする」しかないのである。

ところで本作の魅力は、何の変哲もない高校生のもとに事件が舞い込むところというよりは、むしろ美少女ゲームっぽいところである。
アドベンチャーゲーム的な場面移動・日付変化を出来事の契機としつつ、起きるタスクをこなしていく淡々とした感じには、文体もあいまってノスタルジックな気持ちよさがある。

また美少女ゲームの主人公らしく、なぜかメイドルックの萌え妹が自分になついていて、うっかり二人で皿洗いを始めてしまうその風景の穏やかさが、一見しただけでは分からない本作の根底的魅力になっているのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

"狂イ"というにはあまりにも高貴な万年筆随想

  • ★★★ Excellent!!!

PC・スマホ時代になって、めっきり文房具にこだわる人も減った中、その雅なこだわりが実によく味わえる一編である。

単純によく知らない万年筆の世界について知識を深められることもさることながら、万年筆へのあふれる愛情を、まさに万年筆で書いたように端正かつつややかに綴られた文章の感じが、読んでいて実に気持ちいい。
まさにエッセイとはこういうものだ、と思わされる。

「メンテナンスを文章で語る意義は薄い。動画を参照するのが一番である」と言うほど、基本的には「機能的」な部分の紹介に終始しているはずなのに、その独特な味わい深さは、さながらよくできた紀行文を読んでいるかのよう。
「ペン先は深淵な万年筆の世界でも特に奥が深い。とにかく金でできた万年筆が持つ夢のような書き心地を堪能することなしに死んでしまうのは勿体ない」と言われれば、なるほどそういうものかと思わされる。

万年筆を持つだけでこういう気品をまとえるのなら安いものなのだが……。
もっとも、その「万年筆を持つ」ことが一筋縄で行かぬことを教えてくれるのも本作なのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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