カクヨムのようなサイトで、連載作品をリアルタイムで追いかけるのは何物にも代えがたい楽しみがあります。しかし、そんな楽しみにしていた作品の更新が滞りがちになったり、あるいは突然更新がパタリと停止したり……。のっけから不吉なことを言ってしまいましたが、皆さんもこんなケースを一度や二度は経験したことがあるはずです。そして昔の人はこんなことも言いました。「終わりよければすべてよし」。始まりや途中経過も大切ですが、大事なのはいつだって終わりです。道中でどんなに面白そうな風呂敷を広げようが、その風呂敷がたたみ切れなかったら読者はガッカリしちゃうものです。そんなわけで、今回は連載中の作品ではなく、きっちり完結していて、さらに最後まで面白い作品をピックアップしました! どうぞ最後までお楽しみください。

ピックアップ

三つの物語が調和する大脱走SF

  • ★★★ Excellent!!!

舞台となるのは天才科学者たちを集めた国立総合科学研究所……という名の刑務所。
刑務所といっても生活に不自由はないし、研究活動も好きなだけできる。ただ外に出るだけは認められていない。
そんな刑務所の中に閉じ込められていた科学者の一人、織田輝男はそこから脱走を企むのだが、ただの脱走ではない。
研究者200人全員を巻き込んだ大脱走だ。

しかも彼らの脱走の目的地は、幻の大陸アトランティス!

この輝夫の語り口調が大変軽妙で読みやすく、さらにエピソードを短く区切っていくので大変テンポよく読み進めることができる。
個人的にはSF作家カート・ヴォネガットの小説を思い出しました。

この輝夫と仲間たちの脱走計画だけでも十分に面白いのですが、本作はそれ同時に、アトランティスで暮らすスケイプという少年の物語、そして謎の人物が書いた輝男の過去を書いた伝記が同時進行で綴られていきます。

最初はバラバラに見えたこの3つの話が、物語が進むにつれて絡まり一つの物語に収束するという構成は実にお見事!

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

ゴーレムを通じて、言葉と心の意味を問いかける言語SF

  • ★★★ Excellent!!!

物語の中心となるのは、土から生まれ人間の代わりに様々な仕事を行うゴーレムたち。
ゴーレムと聞くとファンタジーのように感じられますが、本作はれっきとしたSF作品。
伝承で語られる設定を上手く取り入れ、そこから本作独自の要素を加えて、この作品ならではのオリジナルのゴーレムを作り出しています。

人間の命令を理解して行動することのできるゴーレムたち。
言葉が通じるということは、彼らに心はあるのか? そもそも心とは何か? 
そんな話を「中国人の部屋」などの思考実験を引用しつつ展開していきます。

とはいっても、そこまで小難しい話ばかりではなく、ストーリーはしっかりエンターテイメント。

ある日、暴走したゴーレムに襲われた13歳の少女・ナーナ。そこに現れたのは、死んだ兄と同じ顔をした一体のゴーレム。
しかもこのゴーレムは普通のゴーレムと違い言葉を発することができる。

果たしてこのゴーレムは何者なのか? そしてなぜナーナは襲われたのか?

ゴーレム同士の戦いなどの、アクション要素も散りばめながら物語は進んでいき、徐々に真相が明かされていくストーリーは読んでいてたまりません!

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

予想外の領域から読者に切り込む新感覚ミステリー

  • ★★★ Excellent!!!

ミステリーというのは、途中経過がどんなに面白くても結末次第で読者の評価がガラリと変わってしまう、シンプルでありながら難しいジャンル。
本作はそんなミステリーの面白さがギュッと凝縮された作品です。

生徒会長からの依頼で、学校の女子生徒が襲われた事件を調べることになった主人公。
だがその数日後、調査を依頼してきた生徒会長が学校の屋上から飛び降りてしまいます。
そして亡くなった会長から主人公に一通の手紙が……。

これをきっかけに物語は急加速、次々に起こる急展開の数々。
中でも事件に隠されていたある異常な要素が判明してからの展開は圧巻!

最初は普通の学園ミステリーのように見える本作ですが、読み進むにつれてどんどんその姿を変えていき、最終的に思いもよらない結末へ読者を導きます。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

運命の恋人は学園の中に!? 前世の謎を解き明かす青春ミステリー

  • ★★★ Excellent!!!

高校生の鳴瀬琴葉は、ある日偶然に前世の記憶を見てしまいます。
その記憶は自分が事故に遭って死ぬ寸前のもので、しかも自分だけではなく、恋人も死にかけていていました。死にかけた恋人の言葉によれば、二人は十五年に今琴葉が通っている高校で再会するということでした。
この記憶を見てしまった琴葉は、彼と再会するためオカルト研究同好会会長に協力してもらいます。

犯人を捜したり、宝物を捜したり、迷い猫を捜したりと、謎を解決するために色んなものを捜すのがミステリーというジャンルですが、本作で捜すのは前世の恋人。
こう設定が目新しいと奇を衒っただけの作品に思われるかもしれませんが、本作の場合そんな懸念は無用です。

終盤で書かれるどんでん返しの連続はびっくりすることまちがいなし!
しっかり満足のいくミステリーに仕上がっています。

また真実に近づくにつれて、前世の自分と今の自分、どちらの気持ちを優先するのかという琴葉の葛藤も描かれ、ただのミステリーに終わらずラブストーリーとしても読みごたえ充分!

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)

あなたの人生をこれ一枚に。

  • ★★★ Excellent!!!

フロッピーディスクというと最近の若者はワードやエクセルの保存ボタンでしか見たことがないかもしれませんが、昔はそういう記録媒体があったんですよ。
保存容量が小さいものだから、ゲームを一本インストールするために十枚以上のフロッピーを入れては抜いて、入れては抜いて……
そんな老人の昔話はいいとして、本作はその懐かしのフロッピーディスクを題材にした一作。

ある日、仕事中に一枚のフロッピーディスクを見つけた主人公。
興味本位で家に持ち帰り、中身を見てみるとそこには「おれ」という名のテキストファイルが。
そこには主人公のこれまでの人生の内容が細かく記録されていた。

それを見た主人公は今日失敗した仕事の記述を修正し、上手くいったという内容に書き換えると、現実でも自分のミスがなかったことになっており、これを皮切りに主人公はこれまでの人生を思うままに書き換えていくのですが……。

全4話と短いながらも、設定はシンプル、起承転結もはっきりして、文章も読みやすく、オチもバシッと決まっており、短編のお手本にしたいような一作です。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)