人狗草紙――水神の詫び証文――

　世界の東方海上に、日出というその島国はあった。日出には、天狗から異能を授けられた放浪の武芸者――人狗たちがおり、古来のしきたりによって神霊と人間の仲介者を務めていた。
　鳳至山の大天狗――太郎坊の弟子、＜鳳至童子＞こと人狗の紀政綱は、友人の草紙書き雲景と、龍宮巫女の＜望月の君＞と共に、ひと月ほど旅をしていた。恋人である＜望月＞の言いなりで、人狗にあるまじきただ働きに精を出していた政綱は、日出国西半の島――西洲のとある山間地域で、盗まれた宝剣を取り戻すことに。
　首尾よく剣を奪回した政綱は、神事の廃絶した神社で四人の子どもに出会う。やむを得ぬ事情でご機嫌斜めの＜望月＞に半ば強制され、政綱はその瘦せこけた子どもたちに無償で協力することになった。
　そうして政綱は、一点の偽文書にまつわる、日出国政治史の裏面を垣間見るのだった。